第345話 人間の壁が崩れ、死体が滑り出てくる

「覗き込んだとき……」

「わかっている。きみは覗き込んでいない。それはきみの『網膜ログシステム』で確認済みだ。だがディオの『網膜ログシステム』は破損しているのか、なにが映っているのかわからないのだよ」

 ジョナサンはすこし肩透かしをくらった気分だった。『網膜ログシステム』でリアルタイム送信された自分が見た光景は、もう何度も見させられたし、ディオの目に映った光景も何度か見させられた。

 ブランドーが中空をまさぐるような仕草をして、映像データを空中に呼び出した。何度も見せつけれられたディオの視覚データが再生されはじめた。

 そこにはあのときの瞬間が生々しく記録されていた。


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 開いていく貯蔵庫の入り口正面。


 ディオは視界をさまたげるフリージングの煙のむこうに目を凝らす。

 だがあるはずの空間の代わりに、デコボコとした壁が入り口をふさいでいることに戸惑い、視点があちこちに飛び跳ねる。が、そのデコボコした壁に焦点があうと、それがこちら側にむけて積み上げられた人間の頭であることがすぐにわかる。

 ディオの呟く声が聞こえる。

『ひとりじゃない……』

 次の瞬間、奥のほうでゴトリと音がする。

 と同時に、人間の壁の一番下の段がふいに崩れ、黒人の女性の死体が滑り出てくる。ディオの視線はその死体に釘付けで、自分の脇をすり抜けていく死体を目で追う。

 その目の端に、一気に人間の壁が崩れ、あっと言う間に何体もの死体が滑り出してくるのが映り込む。あわてて貯蔵庫の入り口に注意をむけるディオ。

 だが、視線が戻り切る前に、死体に足をさらわれて、ディオは前につんのめったまま床に叩きつけられ、したたかに頭を打ちつける。

 ゴンという鈍い音。

 が、ごろごろと凍った死体がディオの周りに響き、そのうちのいくかがゴツン、ゴツンという音をたててディオのからだにぶつかっていく。

 ディオは這いつくばりながら、横に移動しようとする。

 目の端に床から突き出しているポールが入ったのがわかる。進入禁止用ポールかなにかが、たまたま穴に突き立てられていたようだ。ディオが飛びつくようにそのポールを両手で掴む。

 そのあとはディオは目をぎゅっとつぶったため、なにが起きているかは見えなかった。ポールから手を離さず、なんとか死体の雪崩なだれに流されずにすんでいるようだったが、押し寄せる死体がぶつかり続けていたのはわかる。

 ゴトンゴトンという重々しい音がずっと響き、その途中、なにかがぶつかる鈍い音と、ディオの呻くような声が差し挟まれていた。

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