第101話 今度は何が来たんだ?
花火大会は好評のうちに幕を降ろした。マルーブルクとリュティエからは大魔法の威力を遺憾なく発揮したとお墨付きを得る。
ゴブリンの襲撃から守ったとかグバア爆撃でもビクともしなかった……なんてことよりこうノンビリした平和的なことで評価される方が嬉しいよな。
畑作業も牧畜も順調で、このまま行けば秋の収穫が楽しみだ。収穫祭はどんなことをしようか今から楽しみでならない。
突然だが、俺には計画がある。
収穫祭に公国と獣人の住民達を一堂に集め、サマルカンドの人たち全員で大地の恵みを祝うのだ。
その時をもって、サマルカンドは真の意味で街として成り立つ。
なあんて大層なことを考えながら、プラネタリウムの操作を行なっている。やることと言えばオートボタンを押すだけなんだけどな。
今日はウサギ耳のアイシャの引率で、獣人のみなさんにプラネタリウムの鑑賞会を開催しているんだ。明日は公国の予定である。
どうやって彼らをプラネタリウムの中に入れたのかというと……事前にリュティエからメンバーを通知してもらって、プラネタリウムとそこへ続く道にアクセス許可を出す形にしているんだ。
しかし、鑑賞後は彼らのアクセス許可を削除する。
まだまだ全員にもれなくアクセス許可を……とはなっていない。現時点で誰しもが入れるようにとなったら、こちらが管理できないからさ。
いずれは住民の誰かにここをお任せしたいと考えている。
お掃除できないしな……現状のままだと。管理運営者は必ず必要だ。
スタジアムも同じく、いずれ解放する予定である。
ぼーっと上を眺めているうちにプラネタリウムのプログラムがいよいよクライマックスとなってきた。
夜空の解説をしているゴミ箱さんの声も熱を帯びてきている。今日のプログラムは夏の星空のお話で、季節ごとにプログラムがあるんだ。もちろんオートでな。
ハウジングアプリで注文できるアイテムには声の出るものも多々ある。
ゴミ箱さんの声の登場率が高い気が……。まあ、俺としては俺の声と同じく母国語に関わらず誰しもが理解できるから、それで十分だよ。
パチパチパチ――
プログラムが終わり部屋が明るくなると、みんなが立ち上がって熱烈な拍手をしていた。
「すごかったみゅ! ふじちまくんの魔術は何でもできちゃうんだみゅ!」
アイシャが長いウサギ耳をパタパタと激しく揺らして興奮した様子だ。
「公国と交互に鑑賞会をやろうと思ってるんだ」
「また来たいみゅ」
アイシャはとても楽しそうに顔を綻ばせる。
そんなに気に入ってくれたのかな? 彼女とは何度か会話をしたこともあるし、知らない仲じゃない。
彼女は獣人の人たちによくある朴訥で感情表現が豊かだ。何より動物に好かれるってのが彼女の優しい人柄を証明していると思う。
「アイシャ、お仕事ってやっぱ忙しいよな」
「マッスルブ、ロビン、ユリアン、ノーラと交代で管理しているから、大丈夫みゅ」
「そっかー」
アイシャ達は五人で牧場の管理を行っている。彼女らは二人一組になって家畜の世話と牧場の維持運営を交互にこなしているそうだ。
その上で狩りとか果物や薬草、虫などの採集までやっているんだから、頭が下がる。
で、毎日一人浮くからその人がお休みってわけなんだ。お休みっていっても家の修繕とか、いろいろやることはあるみたいなんだけどね。
んー。彼女にプラネタリウムの館長に誘おうかなと思ったんだけど……難しいかな。
俺から給与を支給する形なら……いやでも、そうしたら彼女らの五人組が崩れるわけで……。
「どうしたみゅ」
「うーん」
椅子に座ったまま腕を組み、うんうんと唸る俺……。
「ふじちまくーん」
「ん、んんん! ちょ!」
「急に顔をあげるとビックリするみゅ」
俺がびっくらこいたよ!
