第109話 ネタだと思ったけどなかなか……

 んーむ。いろいろ見るんじゃあなかった。


「迷う……」

「良辰様でも悩まれることがありますのね」


 右手を床につけてやっとのことで立ち上がったフェリックスが、眉をひそめ潤んだままの瞳で顔を上に向ける。


「それが彼の良いところなんだよ。聡明ではあるけど悩み、考え、答えを出す。決してベストではないけど不思議と心地よい……そんな感じさ」

「面と向かって言わないでくれるか……」


 ワザとだって分かってるんだからな。

 俺は天使のような微笑を浮かべる金髪の少年をじとーっ恨めしい目で見やった。

 しかし、そんなことを気にする彼ではなく、このまま見続けていたら、他のことでからかわれそうな予感がビンビンする。

 なので、優しい俺はいやーな目線を彼に送ることをやめたのだ。


「砦にするか、小屋にするか、はたまた変わったのにするか……」


 再びタブレットのクラッシックハウス一覧へ目を落とす。


「キミは魔法で建物を作った後、そのままにしておくつもりかい? それとも残しておくのかな?」

「休憩施設として残すのもアリか……」

「ほんとお前さんは平和主義者だな。面白い」


 全く気がつかなかったからびくぅってしたぞ……音を立てずに背後に回っていたクラウスが愉快そうに俺の背を叩く。

 ここからサマルカンドまでだと、馬をつかえば一時間から二時間くらいで着いちゃうんじゃないか?

 物見としても使えるってことか。

 でも、高い木々が邪魔するから……邪魔しないな。五階建てとかならさ。


 しかし!

 物見を作る気は今のところ無い。

 というのは、救出劇が済んだ後に道を撤去するか残すか決め兼ねているからだ。

 人々の交通と安全のためには残した方がよい。だけど、公国の領土ってのが話をややこしくする。

 誰かの土地を占拠することになるからなあ。


「撤去するか残すかは、後でマルーブルクに意見を聞くよ」


 やっと考えがまとまった。

 公国の有力者とか盗賊やらにとって魅力的に映らない方がいいだろう。


 ならば、これだ。


「お? 見たことのない素材だな」


 現れた建物の壁面をコツコツと叩くクラウスだが、壁からは乾いた音が返ってこない。

 中に入ってみるまでなんとも言えないけど、平屋のこの家は三部屋か四部屋だと思う。


 明るい土色をしていて、断面を見たらギザギザした厚紙が見える。

 お引越しのお供に必須のこの素材。ハウジングアプリ仕様だから、雨に濡れても思いっきり蹴り飛ばしてもビクともしない……はず。

 無骨な豆腐型の明るい茶色な外観のこの家は、全てダンボールでできている。


 見た目ですぐに分かるけど、俺の選んだクラッシックハウスはダンボールハウスなのだ。

 引っ越し用のあのダンボール箱がそのまま大きくなって扉がついたような見た目は、人によっては遊び心がくすぐられるかもしれない。


「屋内の調整をするよ。クラウスも来てもらっていいか?」

「おうよ」


 男の遊び心と言えばクラウスを呼ばないとな。

 物見を作った時にもテキパキと指示を出してくれたし、秘密基地を見た後「こんな面白いもん作るなら、俺も呼んでほしかったぜ」とボヤいていたからな。

 ダンボールハウスを見た時も、口元をニヤリとさせてウズウズした様子だったし。


 中に入ると……ダンボールだった。

 表現力が乏しい? そう言われても、そのまんまダンボールの内側だったんだもの。

 扉があるのは建物の左の端っこ辺りで、入るとまっすぐ細い廊下になっており、右手に扉が五枚備え付けられていた。扉の向かいには窓がぽっかりと穴を開けている。


「兄ちゃん! 細かえとこにこだわってんな! 分かってるじゃねえか」


 窓枠をしげしげと眺め、クラウスが手を打つ。

 確かに窓枠には俺も惹かれるものがある。

 窓枠の長さに切ったダンボールを縦に並べて束にし、窓枠としているんだ。窓が開閉できるよう溝もちゃんと作られている。

 窓枠にはガラス窓が取り付けられているけど、ガラスを外周を覆うのもダンボールである。

 この拘りがよいじゃあないか!


