第166話 追いついた
「車輪が回ってる!」
「うん。こいつは魔力で動く魔道具なんだ」
「お名前とかあるのかな?」
「うん、ビックスクーターといってバイクの一種なんだけど」
「バイク?」
「え、えっと。車輪が二つの乗り物をバイクと言って、ビックスクーターは二人乗りのバイクなんだ」
「へー。すごいね!」
タイタニアがビックスクーターの黄色いボディへペタペタと触れた。
動き出したところだけど、すぐに停車させ後ろに座るタイタニアへ目を向ける。
「どうしたの? フジィ」
「ごめん、大事なことを忘れてた」
まだ十メートルくらいしか進んでいないから、そのまま徒歩で宝箱の前までテクテクと歩く。
タイタニアも後ろから俺についてきている。
バイクに乗るなら、ちゃんとつけなきゃいけねえものがあるよな。ここは日本じゃないから交通ルールなんてもんはないけど、転倒する可能性もあるし……。
タブレットでささっと注文し、宝箱の中を覗き込む。
「帽子?」
「どちらかと言うと兜だな。ヘルメットって名前なんだ」
ビックスクーターのボディと同じメタリックイエローのヘルメットを二つ取り出し、片方をタイタニアに手渡す。
「こうやって、ベルトでヘルメットを頭に固定するんだ」
「うん……」
「あ、そのままで」
悪戦苦闘しそうな雰囲気だったタイタニアの手を止め、俺が代わりに彼女のヘルメットのベルトを締める。
「これでよし」
「硬いんだね。ツルツルしていて不思議な感じ」
「頭を護るものだから、薄いけど結構頑丈なんだ」
「兜の代わりにも使えそうかな?」
「ど、どうだろう……」
剣で斬られても平気なのかは分からないな……衝撃には強そうではあるが……。
それよりなにより、黄色ヘルメットで戦場に立つなんて酷すぎる。
「ご、ごめんね。戦いをするつもりじゃないの」
「い、いや。突然何が起こるかなんて分からないし。剣は持っておいた方がいい」
「うん! あ、フジィ」
「ん?」
「魔道具の乗り物がずっと唸っているけど大丈夫?」
「問題ない。じゃあ行こうか」
タイタニアの手を引き、再びビックスクーターに跨った。
◇◇◇
タップをしながら進むこと二分ほど。
よし、もう少しスピードをあげてもタップするに問題無さそうだ。
「タイタニア。少しスピードをあげるよ」
「うん!」
タイタニアが俺の腰をギュッと掴む。
道なき道に、道を作りながら進むぜ。
なんて言ったら、割にカッコよく聞こえないか? やってることはとても地味な作業とか突っ込んじゃあいけねえぞ。
ぐぐぐっと加速したら、生き物と違う体験したことのない動きに驚いたのか、タイタニアの俺の服を掴む手に力が籠る。
俺にとっては馬の方がよっぽど怖いけどな……。
只今の時速は四十キロ。大したスピードではない。
もう少し速度をあげても余裕かな。ふふふ。
なんて思っていたら五十キロを超えたところで限界を迎える。
俺の目は充分追いついているんだけど、タブレットの方が追いつかなくなってしまった。
タブレットの操作を簡単に説明すると……。
作業前に土地購入画面に遷移させておく。最初に風景を映しこみ、次に決定をタップ。
すると、一瞬で我が土地に変わるのだ。その場で範囲を指定することもできるけど、連続でタップしていくために範囲は固定で縦五メートル、横二メートルにしている。
決定をタップした後は、「続けて購入しますか?」と出て来るので「はい」をタップするんだ。
そんでまた最初に戻る。
そんなわけで五メートル進むまでに次の土地を購入し実体化させないといけない。
スピードが増して来ると、タップするのが間に合わなくなってくるってわけだ。範囲を縦十メートルくらいまで伸ばしたらもう少しいけるかもしれないけど……風景の映しこみがシビアになってくるから難しいところだ。
