第50話 公園にも物見を作ったぜ
公国側の物見設置が完了しクラウスと別れた後、公園に戻る。
しかし、公園には誰の姿も見当たらなかった。
ふむ……まだワギャンたちは来ていないようだな。
んー。どうしようか。このまま待っていてもいいけど……。あ、そうだ。いいこと思いついたぞ。
「展望台を作ろう」
ポンと手を打ち、公園を見渡す。
最近滑り台の上から双眼鏡を使って、街の様子を見ることが多かったんだ。
待っているときは大概滑り台の上にいるしさ。
さっき公国側をチラ見しながら物見を建てて来たけど、昨日住民が来たところだったみたいだし、何やら役人らしき人が住民へ点呼を取っている最中だった。
役人さんはパピルスみたいな紙へ炭でサラサラと何か書いている様子だったんだ。
マルーブルクの指示だと思うけど、街の中に変なのが紛れ込んでないか確かめてから動こうってことかな?
これから家や施設を彼らがどんどん建築していくだろうから、ぜひその様子を見たいんだよね。
日本の工事風景は見慣れたものだけど、こちらではまだ見たことがない。家が出来ていく工程っておもしろそうじゃないか。
ハウジングアプリだと一瞬で完成しちゃうからね……便利なんだけど味気ないんだよ。
それはともかくとして、どんな展望台にしようかなあ。
いや、展望台という言葉から想像されるような立派な建物にするつもりはない。公国側に建築した物見より更にシンプルなものがいいな。
カスタマイズリストを眺め……何がいいかなあと物色する。
「公園の中だし……これを試してみるかな」
タブレット上で直径三メートルの中が中空になった円柱を高さ十五メートルまで組み上げ、決定をタップする。
円柱の色はペンキで塗ったようなクリーム色で、上部にイカリのマークが赤色で描かれていた。
入り口部分は高さ二メートル、横幅五十センチの長方形だけど、上部はアーチ状になっているという穴を開けただけのシンプルなもので扉はない。
「よっし、次は中だな」
中は公園によくある壁から直接伸びた四角い手すりみたいなものを選択した。
両手で手すりを掴み、足を乗せながら登っていくハシゴに近い形だ。
てっぺんまで登り、体を出せるように隙間を開けて床材を置く。
そのまま設置したばかりの屋上の上に立ち、足が竦みながらも滑り台とかでよく見る鉄柵で周囲を囲んだ。
鉄柵の色は淡い青色をチョイスした。クリーム色と淡い青色の組み合わせは、公園にあっても違和感がないぜ。ちょっと可愛らし過ぎるかもしれないけど。
「おおおお、いい眺めじゃねえかー」
鉄柵を両手でしっかりと掴み、高い位置から見える風景に感嘆の声をあげる。
ギリギリでメガネをかけなくて済むくらいの視力しかないから、ぼんやりとしか街の様子を確認することができないのが残念だ。
「双眼鏡を持ってくるか!」
手すりを掴んで下に降りたところで、手すりは失敗だったと気が付く。
これ……急いで登り降りしたら確実に滑って落ちる。
「先に改装するか……」
タブレットに手すりを映しこんで「撤去」をタップすると、出て来た時と同じように一瞬で音も立てずに消え去った。
公国側の物見のように普通の階段だとスペースが足りないな。
ならば……。
一段だけの階段を内壁に沿ってらせん状に組んで行く。
全て準備し終えたところで決定をタップ。
よっし、これで登りやすくなったはずだ。
外壁と同じ色をしたシンプルならせん階段を眺め、腕を組み悦に浸る。
我ながらなかなかいい出来に顔が緩んできた。
「ふじちま」
「うお!」
ドキリとして振り返ると、モフモフした茶色の毛並みを持つワギャンの顔が見えた。
にやけた顔をまともに見られてしまったらしい。
音も立てずに後ろに立たないでくれよ……ワギャン。
「物見を公園にも作っていたのか?」
「うん。ここは街の中心部だからさ」
「いいアイデアだと思う。お前が使っていない時、僕らも利用していいか?」
「もちろんだよ。公園は誰もが利用できる施設にしようと思ってる」
公園は当初パブリック設定にしていたんだけど、大量の住人が到着する前にプライベート設定に変えたんだ。
なので、現状入ることができるのはワギャンら八人だけとなる。
いずれまたパブリック設定に戻すつもりだけど、マルーブルクとリュティエに相談してからだな。現状マルーブルクは公国の者が獣人と接触しないように気を払っているからさ。
興味深そうに円柱を見上げているワギャンの横顔を見て、彼の肩をポンと叩く。
「上に登ってみる? さっき階段を作ったばかりでちゃんと上まで行けるか確かめたいところだったんだ」
「ふちちまが最初に登るべきだ」
「実はさっき一度登っているんだよ。その時に最初に設置した階段が微妙で作り直したんだ」
「危急の際にも階段は使うものな」
「よければ先に登って階段の様子を教えてくれないか?」
「う、うーん。せっかくの最初を僕がやるのもなあ……」
そう言いつつも、ワギャンよ。尻尾は嘘をついていないぞお。
しかも耳もパタパタとせわしなく動かしているし。
「ま、ま、俺だと落ちちゃうかもしれないし。ワギャンなら俺より木登りも上手いだろ?」
「わ、分かった」
ワギャンの背を押し、らせん階段の前で「どうぞどうぞ」と彼を促す。
一歩目こそ戸惑ったように足を伸ばしたワギャンであったが、二歩目からはスルスルとらせん階段を登って行く。
「どうだろう? 登りやすいかな?」
「この幅なら僕らでも大丈夫だ。それと、見た感じツルツルしていて滑るかなと思ったが、こちらも問題ないな」
滑ることまでは考えてなかった。高さ十五メートルからつるりと行ったら……我が土地の中だから大丈夫だろうけどゾッとするよな。
「ありがとう。細かく見てくれて」
「いや」
俺の声に応じつつも、ワギャンは上を見たままだ。
そうだよな。上からの景色をはやく見たいよな! 俺もそうだったし。
しかし、ワギャンは流行る気持ちを抑えその場で強く地面を足で踏みつける。
「グラグラもしないな。頑丈だ」
「上にも鉄柵を設置しているからそこも頼むよ」
「分かった」
ワギャンが上に登って行く。俺は彼がてっぺんまで到着したことを確認してから、外に出る。
「どうだー?」
外から鉄柵を片手で掴んでいるワギャンへ手を振る。
「鉄柵も問題ない。しかし、素晴らしい眺めだな」
「それほど高くないけど、周囲に高い建物も木もないからよく見えるはず」
「確かに。これは物見を設置するのが楽しみだ」
ワギャンは満足したように目を細め、ぐるりとその場で一回転すた。
ここからだと彼の尻尾は見えないけど、きっと思いっきり尻尾がフルフルしているはずだ。
そう考えると、微笑ましくなってニヤニヤが止まらない俺であった。
しかし、ワギャンはすぐに階段を降りトコトコと俺の前までやって来る。
「行こう」
「もういいのか?」
「ありがとう。とてもいい眺めだった」
「物見だけど、ワギャンはどんなのにしたいとか案がある?」
「んー。ふじちまに任せる」
「分かった。気に入るか分からないけど一つ思いついた案があるんだ」
獣人側のゲートは鳥居だから、和風の物見がいいかなと思っているんだ。
瓦屋根を使ってそれっぽいものなんてどうかなあってね。
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