第349話 ならば、十三を使ってくれ

「ヤマト・タケル。それは少々誤謬ごびゅうがあるね。ぼくがそう言ったわけではない。世間がそのような評価をしているだけだ。たかがAIを出し抜いたくらいでね……」

 そういう口元はこれ以上ないほど、余裕に満ちていた。

「それに評価を受けたのはぼくじゃなく、『セイント』というぼくのハンドルネームだ。ぼく自身の存在は知られるわけにはいかないしね」

「じゃあ『セイント』。もう人肌ぬいでもらいたい。頼めるかな」

「遠慮する必要はない。なんなりと申し付けてくれ。地球を救う仕事以外なら、なんだってやってやるよ」

 セイヤはコンタクトをとるたびに、毎回おなじジョークをとばしてくる。自分の父親がメインパイロットだった頃、ヤマトも一緒にこの部屋でセイヤと何度か話をしたが、毎回このお気に入りジョークを一回は挟み込んでくる。


「あのふたりを消してもらいたい」


 ほんの一瞬だけ間が合ったが、セイヤは内容に異議を唱えるようなことはしなかった。

「どういう風に?……」

「それはきみに任せる。だけど、できるだけ早急に抹殺まっさつして欲しい」

なる早アズ・スーン・アズ・ポッシブルってこと……。やつら、相当『やばい』ものを知っちまったということかね?」

「あぁ。一瞬で気が狂うようなものを偶然、吹込みされてしまったようだ」

「なるほど……。そりゃ、急がんといけないね」

「あぁ。彼らの『霊覚』と『想覚』を絶対に知られるわけにはいかない」

「だけど、ふたりとなると、ちょっと時間がかかるがいいかい……」

「いや。ならば、十三を使ってくれ」

「十三さんを?」

「だめか?」

「いや、でも計画を練らしてもらわんと……」

 テンマが思案をめぐらしはじめ口をつぐむと、脇から十三が提案した。

「テンマ様、今回のように足がつかないペルソナを用意いただき、わたくしを『素体』に憑依ひょういさせていただければ、こちらでなんとかしますが……」

「いや、それだけじゃあ無理。ヤマト・タケルとちがって、きみには生体チップが埋め込まれている。AI監視システムをだまさなくては、きみが殺意をもった瞬間、すぐに感知されて……」

「テンマ、それは心配しなくていい」

 テンマの懸念をヤマトが制した。


「十三は感知されない。十三はエッグ・ベネディクトを作るときのように鼻歌を歌いながら、ひとの咽を掻ききることができる……」

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