第102話 亜戦が現われる場所が、ちがっている

 

 亜獣出現予定時刻が近づき、司令部内はあわただしくなっていた。教会から帰ってきたブライトやアル、エドたちは少しでも準備の遅れをとりもどそうと、それぞれが最終チェックをしながら、各所に指示をとばしていた。ただ女性陣は少し違っていた。教会にいたりンに李子は当然として、ほかの女性クルーたちもまだ浮ついている雰囲気が感じられた。

「無理もない」

 ヤシナミライはそう思った。

 モニタ越しにみていた自分ですら、ヤマトとアスカが誓いあっている姿に胸が熱くなったのだ。まるで結婚式をみているような気分で、自分でも存外ではあったが、その姿にうっとりとしてしまった。戦争の最前線にいるのにそんな感慨に浸るとは、自分はつくづく女なのだと、ミライは思いしらされた。まわりの男性スタッフはそんなことにとらわれることなく、自分の仕事に真摯に取組んでいるのを見ると余計にそう思える。

 だがミライは込みあげた感情をおちつかせると、自分も目の前の仕事に注力することにした。これだから女は、などという四世紀も前の死語を持ちだされてはかなわない。

「亜獣、出現予定時刻まで、あと三分です。各員、持ち場の最終チェックを願います」

「ヤマト、レイ、アスカ、スタンバイOKか?」

 ブライトの最終確認が聞こえてきた。

 三人のパイロットから各自バラバラに承認の返事が戻ってくる。

 ブライトの確認が続く。

「フィールズ中将、そちらの火器の準備はよろしいでしょうか?」

「ブライト中将、完全だ。問題ない」

 その間にミライも名部問にチェックを飛ばす。

「アイダ博士、三人の精神状態は万全で、よろしいですね」

「ええ、驚くほどにね」

「春日博士、デミリアンの状態は?」

「三体とも何の異常もないわ。いつもどおり健康そのものよ」

「アル、装備はどうです?」

「いらねー心配だよ。GW素子も満タンだね。続けざまに三体くらい倒せるくらいのパワーは充填してるからね」

「エド、亜戦の位置は」

「予測通りあと三十秒で富士ツインタワー正面に出現するはずだ」

「ブライト司令、あと三十秒……」

 ブライトが無言で肯首したのがみえた。いつもより少し緊張しているようにも感じられる。日本国防軍と共同戦線の指揮をとるということが、今になって重厚になってきたのだろうか。だとしたら兵の多いだけのフィールズをうらやましがらなければいいのに、と感じた。しょせん、その程度の器だと自分で白状しているのも同然ではないか。

 ミライは人のものうらやむ気持ちを吐露したブライトに対して、少しシンパシーを感じた自分が馬鹿みたいに思えた。

 ミライはメインパネルを見つめた。

 空間のゆらめきの計測値がじりじりと上昇しはじめていた。

 亜獣が出現する合図だ。

 時間も予測された時刻と差異はなさそうだ。

 だが何かがおかしい。

 ぐんぐんと数値をあげていく計測データ。

 ミライはカッと目を見開いた。

 体中の毛穴からこれまで経験したこともないようなほど汗がふきだすのを感じた。

 嘘。ウソ。うそ。



 亜戦が現われる場所が、ちがっている。

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