第440話 2466年 アイとのはじめてのデート1

 亜獣の計略だ、とヤマトは思った——。


 たしかにあの生物たちにそれほどの頭脳があるかは疑問だ。80年近く戦ってきても、いまだに未知数のままだ。人類並に狡猾であると導き出した研究者もいれば、爬虫類のように(それがどの程度脳がないか、今となってはピンとこないが)、ただ本能に従っているだけだと結論づけた研究者もいる。


 だが、その学習能力は侮れない。それは確かだ。

 弱点をつかれて駆逐されると、似た傾向の亜獣は二度と現れなかったし、逆に攻略に手をやいたときには、性質の似通った亜獣が立て続けに登場した。

 何者かの意図を感じさせる采配に、黒幕説や神の配剤説がでたことは一度や二度ではない。なかには『人類の終末』から自分だけ救ってもらうために、亜獣に告げ口をしている人物がいる、という話まででたことがある。その人物は現代の『ノア』になろうとしている、ということらしい。

 だが、今回のことは意図的であろうとなかろうと、自分を狙ってきているのは、まちがいない。おそらく、前回意図せず、リョウマを取り込んだことで、デミリアンそのものより、パイロットを狙い撃ちするほうが効果が高い、と学習したのだろう。


 サイテーに最高な日——。


 つまり、あれはヤマト・タケルに対する宣戦布告なのだ。


 なぜなら、いつだってあの日のことを思い出さないことはないのだから——。




「なんで、草薙中佐がついてくるのヨ」

 アイは開口一番、不満をまくしてた。


「あなたが渋谷に行きたいっていうからでしょう」

「だってデートよ、デート。それも初めてのね」

「だからでしょう。初デートのさなかに暴漢におそわれたくなんかないでしょ」

 アイはぼくの腕に自分の腕を巻き付けてくると、ぎゅっと力をいれて鼻高々に言った。


「そのときはタケルにまもってもらうからいいの!」

「ちょ、ちょっと、アイ。無茶言わないでよ。ぼくは『リ・プログラミング』でいくつかの拳法を学んだだけだし、武器も持ってないから守るなんてこと……」

「でも柔道と空手は『体得』したでしょ」

「からだは覚えているさ。でも使えるのと、戦えるのはおおちがいさ」

「でも、タケルはきっとあたしのために戦ってくれる!」

「襲ってくる暴漢が『リ・プログラミング』で拳法を『体得』してたらかないっこない。だいたいアイだって合気道とジークンドーは『体得』済じゃないか」

「それでも、タケルがあたしを守るのぉ!」


 アイはぼくの腕をつよくひっぱりながら駄々をこねた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る