第225話 到着到着

 翌朝――。

 フェリックスとジェレミーを加え、ワギャン、タイタニア、フレイ、マルーブルクと車に乗り込む。

 ハト? 奴を車内に入れるわけないだろ……うるさくてかなわん。

 すると、こともあろうに奴は車のボンネットの上で爪を立てはじめやがったんだ。

 「こいつ、新車を!」と慌てて車の外に出たんだけど、普通の車と違うことを忘れていた。

 ハトがガリガリやろうが、ハウジングアプリ産の車は傷一つついていない。

 あんだけひっかいたら塗装がハゲるもんなんだけど……この車、ひょっとしたら派手にぶつけても無傷なんじゃあ。

 なんだかそれはそれで怖気が走るな。いや、今更か。

 そもそも車を動かす機構からして違う。この車はガソリンが必要ないのだから。

 なら、動力源は何なのか?

 分からない。

 たぶん、魔力か何かなのだろう。カラスがそんなこと言ってたし。


「そこにいたら前が見えないだろ、上に移動しろ」

「うっす!」


 ハトは俺の言う事を聞いて素直によちよちと歩き車の上に登る。

 まあこれでいいだろ。


「マルーブルク。助手席に乗ってくれ」

「どこだいそこは?」

「俺の隣の席だよ。道案内を頼みたいからさ」

「そうだね。前の方がいいね」


 マルーブルクを助手席に乗せ、出発する。

 リュティエら獣人の戦士たちは、俺がこれから敷く土地の後ろをついてくることになっていた。


 ◇◇◇


 出発して二時間ほど。

 今回は道を作りながらだから、そこまで速度は上がらない。

 といってもひまわり号での経験から時速50キロはいける。


「マルーブルク、クリスタルパレスまでどんなもんだ?」

「んー、翌日ってところじゃない?」

「結構あるな」

「馬で行っても数日かかるんだよ」

「贅沢行ったらダメだな。うん」

「この車ってやつの速度より、直線で敷かれるキミの作る道が大きい。これで相当時間短縮できているよ」


 確かに。

 これまでグラーフから公国の都クリスタルパレスまで行くには、ウネウネと迂回しつつ進む必要があった。

 途中でモンスターが多発する地域なんかもあったりするし。もういなくなったけど、ゴブリンの集落とかも存在した。


「それでマルーブルク。このままクリスタルパレスに向かうだけでいいんだよな?」

「うん。近くまで来たらそこで拠点を構えよう。そこでちょっかいをかけてみるから」

「うん」

「反応次第で作戦を伝えるよ」

「分かった」


 ザックリと作戦は決めていたけど、細かいところは予想できず流動的になっているんだ。

 調整はマルーブルクに一任していて、みんなそのことに同意していた。

 公国の事情が分かるのは彼だけだし、彼の頭脳は疑う余地がない。

 彼に成せないのなら、他の誰にも達成できないだろう。

 一人に任せるのもどうかなと思ったけど、都度都度彼は俺たちに相談してくれる。そこで意見を交わしているってわけだ。


「マルーブルク。僕はまだ動かなくていいのか?」

「うん。驚かせるなら一息に行こう。まずはヨッシーの魔法でクリスタルパレスを見下ろしてやろうじゃないか」


 後部座席からワギャンがマルーブルクに質問を投げかける。

 対する彼は軽い調子で親指を立て、くすりと笑う。

 

「マルーブルク様、あ、あの」


 今度はタイタニアがマルーブルクに問いかけようとしたが、口ごもってしまう。

 彼女からしたらマルーブルクは雲の上の存在だものなあ。

 一方でワギャンら獣人にとっては、俺と同じで身分差など意識もしないからマルーブルクでもタイタニアでも接し方は同じだ。

 平社員が社長に忌避なく物申すってのは中々難しいものなんだよ。

 

