第340話 だから助っ人を呼び戻すことにしたの

「どういうこと?。リン、あんた、まだなにかを隠すつもりなの!」


 ミサトは間髪をおかずに畳みかけた。

「あ、いえ……、ごめんなさい。これは隠してるのとちがうの」

「なにがちがうのよ!」

「エドがみた、と言ってた話を、いつのまに信じてしまってたみたいで……」

「なにを?。なにを見たって言うの?」

「ええ。それが……、このあいだ武漢での戦闘のあと、わたしとエドで被害状況の把握と死体の検分に行ったでしょう」

「ええ、死体がまったく見つからなかったっていう、とんでもない報告書を読んだわぁ」

「そう。信じられないことにね。でもそのときエドは不思議なものを見たような気がするって、わたしに打ち明けてくれたの。わたしは見てもないし、そんな気配する感じなかった。だから聞いても真実だとは思えなかった」

「なにを見たっていってるのよぉ。エドは?」

「それが、瓦礫がれきのなかに『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』が現れて、なにかがそのなかに逃げていったって……」

「なにかって何?。もどかしいわね」

「それがわからないのよ。でもそれは人間だったけど、人間の形をしていない『なにか』だったって言い張るの」

「まったくわかんないわね」


「それが、首のない人間がふたりが、その首と首の切り口をくっつけて四つんばいになっていて……、四本の手と四本の足で動物のように歩いていたって……」


 ミサトはできる限り、愛らしい姿でそのフォルムを想像してみた。だがどんなに戯画化カリカチュアライズしても、グロテスクなクリーチャーが浮かんできてしまう。あまりに気色の悪い姿に、ミサトはリンに文句をつけた。

「ちょっとぉ、リン。ヘンな想像させないで。酒がまずくなるじゃない」

「ごめんなさい。でもエドがほんとうにそれを見たとしたら、魔法少女には別の能力があるような気がして」

「マジ……。もしそうだとしたら、わたしたちの手に負えるものなの?。あなた、そんな厄介な二体の亜獣を相手に戦えるの?」

「難しいわよ。だから助っ人を呼び戻すことにしたの」

「助っ人?」

舎利弗 小人とどろき・しょうとという研究者。わたし並の無類のデミリアン・ラバーズで、前にここでも働いていたこともあるわ」

「ここで?。なぜ辞めたの?」

 春日リンは居心地悪そうに軽く肩をすくめてみせた。

「あぁ、それはブライトといろいろあってね……。ブライトのせいで、パイロットだった彼女の恋人が亡くなったって……」

「へー、とうことは、その子もブライトの被害者っていうことね」

「ん、まぁ、そうなるかしら?」



「なら、その人とも仲よくやっていけそうだわ」

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