 扉もダンボールでできていて、取っ手はダンボールをぐるぐると巻いて作りましたって感じだ。


「部屋を見ようぜ」


 と言いつつも既に扉を開けて中を覗き込んでいるクラウス。

 部屋の中は窓とベッドかあるのみだった。

 ベッドももちろんダンボール製で、布団もちゃんとセットされている。

 天井には蛍光灯。


「何か置いてあると便利なモノってあるかな?」

「んー、そうだなあ。料理はどうすんだ?」

「外に竃を作って……と思ってる」

「マルーブルク様の指示だな? ボンヤリした兄ちゃんなら、『台所付きの家だー』とかやりそうなもんだからな」

「あ、うん」


 よく分かったな!

 さんざん気にしているが「今回はいつものメンバー以外がいるから、注意しておきなよ」ってマルーブルクから釘を刺されていたのだ。

 なので、設備のないダンボールハウスにしたってのもある。ちゃんと考えてるんだぜ? 俺もな。


「兄ちゃんらしい。とんでもねえ力を持ってるのに考え方が柔軟なのな」

「褒めてんのそれ?」

「もちろんだぜ」


 パチリとニヒルにウィンクをするクラウス。俺もこれくらいの歳になったら、彼のような男の深みが出てくるのかなあ。

 ……無理だと思う。

 やはりイケメンは爆発すべきだ。

 なんてことを考えていたら、彼が俺の肩をポンと叩く。

 

 間取りは同じ広さの部屋が四つに一番奥の扉がトイレになっているという非常にシンプルな作りだった。

 分かりやすくて説明いらずってのは魅力かもしれない。


 そんなわけで結局、何ら調整を行わず家の外に出て来た。

 部屋が四つだと足りないから、追加で同じダンボールハウスを三棟建築して宿泊施設は完成だ。

 そういや、プレハブ住宅みたいなのってクラッシックハウスにあったような……また暇な時にでも見ておくとするか。

 使いどころがとても難しいけどさ……。

 

 お次はっと。

 ダンボールハウスを囲むように土地を購入し、プライベート設定へと変更する。

 

「んー。囲むだけじゃなくて全部『我が土地』にしておいた方が俺が動きやすいな」


 内側の土地も全て購入し、ダンボールハウスの前に竈を三つ作って木製の大きなテーブルと椅子を十脚設置した。

 

「相変わらず、非常識過ぎる速度だね。魔力は大丈夫なのかい?」


 出現したばかりの椅子にさっそく腰かけたマルーブルクが肩を竦める。

 

「おう、全く問題ない。あと……個人的に作りたい施設があるんだけど、相談していいかな?」

「うん。何を作りたいんだい?」

「風呂だ。一日の汗を流すには風呂がいる」

「行水ね。それくらいならいいんじゃないかな?」

「いやっほー」


 マルーブルクの許可が降りたので、さっそく風呂の設置に取り掛かることにしよう。

 外枠を木の板で覆って……脱衣所用に仕切りを作る。

 脱衣所にカスタマイズメニューから五段になった棚を選び、下に宝箱(小)を設置した。

 そしてえ、籠やら石鹸、シャンプーを注文して宝箱(小)から取り出す。

 

 残すは浴場だ。

 天上をつくらず露天風呂にするとしよう。その方が「旅しました感」がでるだろ。

 

 ゴロゴロした岩を使用した浴槽、君に決めた!

 露天風呂といえば岩風呂だろうと貧困な想像力の結果だ。

 分かってる、何も言うな……俺にセンスを求めるもんじゃあない……。

 

「よっし! あ、シャワーもいるか」


 てなわけで、シャワーを準備して風呂椅子を注文し完成となった。

 男だけしかいないと、風呂の時間調整もいらないから楽なもんだ。

 

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