第420話 アメリカ陸軍 魔法少女との戦いの記録2

 一人の兵士が魔法少女に背後から抱きつかれて、上空にもちあげられるのが見えた——。


 兵士はそのまま天井付近まで連れて行かれると、手をはなされて落下していった。その兵士は最後の最後まで銃を撃って抵抗していたが、『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベールのせいで、弾丸はすべて魔法少女をすり抜けていっていた。

 本来の作戦では多方向からの一斉射撃をしてこそ、つけいる隙が見いだせるはずだったが、連携する仲間もかなり減少してしまっては手の打ちようもない。

 スージーは走り回りながら攻撃を加えていたが、すでに肩で息をするほどに疲労していた。ぜー、ぜー、という息苦しい呼吸音がつねに聞こえ、体力的にも追い詰められていることがわかる。だが、スージーは逃げようともせず、逆に銃で上空の魔法少女を牽制けんせいしながら、フロアの中心をめざしているようだった。

 魔法少女たちは上空で取り囲むように輪を作りはじめている。


「なぜ、この隊長は敵のまっただ中に?」

 じっと見ていたヤマトが呟くように言った。

「しかたないでしょ。魔法少女に追いこまれてるのよ」

 アスカがあまり考えもせず反射的に、自分の意見を口にする。

「いえ。そうじゃない。ほかの隊員は外側に逃げて、むしろ中心からはなれてる」

 レイはスージーの視点から、施設内の全体図を俯瞰ふかんで把握しているようだった。

「もしそうなら、統率もなにもなくなっているのではないでしょうか?」

 クララが当然とも思える見解を述べたが、ユウキがそれに疑義を呈した。

「いや、クララ。映像だけではわからないが、どうも脳内通信テレパス・ラインかなにかで、ほかの兵たちへ指示が出されているように思える……」

 だがミサトは眉をひそめてミライに不満をぶつけた。

「ちょっとお、ミライ。これ本当に魔法少女を倒した隊の映像なの?。わたしには全滅寸前にしかみえないわよぉ」

 ミサトの苛立ちももっともだ。

 自分も初見で同じ感想を抱いた。『フラッシュ・プレイ(瞬間視)』だったので、その疑問はものの10秒ほどで解決したが、自分も『この状況で、援軍もなしに逆転できるわけがない』と思ったのだから……。

 ミライはミサトにすなおに返事をするかわりに、草薙大佐に質問をなげかけた。

「草薙大佐、あなたなら、この状況でどのようにしますか?」

 

 草薙はミライが唐突に投げかけた難題に、一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに持論を展開した。

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