第27話街べラムー12

俺達は無事に宿を確保して


テイマーギルドに向かい着いた。




え?宿からテイマーギルドまでの行動?


変わらなかったよ?・・・本当だよ?


知らない街で何か起こすなんて


そんな事しないよ!!絶対に!!




決してクルス隊長を宥めたり、


強盗を捕まえる為に行動したり、


ひったくりを捕まえたり


酒で酔ってる奴を退治したとか


そんなイベント無かったよ?本当だ!


俺はやってない!裁判長!!!


やったのはフィルだ!信じてくれ!!


弁護士を要求する!俺は無実だ!




・・・なんて心で茶番劇を演じていた。


何故したのか?


テイマーギルドでクリプス辺境伯の


手紙を見せるとカウンターの女性が


血相変えて持ち場から離れた。


戻ってきた途端に女性から来て下さいと


怯えながら部屋へ同行させられた。


その部屋はテイマーギルドでも


大御所のギルド長の部屋。




つまりテイマーギルドのギルド長に


呼ばれたらしくギルド長の部屋で


現在睨まれてるからだ。




焼けた黒いマッチョの禿げ・・・いや


スキンヘッドで白のタンクトップと短パンの


40代の男性が目の前にいる。




隣にはクルス隊長・・・は居なく俺だけ。


ソファーで2人きりで机越しに睨め合う。


そんな状況なら茶番劇を演じてしまっても


仕方ないだろ?




10分以上睨み合ってたと思う。


実際はそんなに経過していなかったが


体感時間でそのぐらい経っている。


何も喋らない。ただ睨むだけ。


お茶も菓子も出ない。




・・・なんなんだこのおっさん・・・




「君が・・・本当に・・・」


おっさんがぼそぼそ小さく話す。


やっと喋ってくれた!


心の中で安心するが聞きづらい…




「よし・・・・・・だ!」


すいません!聞こえません!!


誰か拡声器を持ってきてくれ!!!




ふぅ!落ち着け!落ち着くんだ俺!


とりあえず言葉を反芻しよう。


よ・し・だ・・・吉田?


誰?日本人?




「こ・・・じ・・・る・・・り」


こ・じ・る・り・・こじるり?


芸能人が出てきた?何故知ってるの?




「あ・・・し・・・だ!


ま・・・な・・・」


あ・し・だ・ま・な・・・芦◯愛菜?


また芸能人?何なのこの人?地球人なの?




「と・・・っと・・・り」


と・っと・り・・・鳥取?


え?地名が出てきたよ!人名続きじゃないの?




「く・・・く・・・は・・・ち


・・・じゆう・・・・・・に」


く・く・は・ち・じゆう・に・・・九九82?


九九81だよ?計算間違えてるよ!!


誰かこの人に計算教えてあげて!!!




「以上!」


以上・・・以上か・・・以上ね…


俺は正確に言葉を反芻する…




ピキッ!ピキピキピキッ!プツンッ…


ゴゴゴゴゴ・・・


何かがちぎれた音が聞こえた。


周囲に不穏な気配が部屋に渦巻く。




ドンッ!バキッ!バキバキバキッ!ガシャァン!


俺は机を叩いて真っ二つにひび割れる。




「何が以上じゃ!!!ちゃんと言えや!!!


小さくて良く分からんわ!!!


黙って聞いて損したわ!!!


お前ギルド長だろうが!!!


はっきり喋らんかい!!!阿保ぅ!!!」


俺は我を忘れて怒気を発しキレてしまった。


グランドラや先生の時並みに怒る。


周りなんて気にならない程に大声で怒る。




「てめぇよぉ!!良いおっさんだろうがぁ!あぁ?


見た目だけか!!立派なのはよぉ!!


仮にも長だろうがぁ!!!ちゃんとせぇやあ!!!


そんなんで良く務まってんなぁあ!!!おいぃ!!!


そっちが呼んどいてなんなんだあ?


小声を聞く為に呼ばれたのかなあ?俺はよぉ!!


違う!!違うよなあ?全然違うよなあ!!


説明を受ける為にぃ呼ばれたんだよなあ?


な・の・にぃ!その対応はなんだああぁぁ!!!


ふざけてんのかな?ふざけられてるのかな?


どっちだよおぉ!!おいぃ!!!


しかもぉ最初の時間はなんだったんだぁ?


ずっと睨み合っててよおぉ?


