第338話 どうしてわたしの初陣はこんな厄介な戦いなの!

「どうしてわたしの初陣が、こんな厄介な戦いになっているのよ。だってそうでしょう。一度に二体の亜獣がでてきたのは、今までの80年間もの人類と亜獣の戦いにおいて、たった二回しかないのよ」

「えぇ。もちろんわかってる。約三十年前のときと前回の戦いのときだけ。まぁ、三十年前は、亜獣が出現したときに、半年ものあいだ倒せない前の亜獣が残存していただけだったのだし、前回はセラ・プルートが亜獣に変えられたというイレギュラーだった」

「そう。今までの定説では、亜獣は二体同時に現われない。そうだったわよね、リン」

「ええ、たしかに今まではそうだった……」

「本当に言い伝えどおり、総数が108体なら亜獣の残りは十体切ってるのよ。あともう少しで人類は亜獣との戦いに勝利できる。なのにここにきて複数での攻撃ってどういうことなのって思うわぁ」

「つまり、亜獣も追い込まれて、かなり焦っているということではない?」

「ほら、やっぱりもう一体いるっていうことじゃないの」


「早合点しない、ミサト。もしもう一体いたとしたら、という仮定の話」


「はん、でもあなたの顔には、それは仮定じゃないって書いてるわぁ」

 そう言ったとたん、なぜか笑いがこみあげて、けたけたと声をあげて笑った。

「ミサト、酔ってる?」

 リンが眉根をよせて、怪訝そうにこちらを見つめた。

「いいえ、酔ってなんかない。でも笑えてくるの。私の切り札になってくれるはずのあなたが、まだわたしに隠し事をしているってわかるから……」

「ミサト。デミリアンの責任者として、私にも言えることと、言えないことがあるの。察してちょうだい」

「それが直属の上司であっても?」

「ええ。直属の上司の司令官で、からだの隅々までなめ尽くすように知っている彼氏や。理解があって気の合うその彼の元彼女であったとしてもよ」

 リンは当てこすりのように言ったが、すこし言い過ぎたと感じたのか、すぐに捕捉することばを続けた。

「理解してちょうだい。わたしはヤマト・タケルと同じように専権事項をかかえているの、いくつもね。それは国際連邦軍の規律にも縛られない上位の命令なの」


「つまりその専権事項のアドバンテージがあるから、その事実をつきあわせることで、もう一体の亜獣の存在を確信できたっていうわけね」

 それまですこし強気な抗弁を垂れていたはずのリンがことばに詰まった。真正面からの正論にすこし怯んだのかもしれない。

 だが、リンはすぐにことばを続けた。弱みを絶対にみせない彼女らしかった。


「まぁ、そうかもしれないわね。だからわたしとタケルくんはあの魔法少女は亜獣そのものではなく、なにものかに操られた傀儡かいらいだと結論づけたのだから……」


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