第24話 会談
「公国側の代表は出してもらうことは当然として、公国と法が異なるし俺は君たちの下にはつかないぞ?」
「はい。草原は導師様の領域として我が国だけでなく、各国へも通達します」
「各国とは、草原を狙う国が他にもあるのか?」
「いえ、ございません」
最初だけ俺が間に入って、人間とモンスターの相互理解を深めさせよう。そのために、俺以外にお互いの言葉を理解できる人を育成したいな……。
彼らの言葉は英語と日本語の違いってレベルじゃなさそうだけど……。無理そうなら、仕方ない。やるだけはやってみよう。
「分かった。君たちは俺がここを管理するのなら、従うってことでいいか?」
「はい」
「俺のやり方へ意見が欲しい。それと、不満は必ず出るだろうから包み隠さず問題点を指摘してくれ」
「導師様が間違いを犯すとは思えませぬが……私どもへの心遣い確かに受け取りました」
超越した存在として見せてきたことの弊害だよな。
こればっかりは仕方ない。俺が威厳ある絶対的な力を持つ導師だと認識しているから、彼らは従うんだ。
人間・モンスター両方を説得するために、俺が絶対者に見えるよう振舞うのは効果的だと思った。事実、その通りで彼らは俺がいるから現在矛を収め、話を聞いている。
「
椅子が置いていあるここと反対側にいるリュティエが大きな声で俺へ呼びかける。
「わかった!」
リュティエに向け手をあげ応じる。
「導師様、私には獣が吠えているようにしか聞こえません」
マルーブルクは首を捻り、自らの率直な感想を述べた。
「俺が間に立つ。マルーブルク、そのまま中へ入ってきてもらえるか? 護衛の二人も連れてきてもらっていい」
「分かりました」
護衛の二人が険しい顔で剣の柄へ手を触れているな。
彼らの気持ちは分かる。だって俺はこれからリュティエらとマルーブルクたちを向い合せで座らせるつもりなんだから。
「武器はそのまま持ち込んでもいいよ。君たちはマルーブルクの護衛なのだから」
「かたじけない」
年配の護衛が頭を下げる。
おっと、アクセス許可を与えないと。
急ぎ、護衛二人をタブレットに映す。
『クラウス』
『フレデリック』
若い方の無精ひげがクラウスで、年配の紳士風がフレデリック。
マルーブルクも含め、三人へアクセス許可を設定する。
ちょうどアクセス許可の設定が終わった時、先頭のクラウスが芝生へ足を乗せた。
◇◇◇
物凄い緊張感が机を挟んで左右からビンビンくるぜ。一触即発とはこのことだろう。
例外はもしゃもしゃと骨つき肉を貪るマッスルブくらいのものだ。彼、実は大物かもな。
左側にマルーブルクら三人、右側にリュティエら四人、お誕生日席に俺が座っている。
多少は打ち解けていたタイタニアらの時と違って、今回は俺に出会ったばかりで俺は俺で彼らを威圧しかしてないから、こうなるのも当然と言えよう。
むしろ、彼らを席につかせた俺を褒めて欲しい。
「フジシマ、集まって何するぶー?」
「マッスルブ……君は流石すぎるな……」
くっちゃくっちゃと骨つき肉を食べる手を止めず、何も把握していないマッスルブは呑気な声で問いかけてきた。
これに慌てたのがリュティエだ。
「
「いや、リュティエも普通の言葉でいいよ。共に歩むと決めたのなら、俺たちに垣根なんてないさ。俺もこんな喋り方だし気にしないでくれ」
「そ、それはそれで……」
戸惑うリュティエへワギャンが助け船を出す。
「族長。僕らはそもそも敬語なんて使わないじゃないか。ふじちまは本心から言っている。僕らをこの地に暮らす仲間だと」
リュティエは族長だったのか……それはともかく彼らは族長相手でも敬語を使わないんだな。
外部の者相手以外には誰もが同じように話すってことか。いいね、牧歌的で。
「ヨッシー、ボクらも友人として振舞って良いのかな?」
「ぼ、坊っちゃま……」