こっちはそんな事の為に来てねぇんだよぉ!!!


何かあるなら言えやあぁぁ!!ボケェ!!!


ギルド長さまよおぉ?おいぃ!!!


聞いてるのかな?聞いてないのかな?


ひとの話は最後まで聞くことなんてなあぁ!


子供でも分かる事なんだよなぁ!!!


それが出来ないのかなぁ?


どっちだ?てめぇはよぉ?」


俺はひたすら怒鳴る。


目の前にいるおっさんは怒鳴られて


だんだん小さくなっていく。


何かぼそぼそ喋ってるが聞こえない。




「ん?何か言ってんなぁ?なんだあぁ?


何を言ってるのかなあ!!!


聞こえないぞおぉ?聞こえてないよぉ?


もっとはっきりくっきり喋らんかいい!!!


嫌みなら聞くぞ?さぁ!さぁ!!さああ!!!


聞こえるようにぃしないとぉいけないんだよぉ?


言葉はその為にぃあるんだからねぇ!!!


さぁ!大きな声で!!聞こえるように!!!


言葉が無くても通じる?んなことあるかあ!!!


言葉は伝える為にあるんだから活用しないとなあ!!!


さぁ!さぁ!!さぁ!!!早く!早く!!早く!!!


時間は有限だ!時間は金だ!!時間は戻らない!!!


ほら?こうしてる間にも時間は過ぎてるぞお?


ほら?ほら?ほら!!!さぁ!喋ろうかあ!!!


合図してやるから大きな声を使って話そう!!!


さあぁん!にいぃ!!いいぃちいぃ!!!はい!!!」


「私はあ!ギルド長ではあ!ありませんん!!!」


「ああ?なんだと!?」




目の前にいるおっさんからカミングアウトを受ける。


ギルド長ではありません???


何を言ってる?


んじゃ、俺の今までの時間はなんだったんだ?


知らんおっさんに睨まれて小声で話され


挙げ句に違うだと?






・・・・・・プチン!


「なんじゃそりゃぁああぁあ!!!」


俺は叫んでしまった。訳が分からない???




「じゃあよぉ?てめぇはぁ誰なんだあ?」


「はいぃぃ!補佐官のゲルムですぅ!!」


「声出るんじゃねぇか!!!おいい!!!


ギルド長さまはよお!どこにいるんだあ?」


「い!今は…・・・警備隊の牢屋に居ますぅ‼


あなたがぁ来る前にぃ捕まりましてぇ!!」


「捕まってるだあ?来る前っていつだあ!!!


何で捕まってんだよお!!!こらぁ!!!」


「ひぃぃぃ!ついさっきですぅ!!


酔っ払ってぇ業務ぉ妨害ぃと飲酒ぅ営業でぇ!」


「・・・・・・」




もしかしてあれか?あれなのか?


宿から来る前に退治した奴がギルド長なのか?


沸騰していた怒りが徐々に冷めていく。


「なあ?どんな奴なんだ?ギルド長ってのは?」


「はいぃ!私とぉ!同じぃ!頭でぇ!


焼けた黒い肌でえ!ガハハハと常に笑うのが


特徴でぇ!右腕にぃ!竜の刺青を入れてます!!


見た目は!悪党みたいな!格好を好んでいて!


