第49話 公国側の物見
公園でブランコを漕いでいると、クラウスが単独でやって来る。
ん、物見についてはデザイン案を見比べることはしないのかな。
「よお。兄ちゃん!」
「今日はクラウス一人でいいのかな?」
「おう、そうだぜ。フレデリックから兄ちゃんがどんなものを準備できるのかだいたい聞いてるんだ」
「てことは、もう希望が決まってる?」
「おうよ。クリスタルパレスの城壁みたく、石壁でお願いしたいんだ」
クリスタルパレスと言われてもだな……。
どんな城壁なのか見たことが無い。といってもあれだよなあ。日本式城郭ではないはず。
あ、そうだ。
タブレットを出現させ、「カスタマイズ」の項目をタップする。
カスタマイズの項目は主に家を作るためのパーツが揃っているんだ。
この中に家の外壁一覧がある。
素材やデザインも様々で、漆喰の壁一つとっても和風と南欧風を初めとして数種類用意されていた。
もちろん石壁もこの中に存在する。
「並べて出していくから、どれがいいか選んでもらってもよいかな?」
「お、ここで出せるのか。相変わらずとんでもねえな」
ひゅうと口笛を鳴らし、クラウスはニヒルに肩を竦めた。
無難な感じの物から出していくか。
一つ目は灰色のそこら辺に転がっているような様々な形をした岩を積み上げ、隙間をコンクリートらしき物で埋めた石壁を出してみた。
「うおお。突然出て来たからびっくりしたぜ」
石壁を出したはいいが、クラウスに近すぎた。彼の立つ位置から僅か二十センチほどのところに突然音も無く、高さ一メートル、横幅五十センチほどの壁が出てきたら驚くよな……。
「ごめんごめん、もう少し離れたところに出すから」
「あ、いや、そういうことじゃあなくてだな。まあいい。続けてくれ!」
「うん」
何か含んだような物言いのクラウスだったが、すぐに気を取り直しパチリと指を鳴らす。
二つ目はレンガサイズに形を整えた石材を積み上げた石壁だ。
この石材は上下だけ磨き上げられていて積み上げた時に隙間なく埋まるんだけど、外側は削り出されたままのゴツゴツしたデザインになっている。
個人的には全てすべすべになっているよりは、雰囲気が出てよいと思う。
さて、クラウスの反応はっと……。
「いいなこれ! キッチリとした仕事をしつつも外側だけ岩のゴツゴツ感が出てて」
お、よい感じの反応じゃないか。
「他にもどんどん出していこうか?」
「いや、これで行こうぜ」
「じゃあ、これに近い雰囲気の物見を現地で出してみるよ」
「それなんだけど、時に兄ちゃん」
「ん?」
「俺が指示を出しながら、その通りに物見を建築していくことってできるか?」
「できる。試しに……そうだな」
いい機会だから、挑戦してみよう。
クラウスの言うようにパーツを組み合わせて物見を建築することは可能だ。
これまで俺は元から用意されていたデザイン――クラシックハウスしか利用していなかった。
今メニューを開いている「カスタマイズ」でパーツを組んでいくカスタマイズハウスも、一度やってみようと思っていたんだよなあ。
これまではなんかこう……面倒というかちゃんとしたデザインを作る自信が無くて使ってこなかった。
一からデザインを考えるとなると、時間もかかるしさ。
一番の理由はクラシックハウスのデザインが素晴らしかったってことが大きいけど。
もし、クラシックハウスにダンボールハウスみたいなネタ系しか無かったら……大量の時間をかけてでもカスタマイズハウスを建築していたと思う。
「場所を取るから俺の隣に立っててくれるか?」
「あいよ」
クラウスが俺の右側に移動したところで、タブレットに風景を映しこみ緑のマスを動かしていく。
同じ石壁のデザインを選択して――
横に三つ石壁を並べて、右端に繋げるように二つ石壁を設置。
これで横三、縦二のL字が完成だ。しかしまだ、現実世界にはこれを反映していない。あくまでタブレットの中だけにL字の壁は表示されている。
配置が決まったところで、決定をタップ。
すると、即座に音も立てずタブレットに描いた通りのL字型になった壁が出現した。
「うおおお!」
クラウスの驚きの声。
驚くのはまだ早いぞ。
続いては、先ほど設置した壁の上部に同じ壁を乗せていく。
準備ができたところで、決定をタップ。
これで、高さが二メートルの壁になった。
「すげえ。これならすぐに物見ができそうだな。一つの壁のサイズは一定だと考えていいのか?」
「うん、壁一つはさっき見せた通りだよ」
「分かった。こいつは楽しみだ」
意気揚々と俺とクラウスは物見を設置すべく現地に向かう。
◇◇◇
物見を設置する場所は昨日作ったゲートのすぐ傍である。
ゲートに監視員を配置する必要はないけど、ゲートのある位置は外周のちょうど真ん中に位置していた。なので、監視するにはちょうどいい場所でもあったのだ。
「よっし、ここに設置しようぜ」
「了解」
まずは外周に立って、必要な内側の土地を購入する。
続いてクラウスの指さすところへ石壁を次々に設置していく。
街側の面に中へ入る扉用に開けた一メートル(二つ壁分)の隙間がある五メートルの正方形が出来上がった。
高さは二段重ねて二メートルある。
二人揃って正方形の壁の内側に入った。
「階段ってあるか? なければこちらで縄梯子を準備しつつ、いずれ階段を設置する」
「階段ならあるよ。細かく一段ずつ設置していくことも、一メートル登る階段、二メートル登る階段といろいろあるぞ」
「おお。なら、二メートル分の階段を出してもらえるか? ここに」
「分かった。クラウスが立っている位置より、もうちょっと内側まで来るけど……」
「りょーかい」
案外階段のサイズが大きいな。でもまあ、中にスペースは必要ないし登りやすい方がよいだろう。
「二階部分はどうなるんだ?」
「ちょっと待って、先に今立っている床からやるから。床材はこの石壁と似たようなものでいいかな?」
「お! あるなら同じ素材がいいな」
床材の一覧から石畳を探す。
うん、同じ物があった。まずは地面に床材を設置して決定をタップ。
続いて、さきほど設置した階段を登り二階部分となる床を設置する。
「おおお、すげええ。いきなり空中に設置できるんだな!」
俺も正直、緑のマスを動かしたとき驚いた。
なるほど。このようにして二階部分や屋根を作っていくんだな。すげえお手軽だ。ハウジングアプリ。
これならもっと早くカスタマイズハウスに挑戦するんだった。
同じようにして、五階部分まで作ったところで上は屋上とした。
建物の高さはちょうど十メートルとなる。
屋上は落ちないように周囲を木の柵で取り囲んで、ついでなので木製の椅子を置いておく。
「あっという間にできちまったな! 頑丈そうだし、階段も使いやすい。ありがとうな! 兄ちゃん!」
「俺も勉強になったよ。クラウスの指示が的確だったからやり直しも無かったしさ」
お互いの健闘をたたえ合い、ハイタッチを交わす俺たち。
いやあ、我ながらいい仕事をしたなあ。
「残りもこれと同じように作りたい」
「分かった。次の現場に向かおうか」
「おうよ!」
次は北側へ向かうことする。その後は南側だな。
この分だとすぐに設置完了しそうだ。
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