第162話 連絡のスピード感
リュティエとワギャンの二人と肩を叩きあった後、改めてリーメイへ目を向ける。
俺と目が合った彼女は真っすぐに俺を見つめ返してきた。
「何度も言っちゃって悪いけど、竜人と獣人の事情は分かった」
「はい」
不安気にまつげを震わせるリーメイ。
そらまあ、俺は竜人であるリーメイとロンの前で獣人であるリュティエとワギャンと仲良く肩を叩きあっていたからな。気持ちは分からんでもない。
だが。
「荒地が不測の事態に見舞われているのだろう? 俺に何とかできるか分からないけど、手伝わせて欲しい」
「え?」
望外の言葉だったようで、リーメイの声が上ずる。
事情を把握していないロンでさえ、驚きの唸り声をあげた。
「誰がとか何が悪いなんてつまらないと思わないか? 困っている人がいる。自分が何とかできるのなら、助けたい。そんなにおかしなことかな?」
「メシア……大いなるあなた様の慈悲に感謝いたしま……す」
最後の方は涙声で言葉になっていないリーメイ。
「荒地で何が起こっている?」
「火の玉が降り注いでいます。火災で家が焼け……」
「竜人の集落にまで火山の影響が?」
「はい。常に降り注いでいるわけではありませんが……山の怒りは竜人を追いかけてきたのでしょう」
「何か山の怒りを引き起こした原因があるのかな?」
「いえ、特には……我らは龍神だけでなく山も祀っております」
俺は山の怒りってのは単なる自然災害なんじゃないかと踏んでいる。
龍神グウェインは実在するが故に崇められているけど、火山は違う。
地球だと人々は大いなる自然に対し、神聖を見出し信仰してきた。
太陽神とかがその最たるものだし、日本には山の神のことも語り継がれている。
溶岩によって熱く熱せられた小さな石や岩は、水蒸気によって空高く舞い上がる。
そいつが地上まで降って来たのが火砕流……リーメイの言うところの「火の玉」ってわけだ。
雨と違って高温だから、可燃物と接触すると燃える。
「火の玉を何とかすれば、今抱えている問題は解決しそうかな?」
「はい。火の玉が来なくなれば、収穫量が元に戻るまで眠れば凌げます」
腕を組み、リュティエへ目配せした。
彼は穏やかに頷きを返し、髭を揺らす。
よっし。
やってやろうじゃねえか!
「その火砕流。俺が差し押さえる」
「火砕流……とは火の玉のことでしょうか」
「そうだとも。リーメイ」
「は、はい」
「俺の魔術で火の玉が集落へ来ないようにする。いや、農地もあるんだったな……君たちの生活範囲の外へ火の玉を追いやろう」
「そ、そんな夢物語を……まさか、本当に……?」
タイタイアが、ワギャンが、リーメイに笑顔を向ける。
微塵も不安を感じさせない俺たちに対し彼女は、切れ長の目をパチクリさせた。
我が土地で竜人の集落を覆うだけの簡単なお仕事だ。
ゴルダは唸るほどある。
やることはシンプルなんだが、どうやって実行するかが要相談かなあ。
「リーメイ。ロン。俺の魔術で火の玉に対する盾を作る。だけど、竜人達にどう説明し実行するのかを相談したい」
「は、はい。メシアの大魔術……どのようなものなのか想像もつきませんが……」
「そうだよな。まずは俺の魔術と具体的にどのように火の玉を防ぐのか説明しよう」
リーメイに我が土地のことを説明した。だけどやはりと言うか何というか……彼女は我が土地の絶対防御に首をかしげるばかりだ。
そうだよな。余りの荒唐無稽さに想像が及ばないよな。うん、俺だって自分が聞かされたら「なんてご都合主義なんだ」と万能過ぎて逆に疑うよ。
「ふじちまの魔術は、神龍のブレスだろうが通さない」
「そうでしたな。あの空を舞う天空王の水魔法でも平気でしたな」
「飛龍が一瞬で消し飛んでいた。地形も変わった。だが、ふじちまの壁はビクともしなかった」
壁の威力をワギャンとリュティエが補足してくれるけど……逆にリーメイだけじゃなくロンまで完全にドン引きしてしまったじゃねえか。
こう、もう少しソフトな事実を述べたほうが良かったんじゃないのか。
◇◇◇
――三十分経過。
最終的にプライベート設定を行っている我が土地へ向け、ロンに思いっきり小石を投げてもらうことで我が土地の絶対防御のことを理解してもらった。
小石とグバア水爆じゃあ威力に雲泥の差がある。だけど、結果として返ってくる反応は同じだ。
ロンはともかくリーメイはまだ半信半疑と思う。
といっても藁にも縋る思いの竜人達にとって僅かでも可能性があるのなら、協力は惜しまないのでは……?
