第71話ゾラム領ー4

「私達は・・・」


俺はゾラム侯爵の言葉を聞いて頷き


依頼完了の証書と保証書を書いてもらった。


時刻は午前11時。ゾラム侯爵からの好意で


昼飯を頂き、翌日迄の一泊を行う。


午後はニバルの街と用事の為、外に向かう。


俺とヴァイス、ガデル、フィル、ルティ、ブラッド


べラムのメンバーにガデルを加えて歩く。


「・・・案内するのは貴方なんですね?


アイサさん…」


「当たり前よ!私が住んでる街なんですから!」


案内にアイサさんが加わる。


ルティはヴァイスの頭に乗ってる。


ブラッドは甲冑を脱いで行動している。




反乱起きて1日経つが活気が良い。


笑顔で会話して当たり前の光景のように


歪さは感じられない。


侵攻されて不安や怯えなどしてると思っていたが


何事も無かったように過ごしてる。


元気に子供達が走り回っている。


大人も井戸端会議している。


屋台や商店でも笑顔で振る舞い


たまに値切りで崩れるお客さんや店主がいる。


平和な街だ。べラムに負けないぐらいに。


トキ達は平和な街で各所回りそう感じていた。




「「「・・・」」」


トキ、ヴァイス、ガデルは無言で街を回る。




・・・・・・何か違和感あるんだけど?


何で活気あるの?普通は違うよね?


襲われてまだ1日だよな?


あれかな?侵攻無かったようになってる?


そんな馬鹿な!人の恐怖は直ぐに消えないよ!


そんな事考えてるとニバルの入口に着く。




「「「・・・なるほど」」」


3人が同じタイミングで声を出す。


2人は俺と同じ街の違和感を感じてたらしい。




俺の作った牢獄に布の高い囲いが出来ており


四方の外に4つの受付が設置されている。


各受付に2列の並びが出来ており


行列となっている。中は幕があり見えない。


1つは各場所の出口のようだ。


皆笑顔で並ぶ。怖いんだけど…


受付に金を払い引き換えに石やボールを


1人10個ずつ渡していく。


見ていると補充係がいる。


外から石を持ってきている人や


中から回収した石やボールを受付に渡す。


・・・どうやって回収してるんだろう?




試しに俺達も並んでみる。


並んでると何度も列に並ぶ人がいる。


礼服着てるから貴族かな?


そう思ってると人の回転が考えていたよりも


早く受付に着いた。


銅貨2枚で投げる物を貰い、中に入る。


中は・・・




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┗┓┏━┓┏━┓┏┛ 上から見た略図




各面の左と真ん中が入口、右に出口となっている。


牢獄の回りに柵があり中に入らないようにしている。




「お前らのせいだぞ!」


「なんて事考えてやがるんだ!馬鹿ども!!」


「夫の浮気はあなた達のせいですからね!!」


「死んでないが孫の敵じゃ!」


「俺の荷物返しやがれ!!売り物だぞ!!」


「領地の民の怒りを思いしれ!罪人があ!!」


「息子を返しやがれ!反乱軍!!」


「泣いてるよ?面白いね?父さん?」


「あれは罪人だからな!面白がるな!


悪いことするとああなるぞ!」


「分かった!良い子でいるね!面白がらないよ!


ああなりたくないから!」


「もうしませんから許してください!!」


「死なせてくれぇぇ!!」


「反乱考えなければ良かった・・・」




・・・すっごい罪悪感あるんだけど…


・・・人に悪意を覚える光景だな…


・・・子供の教育に使われてるし…




鬼のような顔で投げまくる人達。


ストレス発散や八つ当たりで投げる人。


教育の為に連れてくる親。


泣きながら懇願する反乱軍。


完全に子供に見せてはいけない光景…


「・・・地獄ってこんななのか?


・・・人ってこんなに変わるのか?」


鬼の如く責めるひとに阿鼻叫喚する囲いの中で


俺はつい呟いてしまった。


この牢獄無くなったらどうなるんだろう…




投げ終えてスッキリした人や


物足りない顔をする人がいる。


布の囲いの角に人がおり、一定時間経つと


「中の床にある転がってる物を転がして出せ!」


命令され泣きながら転がす罪人達。


それを回収する補充係。


補充中は投げさせていない。


係に当たると危ないからと規律を作ってる。


回収終わると再び地獄が始まる。


アイサは全力で投げていた。


俺は流石に引いて牢獄に転がす。


全てを放ち終えて俺達は出口から出た。




アイサはスッキリしていたが


俺はなんとも言えない気持ちになり後悔していた。


苦々しい顔をしていたと思う。


その状態で街から出ていく。


「先生…人ってあんなに変わるの…」


「ヴァイス…考えるな…見なかった事にしろ…」


「トキ…俺もあんな感じで復讐してたのかな…」


「ガデル…お前の復讐とあの悪意は一緒にするな…」


「主様…人間…怖い…」


「ブラッド…俺も人間だが…怖かったよ…


あれ無くなったらニバルどうなるんだろ…


考えるだけでもゾッとする…」


「主殿達は楽しくなかったのですか?」


「キュイ!」


「フィル、ルティ…後で説教な?正座させる!!」


「そんなあ…」「キュゥ…」


「トキとヴァイス達は楽しくなかったの?


