第203話 よく三人とも生き延びられたものだ

「これはひどい……」

 ミライに率いられ、パイロットエリアのラウンジルームに通されると、ユウキはその部屋の惨状を目の当たりにすることとなった。聞き及んではいたが、正直想像以上だった。

 そこかしこの壁は銃弾の痕や爆発で、削れたり崩れたりしていた。

 まさにこの狭い場所で、戦争があったのだと実感させられる状態だった。修繕ロボットや大工アンドロイドが、何体も忙しくたち働いていたが、元にもどるにはどれくらいかかるのか想像もできなかった。素人目でみても修復するより、最初から建て直したほうが早いのではと思える箇所すらある。

 ユウキは部屋の隅に武装したまま直立不動でいる男に気づいた。

「あの人は?」

 ミライに尋ねると、彼女はそっけなく「草薙大佐の部下のバットー中佐です」とだけ答えた。だがすぐに背後から草薙大佐の声が補足してきた。

「ふだんは私たちはこのエリアに立ち入れないのですけどね。先日のような事件のあとなのでね。工事時間中は、私たち警護のものが常駐させてもらっています」

「確かに必要ですね。それにしても、よくタケルくんやアスカくんたちは生き延びられたものだ」

「は、あたしもそう思うわ」

 アスカが腕組みをして言った。前々からあまりうまがあうとは思っていなかったが、今日はそれがあからさますぎて、ちょっとこっけいに感じられほどだった。

 兄を亡くしたばかりだし、このラウンジであったことを考えれば、少々不孫な態度が過ぎるのも想像にあまりある。


「エルさま、朝食ができておりますが、いかがなさいますか?」

 一向が階段をあがりかけた時、そのすぐ脇にある部屋から、ピシッとした身なりの男が声をかけてきた。

「エルさま?」

 おもわず口をついてでたことばに、レイが反応した。

「タケルのこと。執事の十三だけ、そう呼んでる」

「なんで、エルなのですか?」

 それまで黙りこんでいたクララが尋ねた。

「発音が苦手でうまく言えなかったから、そうなったって聞いた」

 ヤマトが十三の方に顔をよせた。

「この新人さんたちのオリエンテーションが終ったらいくよ。朝っぱらからセレモニーに参加させられたからね。もうおなかぺこぺこ」

 お腹をおさえるジェスチャーをして空腹を訴えた。それを聞いて自身も空腹なのに気づいたのか、ミライが声をはった。

「ほんと、そうね。さっさとすませてしまいましょう」

 なにやら不機嫌だな。

 その声色にユウキはミライの心中を察した。

 臨時の司令官だけでなく、その上の総司令が赴任することを聞かされてなかったから?。それとも自分の副司令という立場がおびやかされるという不安?。

 何にしてもウルスラ・カツエ総司令とカツライ・ミサト司令、ふたりの上役の出現に現副司令は心おだやかではないのは確かだ。


 自分たちにあてがわれた部屋は階段をあがったすぐ横だった。一番奥がヤマトの部屋と聞いて、ちょとしたヒエラルキーが存在するようにユウキは感じた。ただ実際には部屋の広さや構造自体には大きな差はなく、どの部屋になにも不平不満がでないようになっていた。飾り気もなにもない。清潔さだけがと取り柄な部屋。

 だがユウキはそれが気にいった。

「いいですね。シンプルそのものだ」

「でも何もないわ」

 クララが不満そうに呟いた。

「そんなの、自分で勝手に飾ればいいでしょ」

 アスカのことばにレイが続けた。

「ええ。私は部屋に、母さんの写真をかざってる」

「レイ君が?。それは驚いたな」

 ユウキは心底驚いた。レイは自分と同じ種類の人間だという認識があっただけに、ふいうちを突かれた思いだった。

 亜獣との実戦を経るというのは、こんなにも生き様を変えてしまうものなのか……。

 

 もしかしたら、自分も変わってしまう?……。

 

 ユウキは鳥肌がたつのを感じた。



 この感情はなんだ。恐怖、期待、それとも……。

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