現にリーメイは竜人達に渡りをつけてくれることを約束してくれたしさ。
本作戦において一番の難点は竜人達の説得だ。
獣人ならともかく、見たこともない種族である人間がズカズカと竜人達の住処に入っていくわけなんだからな。
「助かるかもしれませんよ」と言ったところで、即答で「はいそうですか」とはならない。
「竜人達との取り決めは私が責任を持って行います」
「厳しそうなら俺も協力する」
「いえ、私が必ずや話を持ち帰ります!」
竜人達の目の前で見えない壁の絶対防御を見せれば話も早いと思ったんだけど、リーメイは頑なに自分が何とかすると拘っているようだった。
そんな彼女に対し、俺はそれ以上何も言えず、彼女の戻りを待つこととしてこの場は解散となる。
竜人達の事情を顧みるとあっさりと受け入れてくれる可能性が高いけど、拗れるかもしれない。
待ってるからな。リーメイ。
◇◇◇
ぼんやりと椅子に座り缶コーヒーに口をつけていたら、向かいに座ったタイタニアと目が合う。
「ん?」
あれ、いつの間にかリュティエとワギャンの姿がないぞ。
はて?
「二人は狩りに出かけたよ。ワギャンはハトさんに乗って川まで行くって」
「リーメイの戻りを待つつもりで、動いていなかった」
二人に悪いことをしちゃったなあ。ハウジングアプリで注文をすればすぐに食材が出て来るんだけど……。
「ううん。リュティエさんもワギャンもいつもフジィに助けてもらっているからって言ってたよ」
「この前も三人に狩りしてきてもらったじゃないか」
「私はフジィからたくさんのモノをもらったよ。だから、フジィにお礼がしたいの。たぶん、ううん、きっと二人も同じだよ」
「お礼」って言葉にタイタニアと初めて会話を交わした時のことを思い出し、ドキリとする。
何かおいしい食べ物を俺のためにって二人が考えてくれたんだな。その気持ちだけでも胸が熱くなるよ。
「そっか、うん。ありがとう」
「うん! フジィはお礼が嫌なのかと思っちゃった」
「え? そんなことないって」
「お礼ってわたしが言った時、フジィが目を逸らしちゃったから」
「嫌だって気持ちじゃあないから、誤解させちゃったな。ははは」
頭の後ろに手をやり、誤魔化すように変な笑い声をあげてしまった。
「演技だったんだよな……」
「何のこと?」
「あ、いや……何でもない」
「んん?」
だあああ。ついつい口をついて出てしまったじゃねえか。
タイタニアに頼めば、お風呂へ一緒に入るばかりじゃあなく……添い寝までなら快く了承してくれそうだ……って思考が変な方向に向いてきているな。
疲れてるのかな、俺。
「うおっと」
はあとため息をついて顔をあげたら、タイタニアがドアップになっていた。
「お家を作らないの?」
「あ、そうだな。すぐにリーメイ達が戻って来るとも限らないし」
「フジィやワギャンとハトさんじゃあないから、急ぎでも三日くらいはかかるんじゃないかな」
「そ、そうだな」
抜けまくりだよ……ほんと。
異世界だと携帯で電話しておしまいってわけじゃあないし、車もないんだよ。
すぐに戻ると言われたからといって、タイタニアが言うくらいの時間はかかるよな。うん。
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