ストレス発散出来てスッキリしたわ!!」


「・・・ヴァイス…任せた…」


「了解です…先生…アイサ姉様?


あれは人を悪魔に変えるものです!


・・・アイサ姉様も後で説教しますので!


正座が染み付くまで説教しますからね!!」


「えぇ・・・なんでよ?」


「父様も通った道ですので通します!!」




俺、ヴァイス、ガデル、ブラッドは


あの悪意に満ちた光景に恐怖を感じてた。


ガデルは復讐について考えてる。


復讐する自分はあれと同じになってるのでは?


と考えている。


逆にフィル、ルティ、アイサは楽しんでいた。


あの悪意に気づかなかったのか?


フィルとルティは俺が、アイサはヴァイスが


後で精神鍛え直してやる為の説教を宣言する。




俺は気持ちを切り替えて用事を済ませる。


ニバルの外に反乱軍の拠点がある。


ゾラム侯爵は俺の寝ている間に拠点を回収していた。


俺達は隠されてる物が無いかを確認するために


森に入る。俺達は7人いる。


俺とブラッド、ガデルとフィル、


ヴァイスとアイサとルティの3組に分けて


範囲を広げて森を探索する。現時刻は午後2時。


探索時間は午後5時までと伝える。。


俺が空に魔法を打ち上げ終わりの合図を出す。


「さて気持ちを切り替えて始めるか!


探索の決まり事は理解したか?


理解したなら各組に分かれて開始だ!」


俺は開始を告げ動き出した。




~トキとブラッド~


「久しぶりに魔物以外の動物みるな?


鳥に狸に猪、熊なんているし


人の死体も!色々・・・死体!?」


「主様…これ…最近…」


「そうだな…息はしてないがまだ血が流れてる…


これは切り裂かれた痕だな?残党がいたか?」


トキとブラッドは死体を見つけて確認して


周囲を警戒する。




「鳴き声しか聞こえないな…ブラッド!


武器構えとけよ!」


「了解…主様…」


俺はフルバルを右手に、


ブラッドは小さなバットを右手に持つ。


バットは脇差しと同じ大きさの物。


脇差は刃渡り1尺(30cm)以上


2尺(60cm)未満の物を言う。


バットは脇差しギリギリの大きさ。


ちなみに小太刀は太刀の一種で


刃長が二尺(約60センチ)前後の刀である。




武器を持ちながら探索していると


不自然に掘り起こされた形跡の地面を見つける。


足跡は奥に続いてる。3人か?


それぞれ大きさの違う足跡。


俺達は奥に進んでいく。




進んでいくと動物の鳴き声が静まる。


最後は悲鳴に近い鳴き声だった。


足跡の途中で死体の列が出来ている。


「奴等は考えてないのか?」


「主様…考えてない…」


「だよな?自ら終われてると知らずに


道を残しているんだからな!


しかも食べる為にじゃないからな!


快楽か?苛立ちを覚えるぞ…


仕方無い…追跡は終わりだ!捕まえる!


何かしそうなら腕を折っても構わない!


これ以上、死体を増やすな!」


「了解…主様…」




俺達は追跡を止めて消音で森を駆け抜ける。


揺れる木葉を落としながら。


深く暗い森の中を進むと明かりが見える。


太陽の光ではない。火の灯るランタンの明かり。


光に気付き静かに近寄る2人。


「ねぇ!ここで合ってるのぉ?流石に疲れたよぉ!」


「間違いないさ!お前も見たろ?あの地図を!」


「見たよぅ?本物なのぉ?子供の絵に見えたけどぉ?」


「ルクは見てないのかな?あの地図の端の紋章を!


ダスティが使う紋章なのだよ?」


「ザルはその言い方どうにかならないのか?


イライラするんだが?」


「ツブ?これは貴族に相応しい言い方なのだよ?


私は貴族だからね!ちゃんと振る舞わないと!」


「それよりもぉ!早く掘ろうよぉ!早くぅ!」


「分かってる!ルクはその語尾を長くする癖を


やめろ!余計にイライラする!」


「ツブ?慣れないとね?癖を理解してるから


一緒に行動しているのだろう?」


「まぁな!だがイライラを抑える為の獲物が


居ないからな!抑えが出来ないのさ!


居ればこんな風にな?」


後ろに居た兎に振り向き、大剣を刺す。


「ああ!スッキリしたわ!!これで暫く大丈夫だな!」






「屑確定だな?だが奴らの目的地に着いたらしい!


なら俺が奴らに忍び寄り情報を聞く!


