第361話 ぼくが彼女を意識した日1

 ヤマト・タケルが茆目 愛えんま・あいのことを異性として意識しはじめたのは、エンマ・アイがはじめて亜獣との戦いの実戦の場に投入された日だった。たしかタケルが声変わりしはじめた頃だったはずだ。

 それまでアイのことは自分の世話ばかりやく、鬱陶うっとうしい存在にしか思ってなかった。そして今日、年上だという理由だけで、自分にはまだ許可されない実戦への参加を許され、ヤマトはさらに腹立たしさが募らせていたところだった。


 エンマ・アイが実戦で戦ったのは、67番目の亜獣で、悪魔の王のような名前の『ヴァルヴヴヴ』だった。

 その日エンマ・アイは、隊長のヤマトの父親のマンゲツ、副隊長の敦午鉄也つるご・てつやが搭乗するセラ・サターン、神名朱門かみな・あやとが搭乗するセラ・マーズと共に、亜獣が出現したカナダ州にいた。

 亜獣ヴァルヴヴヴは最初に地球に現れたとき、東南アジアの新興国に現れて、たった十数分の出現時間でかなりの被害を与えた。今回もデミリアンが到着したときまでに、すでに数千人の犠牲者がでていたが、戦闘自体はほんの一瞬で終わって、あっという間に討伐した。ヴァルヴヴヴは甚大な被害をもたらす亜獣であったが、強くはなかった。

 ヤマトはその日の不思議な感覚をふいに思い出すことがあった。


 そう、その日のことをぼくはよく覚えている。


 その夜おそくになって、エンマ・アイが大興奮して、ぼくの部屋に飛込んできた。

 パイロットスーツを脱いで、体調管理データを収集のための、ゆったりめの『リラクシング・スーツ』姿のままやってくるなり、ぼくの事情などおかまいなしにしゃべりはじめた。

「すごいでしょ、タケル。あたし、亜獣を倒したわよ!」

 

 ぼくはそろそろ眠りたかったし、自分で言うのもおかしいけど、あまりいい気分ではなかった。3年年上……、実際には2歳とちょっと上だけで、先に実戦に配備されたのが、ぼくにはどうにも納得いかなかった。

 それなのに、こんな夜更けに自慢話しに、部屋に押し掛けられたのだ。聞きたいわけがない。だけど、ここは自分の部屋でどこにも逃げようがなく、もし聞きたくないといえば、たちまちアイの機嫌で悪くなるのがわかっていたので、苦虫をかみつぶしたような顔をしてでも、おとなしく従うしかなかった。

 アイはベッドに腰掛けているぼくの横に、遠慮も恥じらいもなくドンと座ってから言った。

「今回の亜獣、えーと……」

「ヴァルヴヴヴ」


「あ、そう。ヴァルヴヴヴ。あいつ、口から泡をふくのよ。口から泡を吐きかけて、人も物も溶かしちゃうのよ」

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