第356話 ただの人間には興味がない。そういうたぐいの人種だ
アスカが右腕を前に動かした。
セラ・ヴィーナスの腕が前にゆっくりとあがっていく。右腕に左腕をくっつけているので、本来なら逆手になって前にあがるはずもないし、肘を前に曲げることなど不可能だ。
だが、ヴィーナスの腕は問題なく前に曲がった。肘の関節がどうなっているのかわからなかった。逆さまについているはずの腕は、左腕とおなじようになんなく動いた。
「メイ、なぜ、前に曲がるの?」
「なぜ?。アスカ、そんなのわかるわけないでしょ」
「わかるわけない?。ちょっとぉ、メイ。あんたたちがなんかやったから、元に戻ったんでしょうがぁ」
「アスカさん。元にもどったわけじゃないのよ」
「元にもどったわけじゃない?」
「そう、人知を超えたなにかなんでしょうね。元にもどった、というより進化したっていうべきかしら」
「進化したって、どういうことですか?」
ヤマトがモニタのむこうでリンに疑問をなげかけた。
「アスカ、そっちの腕を思いっきり、うしろに振ってみてくれる」
リンはヤマトの質問に答えようともせず、アスカのほうに注文をつけてきた。アスカにはその意図はわからなかったが、言われた通り、右腕をおもいきりひいてみた。すると、そのまま右腕は肩でぐるんとまわって、腕が逆向きに曲がった。
「ど、ど、どういうことよ。前にもうしろにも腕が曲がったわよ」
「えぇ。そのようね。便利でしょ」
「ちょ、ちょっとぉ、そんなのでいいのぉ」
「アスカさん。うしろ向きのままでも、正面とおなじように物が掴めるのよ。戦い方が広がっていいんじゃない?」
「いや、でも……」
そこまで言ってアスカは、腕ではなく手がどんな風になっているのかふいに気になった。
あわてて手を前に引き戻すと、手のひらをひろげてみた。
手のひらは逆向きになっていた。親指が内側にある。右腕に左腕をとりつけたのだから、当然といえば当然だ。
「これじゃあ、ものを掴めないンじゃないの?」
「まぁ、順手じゃなくて逆手になるからねぇ。すこしコツがいると思うわ」
「でも、アスカさん。これであなたも次の戦いには出撃は許可されると思いますよ」
ショートが皮肉ともとれるようなことを言ってきた。だが、モニタに映る彼女の笑顔は本物で、当てこすりではなく心からそう思っているようだった。
たちまち、アスカはこのショートという女が、リンと同種の人種であるとわかった。
ただの人間には興味がない……そういうたぐいの人種だ。
ショートがセラ・ヴィーナスを見あげたまま、満面の笑みを浮かべて言った。
「これだからこの子たちを相手にするのはたまりません。興奮しますね」
彼女の顔はこころなしか上気しているように見える。リンが潤んだ目つきでそれに同意して言った。
「えぇ。同感よ。この子たちはどんな男よりも、わたしを昇りつめさせてくれるわ」
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