第112話 コーラで乾杯
「おおおおお!」
兵士の六人からどよめきの声があがり、まだ慣れていないのかフェリックスがその場でペタンと座り込みまんまるの目を更に大きく見開いていた。
可愛らしく口元に手を当てたりしてて、本物の女子より女子っぽいよなあとつくつぐ思う。
おっと、余所見している場合じゃあないな。まだ続きがあるんだ。
塔を中心として前方に横三十メートル、盾二十メートルの芝生を作成する。
他は塔を覆うように三メートルの土地を購入した。
「こんなもんかな?」
「もう何も突っ込む気はねえが、お前さんの魔力は無尽蔵じゃあねえんだよな?」
呆れたようにクラウスが頭をがしがしとかきながら、塔を見上げている。
「もちろん。制限はある。でもこのくらいなら(ゴルダは)平気だ」
「お前さんやらあの青い嘴の大きな鳥やらにも限界がある事は分かるけどなあ。上限が高すぎて正直よく分からん」
「は、はは……」
グバアと同じにするなと内心抗議するが、奴の攻撃さえ跳ね返すハウジングアプリの絶対防御は似たようなもんかと思い直す。
俺が乾いた笑い声をあげていると、クラウスはニヒルに口元を歪ませ、指をパチリと鳴らした。
「よく分からんモノは、考えるもんじゃあねえってな!」
「あ、うん」
俺もクラウスに同意だ。
ハウジングアプリはどのような仕組みで……とか考えることを既に放棄しているからな。
「あとの細かいところは相談しながらでいいかな? 偵察に出るワギャン以外の三人に手伝って欲しい」
「じゃあ俺は兵とあれやこれやしてくるか」
クラウスにはフェリックスの連れて来た兵も任せることなっている。
フェリックスは兵を率いることに不慣れだ……というより戦闘の心得があるのかも疑問だからなー。
指揮系統が二つになってしまうことから、兵の扱いをどうするか協議しようとした時、彼は開口一番に「クラウスに任せたい」って言ってきたのだ。
「フェリックスは俺と細かいところの調整を。マルーブルクは他の人の部屋とか一日のスケジュールを計画してくれないか?」
「はい!」
「りょーかい」
三人で頷き合い、残りの準備に取り掛かる俺たちであった。
◆◆◆
ちゅんちゅんという小鳥の囀りの代わりにハトの「ぐがー」な煩いイビキで目がさめる。
外はようやく朝日が昇り始めたってところ。
今回の俺の部屋は五階建ての砦にある。部屋の場所は四階になった。
一階を除く各階層に四部屋あるので部屋は余る。
最上階はマルーブルク、クラウス、フェリックス、ワギャンに。四階は俺以外にクラウスの部下三人が入ることになった。
せっかくだから最上階からの眺めを味わって欲しいと思ったから、俺の勧めでこんな部屋割りになったんだ。
三階になったフェリックスの部下達には我慢してもらおう。うん。
最初は抽選にしようと思ったんだけど、マルーブルクの指摘で来賓であるワギャンと公子の二人は上階にした方がいいと受けた。
兵士が気を使ってしまったらゆっくり休めないだろうと思ってこの配置にしたってわけだ。
砦から外に出ると既に朝食の準備が整っていた。
食事は外の竃で作ることになっている。クラウスとフェリックスの部下が交代でね。
今日はフェリックスの部下達の番だ。
それにしても……ここまで、いい匂いが漂ってくる。
うーん。匂いだけでも涎が出そうだぜ!
ふむ。作戦通り。
俺たちはここで優雅に呑気に食事をしてバカンスを楽しむだけ。
グラーフの街からもハッキリと見えるこの砦でね。
突然出現した巨大建築物に進化したゴブリン達なら偵察に来るだろう。
そこで奴らは見る。
俺たちが無防備にここで暮らしているのを。
バトミントンとか遊び道具も出しておいたし、時間を潰すことは問題ない。
あとは奴らが「是非ともこの砦を欲しい」と思うのを待つのみ。
砦から出て来た俺の姿に気がついたフェリックスの部下達が、こちらに体ごと向きを変え敬礼を行ってくる。
「おはよう」
「導師様。おはようございます! お食事の準備が整っているであります!」
「ありがとう。朝早くから」
「滅相も無いであります! 食材まで偉大なる御身自ら感激です!」
「たくさん食べてくれよ」
フェリックスの部下達はいい人達なんだけど、こう……何というか体育会系のノリで朝から相手をすると濃い。
クラウスの部下達ほどにはと言わないけどもう少し熱気を冷まして欲しいかな……。
でも、彼らから俺への敬意と親愛は感じ取れるから悪い気はしない。
動きの速いことにその日の昼にはゴブリンの姿を確認できたのだった。
「ゴブリンが来た」となればこれ見よがしに食事風景を見せつけてやろうと、夜はバーベキューにすることに。
肉、野菜、塩胡椒など全てハウジングアプリで注文を行い、追加もどんどん出せるからとみんなに伝える。
フェリックスから魔力の心配をされたけど、「家より小さいモノなんだし平気だよ」と伝えたら、妙に納得された。
事実、建物の方がゴルダ消費量が多いしな!
ただし、建物は撤去すると七割キャッシュバックなんだよね。これまで撤去は余り行ってないから忘れがちだけど。
そんなこんなで下準備だけフェリックスの部下達がやってくれて、全員が席につく。
今回は特別にドリンクも用意した。
現代風の飲み物だけど、ちゃんとハウジングアプリからドリンクを注文する前にマルーブルクと相談済みだから問題ない。
「黒いビールみたいな飲み物か」
ワギャンが並べられたペットボトルへ目を向けた。
彼は俺の家にいる時にこの飲み物を飲んだことがある。
ペットボトルには黒い液体が入っていて、容量が二リットルだ。
「『コーラ』という名前だそうだよ。ビールと違って酔わない」
マルーブルクが獣人の言葉でワギャンへ声をかけた。
彼は自分だけが獣人の言葉を理解するからか、この旅路でよくワギャンと会話を交わしている。
きっと彼なりの気遣いなんだろうなあと俺は思っているんだ。
彼自身何も言わないけど、可愛いところもあるじゃないか。ふふふ。
「何かな?」
「あ、いや」
やべえ。ニヤニヤしていることに気が付かれてしまった。
「あ、キャップを開ける時とか吹き出すかもだから説明するぞー」
「ふーん」
我ながら酷い棒読みだよ!
マルーブルクの目線が痛いったらありゃしねえ。
しかし、偽りの天使の微笑みを持つ彼と違って両手を胸の前で組んでひしとこちらを見つめるフェリックスは別だ。
彼はマジ天使なのかもしれない。
「はい!」
フェリックスよ。いい返事だ。
気をよくした俺はペットボトルを一本掴み、もう一方の手でキャップへ触れる。
「こんな感じでぷしゅーと音がするまでキャップを回し、すぐに一旦締める」
「おおー。指示頂きましたー」
「キャップを締めてから泡が落ち着くまで待つ」
「喜んで―」
相変わらずのクラウスの部下達でだった。
コーラが噴出さないように無事ペットボトルを開封し、みんなのコップへコーラをクラウスの部下達が注いでいく。
「じゃあ、乾杯!」
俺の合図にみんながコップを高く掲げた。
さあ、いつでも来ていいぞ。ゴブリン達よ。
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