第336話 だれにも言いたくなかったとっておきの情報だ

「だれにも言っていない?」

 

「あぁ、だれにも言いたくなかったとっておきの情報だ」

 そう言った金田日の表情は真剣そのものだったが、切羽詰まっている焦りが目に、止むに止まれぬという無念さが口元にうかんで感じられた。

「だが、今この状況ではそう言っていられない。悔しいが切り札を切るしかない」

「それをなぜぼくに?」

「一気に挽回するには、きみの協力が不可欠だからだ。それにきみの信用が揺らいでしまっては、ぼくら民間の亜獣の専門家にだっていいとは言えないからね」

「そうか。きみの提案がぼくへのエールじゃないとわかって安心したよ。きみの腹の底をこれ以上勘ぐらなくて済む」

「は、きみがこれまででもっとも亜獣討伐に関与してきた研究者であることには一目をおいているさ。だがわたしのほうがうまくやれる、という自信もある」

 エドの皮肉を呼び水にして金田日の皮肉が続きそうだったので、エドは先を促した。

「で、どういう作戦だ」

「それは、テレパスラインの秘匿回線で。エド、わたしの生体アカウントを認証してくれたまえ」

 そう言ったとたん、頭のなかに金田日の顔の映像がふっと浮かんだ。その上のほうに『認証してください』というアラートが点滅している。エドが心のなかで『金田日先生を認証する』と思うと、ふいに頭のなかに金田日の声が飛び込んできた。

「ありがとう、エド。ずいぶん前に締め出されて以来だね』

『余計なあいさつは不要だよ。金田日先生、とっておきの情報をおしえてくれたまえ』

『あぁ。先日見せた魔法少女の発生マップだが、じつは見せなかった部分がある』

『見せなかった?。きみは国連軍に全面協力してくれていると聞いていたが?』

『ほとんどのデータは提出したさ。だけど一部のデータはね……』

『どういうことだね。それではこちらも正確な解析が……』


『この基地内に赤い点がともった』


 金田日はエドの抗議をひとことのもとにはねつけた。エドはその意図通りに押し黙まらされた。ことばをうしなうに足る衝撃だ——。


『こ、この基地内に——?』


『あぁ、それも比較的、いやかなり早期の段階で魔法少女の斑点がこの基地にうたれたのだよ』

『ど、どこだ。どこに?』

『それはわからない。いや特定できていないというべきだろうな。なにぶんにもこの魔法少女の計測の誤差範囲は、直径で2km程度なのだから……』

『じゃあ、基地内ではない可能性があるじゃないか』

『あぁ。もしかしたら基地の外かもしれない。だが今のわたしたちはそう考えられる状況にないのだ。どうにかして基地内に潜んでいる魔法少女を探し出さなければならない、それができなければ亜獣専門家の権威は地に落ちるという覚悟でね』

 エドはその不退転の覚悟を金田日の顔から読み取った。もしかしたら自分の顔にもおなじような表情が浮かんでいるかもしれない。

『だ、だけど、どうしたらそれを見抜けるというんだ』

『それをいまから一緒に考えようじゃないか……』

 そういうと金田日は馴れ馴れしく、エドの肩を掴んできた。エドは不快だったが、ふりほどくのもおぼつかず、されるがままにしていた。


 そのとき、ふと、エドのこころのなかに違和感がもちあがってきた。直感的なアラートというべき、なにかが脳裏に想起されていき、知識が上書きされていくような、不思議な感覚が満腔まんこうをみたしていく。

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