「すごいね、馬くらいの速さになるんだね! こんなに硬い甲羅の魔道具が」
「おー。実はもっと速度は出るけど、道を作る魔術を同時に使っているから」
「魔力は大丈夫? 疲労で倒れないでね」
「問題ないさ。魔力じゃあなくて、(スピードを出せないのは)俺の作業速度の問題だからね」
ダチョウとか犬の中でも最速のグレイハウンドだと時速七十キロくらいは出るらしい。
馬だとサラブレッドでだいたい六十から七十キロってところ。
そう考えると人を乗せて走る馬が五十キロを出せるのってすげえよな。といっても動物だからずっと同じ速度で走るってわけじゃあないけど。
ワギャン達はどこまで行ったんだろう。
ロンは走って戻って来ていたから、ここからそう遠くは離れていないと思う。
「いたよ。あそこ!」
「乗り出すと危ないぞ」
タイタニアが俺の肩に手を置き、反対側の手を前に指し示す。
彼女は俺の注意を素直に聞いてくれて、元の姿勢に戻る。
「危ない」で思い出したけど、ヘルメットも要らなかったよな……。何故なら我が土地は「絶対安全」なのである。
時速百キロで投げ出されようが、怪我はしないはずだ。
我が土地の中ならば、剣で斬りつけても傷一つつかないのだから。
絶対安全って改めて考えなくても、物凄いチートぶりだ。
もう何度目か分からないが、「絶対に外に出るものか」と心の中で誓うのだった。アーメン。
真っ直ぐに進んで行くと、数分もしないうちにリュティエとワギャン、シロクマさんの背に乗せられてたロンと落ちあうことができた。
「ロンは? やっぱり怪我をしていたのかな?」
「あ、ああ。そうだな。怪我をしていた。だが、急を要するほどじゃない」
ワギャンがぎこちない仕草で親指をグッと前に突き出す。
竜人の表情はよく分からないけど、シロクマの上からこちらを凝視しているロンが硬直している。
痛みに歯を食いしばっているのかもしれない。口吻の奥の方から低い声を出しているからさ。
一方でリュティエもロンと同じように固まったまま、目を見開いている。彼も怪我を?
「ふ、ふじちま殿」
リュティエが食い入るように俺の名を呼ぶ。
「大丈夫か? もしかして道中で何か?」
「何かあったのですか!?」
「いや、俺の方は……」
どうもリュティエと話が噛み合ってないな。
「フジィ」
「ん?」
タイタニアに後ろから肩をポンと叩かれる。
「たぶん、この子(バイク)のことで驚いているんだと思うよ。ロンのことを伝えることも忘れるくらいに」
「そ、そうなのか?」
うんうんと全力で首を縦に振る三人。
「その魔獣はふじちま殿の使い魔か何かなのですかな?」
「低い唸り声をあげているが……」
「あんま大きくないのに力持ちなんだな! それにすごい速度で走っていたし!」
だああ。一度に喋らないでくれ。
何を聞かれたのか分からなくなってくる。
「こいつは魔道具なんだ。魔力で動くゴーレムみたいなもんだ」
「ゴーレムですか……確か魔族が使うとか言っておりましたな。ふじちま殿は魔族の魔術にも精通しておられるのですな」
「ガーゴイルとは性質が違うけど……似たようなもんかな」
俺は説明することを放り投げた。すまぬ、リュティエ。
動力で動く機械って観点で見ればガーゴイルとバイクも似たような……いや、似てはいないけど、結果は同じだ。
あっちは遠隔操作ができるみたいだけどさ。
ガーゴイルを通して風景も見ることができるし、作業もできるってなかなかすごいよな。
「魔道具なのか! すげえな!」
シロクマから降りて来たロンがビックスクーターの黄色のボディへしげしげと目を向ける。
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