「タイタニア。ボクはサマルカンドの住人なんだよ。もうクリスタルパレス公国の公爵の息子という意識はないんだ」

「で、ですが」


 マルーブルクの言わんとしていることを理解したタイタニアだったが、そうはいってもなあ。

 

「サマルカンドでは身分差なんてない。獣人を見てみなよ。リュティエは尊敬されているとはいえ、みな対等に接しているじゃあないか」

「こら、マルーブルク。タイタニアをあまりいじめないでくれよ」


 思わず口を挟むと、マルーブルクが天使の微笑みを浮かべ「ふうん」とか言ってる。


「タイタニアの聞きたいことは察したよ。これから一体何を行うのか、かいつまんで説明して欲しいってところかな?」

「は、はい」

「少し意地悪だったね。ごめんね、タイタニア」

「い、いえそのようなことは。わたしの理解が及ばずでしたので」

「一度聞いて中途半端に理解した気になるよりは、何度も聞いてちゃんと理解した方が余程いいんだよ。キミの問いは間違っちゃいない」


 マルーブルクが本作戦「夜明けのハト」について説明をはじめる。

 本作戦はクリスタルパレス近郊まで我が道を進め、拠点を作るという単純なものだ。

 向かう途中でクリスタルパレス公国兵に止められたとしても無視して進む。

 もっとも……こちらに声をかけようにもこの速度だし、無理だろうけどね。

 声をかけるのは無理と判断して、そうはいかんと前方を兵士に遮られてたとしても止まらず進む予定だ。

 前方に何か生き物がいたとしても、俺が土地を購入すると外に弾き出される。

 もし弾き出された勢いで彼らが転んでしまったとしても、擦り傷くらいはつくかもしれないけど大怪我とまではいかないだろうし。

 馬なんかに乗っていたら話は別だけどね。

 そんときはちょっとばかし迷うかもしれない。落馬事故は大怪我に繋がるからな。


「……とまあ、こんなところさ」

「ありがとうございます」


 マルーブルクの説明が終わり、タイタニアが謝辞を述べる。


「そのような作戦名だったのですね」


 いままで押し黙って話を聞いていたフェリックスが口を挟む。


「作戦名はいつもながら、ヨッシーのセンスの無さが光るね」


 マルーブルクが小生意気に眉を寄せ大袈裟に肩をすくめた。


「……なんかこう意味の分からない作戦名で相手に悟らせないというか」

「そうだったの? 珍妙な作戦名で話題性を狙ったのだと思っていたよ」

「そ、そうだったんだよお。ははは」


 ほほほ。そうなんだよ。

 本作戦は相手に知られることが肝要。

 何故なら「サマルカンドここにあり」とクリスタルパレスを震撼させる必要があるからだ。


 誰も侵入できぬ道を進み、一瞬にしてクリスタルパレスを見下ろす建物が出来た。

 ハウジングアプリを知らない者からしたら恐怖以外抱かないだろう。

 脅すのは好きではないが、相手を交渉のテーブルにつかせるために力を見せる。

 これが「夜明けのハト」第一段階だ。

 

 第一段階成功のためには、俺の建てる建物が鍵を握っている。

 

「どんな建物にするかだなあ」


 派手に行こうと言われているが、この前のザ・タワーみたいなのはやりすぎだろうし。

 グラーフ近郊にある塔だとしょっぱい。

 

「どんなのがあるの? 高さはそうだね、グラーフにある建物の二倍から三倍は欲しいかな」


 すかさずマルーブルクが俺の呟きに反応する。


「それくらいがいいのかなあ。大きさもどうするかだな」

「余りに巨大な面積を持つ建物は扱いずらいよ。ほどほどにね」


 ほどほどって言われたら、難しいぞ。

 ほら、考えてみろよ。

 今晩の料理何がいいと聞いて、適当にって答えられてみろ。何を料理したらいいか迷うだろ?

 それと同じだ。

 

「ま、行ってから考えるといいか」


 ぼそりと呟き、黙々と車を運転する俺なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る