第409話 アブドゥルたちの驚愕は恐怖に変わっていた

 アブドゥルは壁のモニタ画面から、生体チップデータ表示をさがす。

 だが、そこにはフラットなラインが示されていて、動いているこの事象とはシンクロしていなかった。

 次の映像に切り換わるとアブドゥルたちの驚愕は恐怖に変わっていた。

 そこにあの髭面のカメオの頭はなかった。

 アブドゥルは空中に手を這わせて操作画面を呼びだした。その手はがたがたと震えているのがわかる。アブドルはその震えを押さえながら『緊急』とかかれたボタンを表示すると、それをジェスチャーでクッと右にひねった。

 とたんに館内に警告音が響きはじめた。すぐにAI警備官が脳内にアクセスしてきた。

「アブドゥルさん、どうされました?」

「どうもこうも、保管庫がおかしいんだ。調べてくれ」

 だがAI警備官はものの一秒で返事をしてきた。

「いえ。何の異常もありません」

「そんなはずはない。動いたんだ。いやオレには、オレとイギーにはそう見えたんだ」

「はい。そうです」

 AI警備官がそう言った。

「そうです?。どういうことだ?」

「はい。みなさま大変元気でいらっしゃいますよ」

 アブドゥルはその返事にゾッとしてイギーの方に顔をむけた。

 イギーは床に倒れこんだまま顔をひきつらせていた。彼はこちらに目をむけたまま、ゆっくり右腕をあげて正面の監視モニタを指さした。その目はこちらを見ているというより、正面の映像から無理にでも目をそらしているようにさえ感じられる。

 アブドゥルはゆっくりと視線を正面にむけた。

 それはあの保管室の入口が映しだされた映像だった。

 中から誰かがドアを叩いていた。尋常ではないような叩き方だった。あまりのけたたましさにアラートと一体化して聞きとれないほどだった。

 アブドゥルはそのドアを叩いている者のうしろ姿に見おぼえがあった。

 それはアブドゥルがリサと名付けた黒人女性だった——。

 リサがふいに手をとめた。そしてゆっくりと振り向くと、表情のない顔でこちらを指さした。その腕にも見覚えがあった。彼女の右腕の付け根には、あの白人女性の腕がついていた。

 リサがゆっくりとこちらに体をむける。

 左半身があらわになってくる。アブドゥルは息をのんだ。リサの左腕についていたのは、白い左腕ではなかった。

 髭面のカメオの頭だった。

 肩口から生えるようについたカメオの顔が二タニタと笑っていた。


 その異形の物体に驚愕のあまり、アブドゥルはその場に尻もちをついてしまった。

 その時、アブドゥルはリサと、左腕のカメオがささやくように言ったことばを聞いた。



 まじかるうううう……。

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