そこへぶしつけにマルーブルクが発言する。
慌てたフレデリックが困った顔で彼を諌めた。
「もちろんだ。その方が君らしい」
俺はマルーブルクへ笑顔を向ける。
ヨッシーって呼び方はアレだが……。
「そっか、ボクもこっちの方がいいよ。堅苦しいのは肩が凝る」
マルーブルクは、へへんとばかりに少年ぽく鼻を指先でさする。
うん、そっちの方が俺も好ましいぜ。
ちゃんと年相応の仕草もするんだなと安心したよ。
「ふじちま殿。よろしくお願いする」
立ち上がって右手をさしだしてくるリュティエの手を握り、堅い握手を交わす。
ふじちまに「殿」をつけると間抜け過ぎるんだが、ここは突っ込まずそっとしておくか……。
「ホントに言葉が通じているんだね。不思議だ。ヨッシー、緊張感も多少は溶けたところで、そろそろキミの案を聞かせてくれないか?」
カラカラと子供っぽい笑みを浮かべて、マルーブルクは好奇心で目を輝かせている様子。
ゴルダが大量にあればいろいろできるんだが、無い袖は振れない。しかし、出来る限りのことはするぞ。
「俺が君たちを囲い込んだ土台があるんだが」
「あの不可思議な見えない壁があるところですな」
確認するようにリュティエが述べる。
「うん。この家から伸びる真ん中の通路を南北に一キロ伸ばす。これを君たちの境界線とする」
予算の関係で南北に一キロが限界だ。
囲い込む土地の購入費で五万ゴルダ。南北一キロを更に伸ばすのに合計二十万ゴルダかかる。
「それだけでは短いよね。ヨッシー」
指を一本立て愉快そうに俺の名を呼ぶマルーブルク。
「そうだな。そこは我慢してくれ。その代わり『退避所』を作る。詳しく説明するぞ」
「うん」
マルーブルクだけでなく、他の者も頷きを返す。
今ある縦二百メートルで横が五十メートルごとに東西へ区切られた区画をそのまま利用し、「退避所」に。
中央の道(土台)は、俺だけが入ることのできるプライベート設定とし残りは全て「パブリック設定」する。
パブリック設定は名前の通り、「誰でも入ることができる」空間だ。人間でもコボルトでも入ることができるんだけど、中央は俺だけしか入ることができないので区切りとはなる。
一キロ先から回り込んでくれば侵入できるけど、そこまでの殺意を持って境界線をまたいでくるのなら代表者を呼び出して説教しかないかな。
また、この「退避所」は外敵から身を守ることにも適している。グバアのような超生物がやって来た場合、退避所へ逃げ込んだら攻撃は全て弾くことができるだろう。
もっとも、パブリック設定であろうと我が土地はあらゆる敵対的な打撃の侵入を許さないのだ。これは確認済みである。
ワギャンたちといろいろ検証した時に確かめたんだよな。今回の戦争回避大作戦も彼らとの検証あってのこと。ただし、条件がある。これも伝えておいた方がいいかな。
「なるほど。ふじちま殿の見えない壁は絶大ですからな」
「弱点もある。俺が誰にでも入ることができるようにした場合、外敵も侵入できる」
リュティエは硬い言葉遣いのままだけど、彼にとってこの方が喋りやすいんだろう。本人が納得しているのならそれでいいや。
「それはマズイね」
マルーブルクは年少だが頭の回転が速いと思う。すぐにパブリック設定の危うさに気が付いたみたいだな。
「君たち一人一人と会って、今君たちがここへ入っているように入ることのできる人を決めることもできるんだ」
「なるほど。それなら、ボクらは協力するよ。リュティエさんだっけ? そっちはどうかな?」
「この人間……いや、マルーブルクは何と?」
目配せし合うリュティエとマルーブルクだったが、言葉が通じないので俺がマルーブルクの言葉を復唱する。
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