アイシャと話をしながら、一人考えにふけってしまった俺が悪いんだが……。
彼女が俺を後ろから覗き込むように様子を伺っていたからだな、頭をあげたらぽよよんとした感触が後頭部に。
な、なにこのマシュマロみたいな。
「おっきい……あ、いや何でもない! ごめんな、急に頭をあげて」
「ううん。あたしこそ」
前に回り込んだアイシャがペコリと頭を下げた。
「谷間……い、いやいや。話をしているのに急に黙り込んだら不安になるよな」
「そんなことないみゅ! ふじちまくんはいつも何か考えてるもの」
「は、ははは……」
確かに言われてみればそうだ。
気を付けないとな……頭の後ろに手をやりボリボリと困ったようにかきむしる俺なのであった。
◆◆◆
リュティエにアイシャのことを聞いてみるかと思いつつプラネタリウムを出ると、クラウスの部下三人が道の外で俺を待っていた。
手を振り、彼らの方へ駆け足で向かう。
「どうしたんだ?」
「旦那、一大事でやす」
今度は何があったんだろう? またゴブリン達が来襲したのかなあ。
それとも、また別の生命体による天災か?
ピラニア、カタツムリときて……次はアリか何かかもしれん。この世界の生物はでっかくて怖い……。
おっきいのはアイシャのおっぱいだけにして欲しいものだ。タイタニア? 俺の口からは何も言えん。
「お客様来店ですー」
「よろこんでー」
「ってわけでやす」
三人がリズミカルに言葉を重ねるがまるで分らん。
「誰が来たんだ?」
「難民でやす。難民でやす」
「パネエッス!」
……。まともに伝える気がないだろ。
一大事と言っていたけど、案外大したことがないのかもしれない。
彼らにマルーブルクかクラウスに集会場へ来れれば来るように伝えて、自宅方面へ戻る。
「ご注文承りましたー」「よろこんでー」とか言ってたけど、本当に伝わってるのか心配だ。
しかし、集会場に行くと既にマルーブルク、クラウス、フレデリックの三人だけじゃなく、リュティエとワギャンまで集まっていた。
「ヨッシー。待っていたよ」
マルーブルクが珍しく真剣な顔で椅子から立ち上がり、俺を見上げる。
「みんな集まってたんだな」
リュティエとワギャンは腕を組み、グルグル唸っているし……。
クラウスはいつもの調子で飄々としているけど、フレデリックは深刻そうだ。
一体何が起こっているんだ?
マルーブルクの対面に座ると、カウンターの奥からタイタニアが顔だけをこちらに出した。
お、タイタニアも来ていたのか。勢ぞろいだな。
「フジィ!」
彼女はお盆を持ってこちらにやって来る。
お盆に乗っているのはコーヒーかな。いい香りがここまで漂ってくるよ。
「ありがとう、タイタニア」
マルーブルクがお礼を述べると、彼に続き他のみんなも彼女へ感謝の意を伝えた。
タイタニアがコーヒーをテーブルに置き、俺の隣に座る。
「一体どうしたってんだ? さっきクラウスの部下が来たけど」
「キミに決めてもらいたい案件がある」
「珍しく言い辛そうにしているな。遠慮せず言ってくれ」
「珍しくは余計だよ。ま、伝え辛いことは確かだね」
マルーブルクはコーヒーを口に含み、眉をしかめた。
苦いのがダメなら無理してコーヒーを飲まなくていいのに。
こういうところはお子様なんだな。ふふふ。
あ、生暖かい目線に気が付かれてしまった。あの微笑み……後で怖い……。
「全く……ボクを子供扱いするのはキミくらいのものだよ」
「そっか……すまん」
彼くらいの年齢だと子供扱いされるのを嫌うのかな。
なんて思っていたら、意外にもマルーブルクは一瞬だけ邪気のない笑顔を浮かべ、すぐに苦笑へと変わる。
「嫌いじゃあないさ」
デレた。デレたよな!
思わずタイタニアと目を合わせたら、彼女は困ったように目を落とし顔を背けてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます