第456話 魔法少女たちのステッキが一斉に振り下ろされた

 ユウキはリンに指摘されるまでもなく『TZR』と記載された計器を注視していた。これが100%であるかぎり『バラバラ光線』も『電撃光線』も寄せ付けない。

 とくに 指向性の『分解光線』と異なり、無指向性の『電撃攻撃』は、一ミクロンの破損もゆるされない。

 ここに表示される『100』という数字は、自分にとっていま一番心強い数字だ。 


 こちらにむかって飛んでくる魔法少女たちが、ステッキをふりあげようとしていた——。

 さっき降下中に魔法少女の群れをすり抜けたときのように、なにごともなく通りぬけねばならない。


 その距離三百メートル。三歩もあれば駆け抜ける距離。


 魔法少女たちのステッキが一斉に振り下ろされた。ステッキの先から稲妻が走る。それは一瞬のうちにユウキのセラ・マーズを直撃した。


 からだが硬直するような、脳天を突き破るような衝撃にのたうち回る——。


 そうユウキは覚悟していた。

 このコックピットは大丈夫だ。だが、セラ・マーズが感電する可能性がある。そうなれば0・25秒間の痛みの共有は不可避だ。それだけで記憶が飛んだり、動きが止まったり、痛みに悶絶する可能性……、いや即死だってありうる。


 だが、なにもなかった。


 なにかが体表面を駆け抜けた感触はあったが、それだけだった。ただ、それだけで突進するセラ・マーズの動きが1ミリ秒たりとも遅延することはなかった。


 レイくんの言う通り、やっぱりこの群れも最初は電撃攻撃だ。


「いいわ、ユウキ。電撃は回避できた!」

 春日リンの声が弾ける。

 ユウキは口元をぎゅっと引き締めた。アルが塗布した超々絶縁体が奏功したか、完全にからだを覆った『移行領域』が機能したのかわからない。ただうまくいったという事実が積み重なっただけだ。そう、幸運が重なっただけかもしれない……。

 次はかならず『分解光線』をしかけてくる——。


 数百メートル先にイオージャの姿があった。だがレイをしてスマートと言わしめた悪辣あくらつな顔は見えなかった。イオージャの顔の位置を中心にして、正面に魔法少女が盾になって覆い隠していた。

 正面から突っ込んでいくユウキを、ステッキをふりあげた魔法少女が待ち構える。


「ユウキ、気をつけろ。『分解光線』を出してくるぞ!」

 ヤマトの警告がとぶ。


 だが、まだ魔法少女たちのステッキは振り下ろされない。あと一秒もすれば群れのなかにこの巨体は突っ込み、魔法少女たちを蹴散らしイオージャに激突するのにだ。


 ユウキはこのタイミングで一気に急ブレーキをかけた。

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