第227話 好き勝手にはさせぬぞ
「よ、よおし。今日はここで休憩するぞお」
空元気をあげ右腕を上にあげたら、すかさずマルーブルクから指摘が入る。
「獣人の戦士はどうするんだい?」
「……寄宿舎を建てるよ」
すっかり忘れてたあー。
ところが、ワギャンが首を横に振りふさふさした指をピンと立てる。
「無しでいい。彼らはちゃんと野営の準備をしてきている」
「でもそれは」
「慣れた所の方がゆっくり休めるということだ」
「そうかあ」
「ふじちまの好意に戦士たちは至く感激していた、とリュティエから言伝を受け取っている」
パチリと片目をつぶり、耳を頭につけるワギャン。
「分かった。彼らにはこの付近で野営してもらおう」
「僕らは元々半遊牧生活をしていたんだ。野営も生活の一部に過ぎない」
「うん。俺たちは中に入ろうか」
「だな」
ワギャンとお互いに笑顔を向けがっしと手を叩き合う。
俺とワギャンに他のみんなが続く。
中は外観とはうってかわって近代的な作りになっていた。
俺がそうしたわけじゃなく、クラッシックハウス「七重塔」の内装が元々こんなのだったんだよ。
右隅にエレベーターもあるから、登る時には楽だ。
一通りみたところ一階と最上階の七階は大広間になっていて、他の階は会議室のような部屋が整然と並んでいることが確認できた。
「二階を居住空間にしようか」
「そうだね。二階なら階段も使いやすい」
マルーブルクが同意するのと同じように他の人からも特に反対する声はあがらなかった。
◇◇◇
二階の整備が終わったところで、再度ワギャンに問いかける。
「ワギャン、二階もまだまだ部屋が余っているし、三階と四階を大広間にでもして、そこですごしてもらおうか」
「そうだな。部屋割りや寝具は無しでいい。中で火を焚いてもいいのか」
「コンロじゃだめかな。焚き火するなら外の方がいいと思う。煙がな」
「わかった。リュティエが来たら伝えておく」
いつもと比べ、七重塔は遥かに広い。
何しろ一戸建て住宅と違ってビルみたいなもんだからな。床面積が段違いなんだ。
内装を見ればどれくらいの居住空間が確保できるかすぐに分かるものなんだけど、ハウジングアプリの仕様上、クラッシックハウスは外観しか見えないからなあ。
開けてびっくりはいいけど、計算してやるとなると建ててから内装をカスタムするのが確実だ。
無いとは思うが、中ががらんどうだとしても文句は言えない。
「ふじちま。僕は最上階に行く」
上を指さしたワギャンが言葉を続ける。
「俺も一緒に行くよ。先に外の様子を確認したい」
うんうんと頷きエレベーターの方へ向きを変えたら、タイタニアがエレベーターのスイッチへそろりと指先を伸ばしていた。
「タイタニア。それを押して」
「うん」
タイタニアがぽちっと三角形のボタンを押す。
うおおおんっと音が響き、すぐにエレベーターが一階に到着した。
◇◇◇
そんなわけでやってまいりました最上階。
七重塔だけに最上階は七階である。
……と、ともかく。
さきほどチェックした通り、最上階は仕切りの無い大広間になっている。
東西南北に大きな横開きの窓があり、どの方向からでも外を観察することができるようになっていた。
さっそく、クリスタルパレスでも見るかと窓際に向かうと、みんな同じ動きをしたのが少し面白くて声を出して笑いそうになってしまう。
「んー。元々丘の上から見ていたから、思ったほど景色は変わらないな」
最上階から見下ろすクリスタルパレスの様子は、絶景ではあるが新たな感動は生れなかった。
元々見晴らし抜群の丘からクリスタルパレスとクリスタルレイクを見下ろしていたからなあ。
「どうだい、ワギャン」
「思ったより早いな」
「ふうん。彼らにしては珍しいね。よほどこの塔がお気に召したのかな」
呑気な事を考えている俺とは違って、ワギャンとマルーブルクが何やら言葉を交わしている。
目を凝らしても俺には何のことやら分からない。
「フジィ、双眼鏡を使ったらどう?」
「それだ!」
まさかタイタニアに指摘されるとは……ともかく、双眼鏡を構え目線を下に向ける。
「ふじちま、もっと右だ」
「えー、どれどれ」
「違う、もう少し」
「ヨッシー。別にキミがしっかりと確認しなくても大丈夫だよ」
ワギャンのアドバイスに、あれよあれよと双眼鏡を動かしていた俺を見かねたマルーブルクがポンと俺の肩を叩く。
ま、まあいい。
双眼鏡を目から離し、ワギャンに尋ねることにした。
「何が見えたんだ?」
「騎竜に乗った兵士だ。数は三」
向こうが動きを見せなかったらどうやって揺さぶろうかとかまで考えていたんだが、建築してすぐにやって来るとは。
「この塔を見て、慌てて偵察に来たってところかな。表に出た方が良さそうだね」
「全員で出る?」
「うーん。ボクと姉様の二人がいいかな。キミは中で待機ね」
「えー」
「不満そうだね。キミのことだから、姉様やボクの発言が気になるってところかな」
その通り。
俺がいないのをいいことに、また恥ずかしい称号やなんかを語っちゃうんだろ。
そいつはお断りだ。俺はもうタンテイ・タワーで懲りた。
これ以上、変な称号を付けられてたまるもんかああ。
「全く、別に変なことを言うわけないじゃないか。ねえ、姉様?」
マルーブルクの呼びかけにぼーっと外を見ていたフェリックスの肩がびくうっと動く。
自分が呼びかけられるなんて思ってもみなかったのだろう。
「は、はい?」
「公国の兵が来ている。姉様とボクで初動対応しようって話だよ」
「はい。お任せください! 良辰様のお力になれるよう、誠心誠意頑張ります!」
「だってさ、ヨッシー」
きたねえ。
純真なフェリックスを前に出して誤魔化そうたってそうはいかねえんだぞ。
お、そうだ。
こんな時こそ、文明の利器。
ご存知の通り、ハウジングアプリで建築した家にはモニターを置くことができる。
住居用のクラッシックハウスのほとんどにはモニターが最初から設置されているほど、標準的な装備なんだ。
モニターは自分の敷地内であればどこでも俯瞰して映像を映すことができる。最近余り活用していないけど、こういう時には便利に使うことができるじゃないか。
だけど、欠点がある。
あくまで「観る」だけだから、こちらから「指示を出す」ことはできない。
そこで!
ハウジングアプリお約束の便利グッズの出番だ。
トランシーバーはあったはず。だけど、あれだと目立つよなあ。もうちょっとコンパクトなものが追加されていないか確認しよう。
「何しているの? フジィ」
タブレットを右手に出し、じーっと眺めている俺へタイタニアが不思議そうに首をかしげる。
他の人からタブレットは見えないから、俺が手のひらをずっと見ているように見えるんだよな……。
「どうやって魔力を編むか考えているんだ」
「いつものだね!」
「うん」
タブレットから目を離さずタイタニアに応じる。
お、あった。いいのが。
ふふふ。これで俺の風評は安泰だぜ。
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