武器持ってるのは素行の悪い冒険者かな?


振り向いたのに気づかなかったのか?


まぁ頭悪そうな顔してたしな!そこらの悪人顔だ!


隣は貴族を装って弓持ってるが矢はどこだ?


魔道具なら欲しいが古いだけの物だな…


礼服着ても貴族にならないの分からないのか?


髪もアヒルの足を逆さまに付けてるみたいだな?


悪人の隣の癖あるのは語尾だけじゃないな!


ちびで丸い体髪の髪も癖毛があるぞ?


なんで左にトゲが出て右は丸くなってんだ?


突っ込みどころ満載のトリオだな!


ブラッド?合図したら来て捕まえてくれ!」


「主様…了解…」


トキは静かに忍び寄りトリオの近くの


木上に座り盗み見聞きする。




「しかしあの情報は合っているのかな?


捕まる前に隠した反撃の一撃って?」


「さあな?あれば使って攻めりゃ良いじゃねえか!


そうすりゃ、出世間違い無しだぜ!」


「そうだねぇ!何でも食べれるよぉ!」


「君は食べるのに夢中だね?いつもそうだね?


でも間違いではないと私が断言してあげよう!」


「ではぁ!掘るよぉ!」


丸い体のルクが体を横回転して地面を掘る。


・・・人間掘削機だな?




下半身が埋まり何かに当たったのか


逆に回転して上に上がって地面に立った。


「当たったよぉ?何かなぁ?」


トリオが穴を見て偽貴族のザルが持ち上げた。


50cmの四角の箱が出てくる。


「これみたいだね!中身は何かな?」


・・・反撃の一撃なのに今開けるのか?




箱を開けると赤いグローブが飛び出してくる。


驚くザルの足が当たり箱を傾け悪人顔のツブに


飛んでいく。


見事に顔面に当たり倒れるツブ。


・・・びっくり箱かな?




「なにしやがんだ!こっちに向けやがって!


地面にたお・・・何だ?」


箱の中が光だす。暗い森の中で見るには


眩し過ぎる光。咄嗟にトリオは目を瞑る。


トキは手で目を覆い光を防ぐ。


光が消えてトリオは少しずつ目を開けていく。


「こ…これが…反撃の…一撃…?」


「何処にぃあるのぉ?」


「さて?見えないですが?」


「まさか光るだけだと?拳の防衛装置付けてよ?」


「これでぇ終わりなのぉ?」


・・・なるほどな…反撃の一撃か…


トキは理解した。箱の正体について。




「これで終わりなら何の為の物なんだ?」


「分かりませんね…でも…気になるのが…」


「なんでぇ、僕にぃ、襲い掛かるのぉ?」


「何?すまんな!大剣が抜けて当たり掛けた!」


「私は弓を持ってるのが気になりますが…」


「僕もぉなんで回ってるのぉ?ザル危ないぃ!」


「ルク?攻撃ですかな?ほら避けましたよ!」


「ゴフッ!てめえなにしやがんだ!


さっきの仕返しか?ルクも何故構えてる?」


「分かりませんね…もしかしたら…」


・・・幻惑の光か・・・


仲間を敵と無意識に思わせる光かな?


発動条件は箱に触る、箱開ける、拳食らう、


拳を食らわせると光を出すかな?


・・・無駄多くね?


相手が開けないと意味無いし拳避けたら終わり。


光も俺がブラッド見ても変化無いしな…


1つでも条件から外れれば意味無いか。


使えないから隠したんじゃないのか?


反撃の一撃は伊達じゃないな…


危険度は高い。使えば一度切りだが


ゾラム侯爵が家で開けて条件満たしたら


使用人やアイサと無意識に戦うことになる。


ハイリスクハイリターンってところかな?


馬鹿なトリオで助かったな!




どうすっかな?勝手に自滅してくれる。


だがストレス発散の為に殺すのはな?


なら手足潰して戦わせとくか!


あの牢屋作れば命令出来るし…




俺はブラッドのところに戻る。


何も起きないな。やっぱりあの条件受けてからか…


「ブラッド、奴等は自滅するから


この場で作った俺の牢屋に入れる!


牢屋には手足潰してから入れる。


だから手伝ってくれ!」


「了解…主様…」


俺とブラッドは仲間割れしているトリオに


襲撃して手足を潰して衣服だけ残す。


そしてその場で牢屋を作り放り込む。


「命令、音を出すな!ここから出るな!声を出すな!」


俺はトリオに命令して同じ部屋で睨み合ってる。




「つまんない探索だったな…もう午後4時50分だぞ!


3時間の成果がこれか…まぁ自滅して


ゾラム侯爵に渡らずに済んだから良しとしよう!」


「了解…主様…」


時刻は午後5時。時間の為、空に合図を打ち上げた。


今からニバルの入口に行って


2組の報告を楽しみにするかな!


俺とブラッドはニバルの入口へと駆け抜けた・・・

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