第393話 これじゃあ船を沈めて乗客を始末できない

 甲板の上にでてきた人々の数はみるみるうちに膨れ上がっていく。百人ほどになってくると、自分たちの船を取り囲んでいる巨人が、自分たちがニュースで見知ったデミリアンという人型兵器であると気づいたようだった。人々は大声で叫びながら、こちらを指さしていた。なかには助けがきたと思って、おおきく手をふってくる者もいた。


 ヤマトは嬉しそうにはしゃいでいる乗客たちの様子を苦々しい顔で眺めた。

「タケル、このままじゃ沈められない横にしましょう」

 アイが提案してきた。ヤマトがモニタのほうへ目を移すと、アイは冷静そのものの顔をしており、動揺や逡巡の色はうかがわれなかった。

 アイのいる船首のほうの映像を見る。どうやら、そちらの甲板にはほとんど人がでてきていないようだった。こちら側のように、希望に顔を輝かせている人々を見ずに済んだのはラッキーだった。

「了解」

 ヤマトはそう言うと、船尾にかけていたセラ・ジュピターの手を持ち変えて、船の側面をつかんだ。アイもそれにあわせて、船首側をおなじようにつかんだ。

 アイのセラ・ヴィーナスを映しているそのモニタのすぐ上では、亜獣と取っ組みあっている父のマンゲツとテツゴ叔父のセラ・サターンの姿が確認できた。アヤトのセラ・マーズはどこかに潜んでいるのか、姿が見えない。

「せえのでいくわよ」

 ヤマトはコクリと頷いたが、掛け声はヤマトのほうからかけた。本能的にアイに先導させてはいけない、と思った。

「せえのぉ」

 ヤマトは昔ながらの祭りごとのような威勢の良い掛け声をかけた。

 今度はいとも簡単に船体が海面の上で横倒しになった。水柱が跳ね上がる。甲板のうえにいた人々が、あっという間に甲板を滑って落ちて行く。なかには十数メートルの甲板の右から左へ、そのまま落下していく者もいた。 

 だが、落ちていった人々は海を目の当たりしながら、船の周りを覆う透明なドームカバーに激突していく。人が何重にも重なった部分では、上から落ちてきた人に潰され、悲鳴があがる。カバーの下部、海との境界部分に上から流れてくる血が伝った。

 が、そこへ獣人が甲板に這い出てきた。

 横倒しになった甲板上をきょろきょろとしていたが、甲板の最下部に人間が折り重なっているのを発見すると、躊躇ちゅうちょすることもなく、そのなかへ飛び降りていった。

 逃げることができない人々は、上から降ってきた獣人の餌食になった。次々と噛みつかれ、血や肉片があたりに飛び散る。ドームカバーを流れ伝う血は、さらにその流量をまして、ドームカバーの下部に血溜まりができはじめていた。

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