第434話 管理されていた『死体』が逃げ出しました

「みなさんに、今、はいってきた情報を伝えます。フリートウッドで発見されて、ロンドンに移送され管理されていた『死体』が逃げ出しました」


「逃げだした?。盗まれたとかじゃなくて?」


「えぇ、逃げだしたの。自力で!」 


 司令部がざわついたのがわかった。だれも詳細は聞かされていないらしい。

「このまま戦ったら取り返しのつかないことになるかもしれないの」

「どういうことなのです?」

 事情がわからない面々を代表するように、ミライが草薙に質問をなげかけた。

 草薙はなにも言わずモニタに映像を再生しはじめた。


 それはどこかの倉庫のようだった。

 強固とすぐにわかる壁に囲まれた狭い部屋。だが、映し出されている三面の壁には、うっすらとトリミングされたような線があり、そこに引き出しがしつらえられていることがわかる。

 壁一面の引き出し。

 下のほうはかなり大きく区切られているが、上にいくにつれすこしづつ小さくなり、引き出しの数も増えてくる。引き出しは少なくとも壁三面にあるようだった。おそらくカメラの死角になっている手前側の壁にもあるにちがいない。

 草薙がその映像を早飛ばししながら説明をいれる。

「映像を詳しく見ている余裕はないから、かいつまんで説明します。これは四時間前の映像、電源切断作戦のすぐあとのものです。先日見つかった『フリートウッド』の四百体の死体と部位を移送した倉庫で、すべて元素凍結エレメンタル・フリージングして保管されていました」


 早送りの映像が、通常再生スピードに戻る。

 画面上に映っている右側の壁の引き出しが、ふいにドンと飛び出した。

 すぐさまフリージングのスモークがなかから漏れでてくる。

 が、その煙のなかでなにかがうごめいていたかと思うと、引き出しの中に寝ていた人間が、からだをゆっくりと起こしてきた。その顔が煙からすけて見える。黒人の女性——。

 すると今度は反対の左側の引き出しがゆっくりと押し出されるように、前にせり出しはじめる。今度はひとつやふたつではない。草薙は映像を早送りする。

 画面では正面の壁や最初の右側の壁、といたるところで動きだしていたが、草薙はそれを無視して先を進めた。逐一説明するつもりはないらしい。

「この倉庫はAI管理されている上、人間の警備員も複数常駐していたらしいの」

「だったらなぜ4時間も連絡もなく、ほうっておいたの?」

 レイがあきらかに草薙のしゃくに障るであろう質問を投げかけた。

 ユウキはレイの無神経さに腹がたちかかったが、草薙はやけに素直にそれに答えた。


「ええ。そう。それが問題なの」

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