常に!悪ぶってる!人の良い!ギルド長ですぅ!!」




やっべぇ!あれだ…さっき見た奴だ・・・


クルス隊長に絡んでた奴だ・・・


今居ないのも他の警備兵に渡す為だし・・・


そのせいかあの言葉は・・・




~~~~~~~~~~~


俺達がテイマーギルドに向かっていて


ひったくりを捕まえて警備隊に預けて


その後の事だ・・・




「ガハハハ!ウィッ!ヒック!


グリフォンがいるじゃねぇか!


ガハハハ!ヒック!」


目の前に禿げの焼けた黒い肌、


街で見ない悪党らしい悪党の服を着ている。


右腕には見せびらかせる様に刺青があり、


腕を登る翼竜の姿が刻まれてる。


その男いや、おっさんが現れる。




「おい!またお前か!ウィット?


仕事中に酒飲んでて捕まったのを忘れたのか?」


この世界でも飲酒の仕事はダメらしい。




「硬いこと言うなよぉ!ヒック!!


酒が俺をよんでらんだからよぉ!


ガハハハ!ヒック!」


・・・完全に酔ってんな!こいつ…


目の前にいるふらついてる奴と知り合いなのか?


クルス隊長は酔っ払いの名前知ってるし…




「それにしてもよお!なんでいるんだあ?


ヒック!グリフォンなんて物がよお!


しかもぉ!3匹いるじゃねぇかあ!


ガハハハ!ガハハハ!ヒック!」


・・・もう駄目だ…視界もろくに機能してない。


おっさんがグリフォンに近づいていく。


フィルがいる反対側に…




「捕まえた!!ガハハハ!ヒック!


あれれ!きえたぞお?ガハハハ!」


おっさんが両腕を広げて掴もうとするが


いないところで空振りをする。




「ウィット!!いい加減にしろ!


全く今からって時に仕方ない!


トキ君!こいつを捕まえるから


先に行っててくれないか?


後少し歩くと竜の絵をした紋章の看板が


見えてくるから!


全く業務妨害に飲酒営業なんて


今月で何度目だ?なんでまだいるんだか…」




クルス隊長は酔っ払いを捕まえて捕縛し


警備隊の本部へ向かう。


「なにするんだよお?ヒック!


またあそこに行くのか俺はよお!


ガハハハハハハ!ヒック!


頑張るねえ?ヒック!


んじゃあ坊主!また後でな!ヒック!」


酔っ払いがクルス隊長と共に消えていく。




俺達は言われた看板へ向かう事にした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・・・・」


俺の怒りは納まっていた。


目の前にいるゲルムって補佐官は


完全に俺の被害者だ。


睨んでるのは侮られない為に、


声が小さいから威嚇していたのだ。


ギルド長がいない間に立派に仕事していたのだ。




「あぁ…うん!ゲルムって言ったっけ?


大変だな…あんたは…うん!立派だよ!


ギルド長の変わりに仕事していて


看板に傷を背負いながらも仕事していて


立派だよ!うん!立派だ!そして・・・


済まなかった!!!


ギルド長がいないのは俺達に絡んで


捕まったからだし…怒ってしまって


本当に申し訳ない!!!」


俺はゲルムを出来る限り誉めて


頭を下げて謝罪した。




目の前のゲルムは理解出来なかった。


尋常じゃない怒気と罵詈雑言を受けて


完全に萎縮していた。


彼に殺されると思ったからだ。


普段出さない大声を出して


泣きそうになりながらも息絶え絶えに話す。


その中でギルド長の説明をすると


彼の怒気が徐々に収まり、消える。




最初は空気が変わったことに驚き、


呆然としていると彼から誉められ、


謝罪される。訳が分からない。


体が震えて上手く動かせない。


彼を呆然と見るしか出来なかった。


口は開いているが声が出ない。


視線も動かせず彼を見るだけ。


瞬きだけは自然と何回もしている。




頭を下げたままのトキと


呆然とするゲルム。


ギルド長の部屋には沈黙が佇む。


そこに扉が開く音が響く。


カウンターの女性が入ってきた。


「ゲルム補佐官?あの怒声は何ですか?


下まで響いてましたよ!


あの気配は怒気ですか?


下は全員が萎縮して漏らしてる人も居て


偶然来ていた外の貴族も倒れて


仕事が大変でしたよ!


ギルド長もいない時に…あれは・・・」




カウンターの女性が勢いよく現れるが


途中で喋り終える。


目の前に萎縮して呆然としているゲルム補佐官と


頭を下げてる手紙の主がいる。


目の前の光景に女性も固まってしまい


暫く誰も動かなかった。




その後違う受付に案内されたクルス隊長が


現れるまでは全員時が止まった様に動かず固定された。


クルス隊長が来た時何があったか分からなかった。


扉を開けて口を開けたままの女性、


その隙間を見ると萎縮して呆然としているゲルムと


立って頭を下げているトキ。


ゲルムとトキの間に有ったであろう机は


真っ二つに割けていた。




クルス隊長が間を取りなして


話を聞き唸りながら2人いや、3人を


それぞれ行動させて


トキはテイマーギルドで登録を終える。


フィルとルティの首に


ギルド特製の飾り付き首輪が填められる。


俺達は互いに頭を下げてギルドから離れる。




申し訳ない気持ちで心が一杯の


暗い表情している俺は今さらの疑問に


頭を巡らせていた。


考え抜いた俺は気持ちを改めて


表情を戻して疑問に立ち向かう事にした。




「・・・なんでヴァイス君いるの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る