第158話 遭遇
翌日もその次の日もリュティエに道先案内をしてもらい、ハウジングアプリの道をどんどん伸ばして行く。
三日目の昼頃、見えない壁に何かが当たりコロンと転がった。
一旦手を止め見てみると、黒っぽい手のひらに収まるくらいの小さな石だと分かる。
タイタニアに石を拾ってもらい、つぶさに観察してみたがこれがどんな石なのかはてんで分からなかった。
石を見るだけで、これが何かなんて分かるほどの知識は持ち合わせていないから仕方ねえ。だけど、ひょっとしたらという当たりもついている。
といっても確かめる手段がないから保留だけどさ。
「ありがとう。タイタニア」
「ううん。その石、わたしが持っておく?」
「後から何か分かるかもしれないし、頼む」
「うん!」
タイタニアに小石を手渡し、彼女は腰のポーチにそれをしまい込む。
彼女は手こそポーチに触れているけど、顔は上を向いている。何かあったのかな?
タイタニアに声をかけようとする前に彼女が自分から瑞々しい唇を震わせた。
「ワギャンが戻ってきたよ」
「はやいな」
目を凝らし空を眺めると、彼女の言う通り確かに何か動く影が見える。
俺の視力じゃあまだ確認できないけど、あの影がハトに乗ったワギャンで間違いないだろう。
俺の腹時計はまだ昼を指していないけど、ワギャンは何かを見つけたのかな?
予定した時間より早く戻ってきているわけだし。
「この先に竜人がいる」
ハトから降りるなりワギャンは簡潔に事実を述べた。
「竜人の集落まではまだ距離がある。何人いた?」
リュティエがワギャンをねぎらいつつ、彼に問いかける。
「二人だ。僕の姿に気が付いていた。彼らはいつからかは分からないが僕らの動きを把握している」
「動かず待っていた?」
「おそらくそうだ。炉の跡があった。空からだからハッキリと確認できなかったが、あの場に滞在していると思う」
ワギャンと短く会話を交わした後、リュティエがこちらに向き直った。
「いかがされますか?」
「真っ直ぐ進もう。待っているのなら会話を望んでいるのだろうから」
「私もそう思います」
リュティエと頷きあい、少し早いけどワギャンが戻ってきたことだしお昼にするか。
「お昼にするぞ」と言った後のタイタニアの緩んだ顔に和む俺であった。
◇◇◇
「竜人さん達ってどんな感じなんだろう?」
おにぎり(おかか)を頬張りながら、タイタニアが独り言のように呟く。
「竜人はウサギ族のように男女で見た目がかなり違う」
ワギャンがタイタニアの疑問に応じる。
一方で俺はタイタニアのほっぺについたご飯粒を取っていた。
ウサギ族と言えばアイシャだよな。
彼女はぷるるん……じゃあなくて見た感じ人間にかなり近い。尻尾と耳が人間との違いだけど、コスプレで通せば日本の街中にいても大丈夫なほどだ。
一方、男になるとリュティエのような動物の兎に似た頭部となる。体つきもずんぐりとしていて身長も150センチほどと同じ種族の女子より小さい。
ヒクヒク動く鼻がとても……俺好みだけど……おっとこのまま妄想に入ってしまうところだったぜ。
危険だ。
危険と言えば、全身をビッシリと覆う毛皮も大きな違いだな。あれはモフりたくなる衝動がムクムクとしてしまう。
ウサギ族の男は一言で言うと二足歩行する動物の兎に近い。
ワギャンによると竜人はウサギ族タイプだそうだから、男は鱗が覆う体を持ったリザードマンみたいな感じなのだろう。
俺の想像するリザードマンはトカゲのような顔をしているけど、竜人は額からツノが生えているみたいだからドラゴンの顔に近いのかもしれない。
でも、女子はどんな容姿をしているのかまるで想像がつかないな……人間のような頭部をしていることだけは確かだけど。
「彼らはみな頑強です。鋭い鉤爪も持っております」
ワギャンの言葉を捕捉するようにリュティエが竜人の特徴について述べる。
「強靭な種族だったら、厳しい土地でも生きていけそうだな」
「そ……そうですな……戦士としては優秀なことは確かですぞ」
リュティエの動揺した様子を見るに、身体は頑強で生存能力は高いことは間違いない。だけど、農業を始めとした各種技術は高くなさそうだ。
個体の強さより結局モノを言うのは技術力の高さだものなあ。
一例として人間は獣人より身体能力が低い。
だけど公国は獣人より技術力が高いんだ。特に治金技術の点では相当な開きがある。
生存能力という結果を人口で省みるなら、公国だけで獣人の人口の軽く百倍を超えるからな。
そんなわけで一概に身体能力が高いからと言って繁栄を謳歌しているとは言い難い。
考えている間にももしゃもしゃとおにぎりを食べ続ける。
ちょうどおにぎりを食べおわったところで、ワギャンが指を一本立てた。
「僕が先に交渉をしてこようか?」
「いや、みんなでこのまま進もう。俺たちを領域への侵入者として排そうとしてくるかもしれないからさ」
「可能性は低そうだが……お前の道の中なら安全だからな」
「うん。念には念を入れたい」
絶対安全な我が土地があるのだから、焦ることなんてない。
じっくり進めばいいだけだ。
◇◇◇
えっちらおっちら進んでいると、立派なツノを額から生やした竜人のペアが俺たちを待っていた。
なるほど、ワギャンから聞いていた通りの容姿だ。
男の方はワニや竜のような口を持ち額からツノが生え、全身を濃い緑色の鱗が覆っている。
お尻からは長い尻尾が生えていて、尾先に鋭いトゲトゲが見えた。
竜人の男は一目見て人間じゃあないと分かる。
一方でもう一人は切れ長の目をした美女だ。
麻呂眉に鮮やかな朱色の唇が目を惹く。額からは一対の細いツノが生えているのが人ではないと主張していた。
他に目立つのことといえば赤い髪だ。鮮やかな赤は白を基調とした巫女風の衣装がよく似合っていると思う。
男と同じような尻尾も確認できたが、尾先にトゲトゲはない。
我が道の切れ目のところで二人が立っており、こちらの様子を窺っていた。
俺たちはと言えば、その場で立ち止まり相手の出方を待つ。
対峙する形になったからか、竜人二人と俺たちの間に緊張感が漂う。
このまま無言の時が続くかと思っていたが、竜人二人は思わぬ行動に出たんだ。
なんと二人はその場で片膝を付き、真っ直ぐに俺を見上げてきた。
タラりと俺の額から一筋の汗が流れ落ちる。
「お待ちしておりました」
男の方がいきなりそんなことを言うものだから、こちらが戸惑ってしまう。
誤解の無いように言っておくが竜人を見るのは今回が初めてだ。
向こうも俺のことを見た事なんて無いはず。なのに「待っていた」ってどういうことなんだろう?
皆目見当が付かない。
「細々と交流していた獣人の一部からふじちま殿の偉大さを聞いたのでしょうか」
リュティエが竜人達には聞こえぬよう囁く。
「な、なるほど。可能性がないわけじゃあないけど……俺には目立つ特徴なんてないぞ……」
写真があるなら話は別だけど、平凡でどこにでもいるような見た目の俺のことを伝えたところで一目で俺だと確信することは不可能だと言い切れる。
異世界だと黒髪が珍しいってこともあるようだが、公国に黒髪の人はちらほらいるからさ。
どうしたらいいものか戸惑っていたら、竜人の男が先んじて言葉を続ける。
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