第25話街べラムー10
「キュイ!キュイ!」
「ルティか・・・ルティ!?」
俺はルティの声で目を覚ます。
「ルティ・・・お前ヴァイスと寝てたよな?」
「キュイ!」
「なら何故この部屋にいるんだ?」
「キュゥゥン…」
「怒ってるわけじゃないから安心しろ!
ただな・・・」
コン!コン!コン!
大きなノックの音が部屋に響く。
「はぁ…はぁ…失礼します‼先生!
ルティが朝起きると居なくなってまして!!」
「ほらな?だと思ったよ…
ルティならここにいるぞ!ヴァイス君!」
ヴァイスが朝から急いで来たのか
肩で息しながら部屋にノックして入る。
ルティはヴァイスが目を覚ます前に
勝手に部屋を出て俺の部屋に来たらしい。
「ルティ!?心配したんだよ‼
勝手に居なくなって!!」
「キュゥゥン…」
「怒ってないよ!心配しただけだよ!」
「キュイ!」
ヴァイスはルティを抱いて会話する。
・・・朝から騒がしいな…
「おはよう!ヴァイス君」
俺はベッドから出て挨拶する。
「おはようございます!先生!
朝から騒いでごめんなさい!」
「あぁ問題無いよ・・・
ルティが勝手に抜け出したのが
悪いだけだから気にするな!」
「キュゥゥン…」
ルティは申し訳ない様に鳴く。
「あぁちょうどいい!ヴァイス君!
朝飯まで時間あるかな?」
「はい!本来今準備中なので
後、1時間はあります!」
「そうか・・・なら朝練したいんだけど
場所あるかな?」
「場所なら中庭があるので大丈夫ですよ!
あ…穴開けたりしないですよね?」
「客なのにがそんな事するかよ‼
申し訳ないが場所案内頼めるか?」
「はい!こっちです!」
俺はヴァイスの案内で中庭に着く。
テニスコート2面ぐらいの広さがある。
「広いな…ここ…
貴族って中庭こんなに広いのか?」
「他の貴族は分からないですけど
同じくらいだと思いますよ?」
「そうか…案内ありがとうな!
見ても楽しくないけど俺の朝練見るか?」
「良いんですか?お願いします!」
ヴァイスは嬉しそうに答える。
ヴァイスにルティを預けて朝練を始める。
位置は中庭の中央に俺、
離れた右側にヴァイスとルティ。
俺はストレッチを丹念に行う。
1時間なのでいつもより少なめのメニューで
やることにする。
本来ならルティとフィルも一緒に行うが
人の家なので俺だけだ。
まず精神集中。
体に魔力を感じながら頭から右肩へ
右手、右脇、右腹、右足、股関節、
左足、左腹、左脇、左手、左肩、頭へと
循環させる。
最後にへその下丹田に意識する。
丹田で渦を作るイメージで行う。
魔力は常に使うものなので
違和感ないか調べる。
集中を終えて軽く体を動かす。
ゆっくりと太極拳みたいに流れた
動きを行う。
動きの中でボクシング、ムエタイ等
合わせた我流体術を含ませる。
「きれい・・・」
ヴァイスはトキの動きを見て呟く。
大量の汗に包まれながらも
流れる水の如く滑らかに手足が動いてる。
一つ一つにメリハリがあり
演舞を見てる感覚を覚えた。
「キュゥゥン!」
ルティも同じ思いをしていた。
「フゥ…」
トキの演舞が終わり自然体になる。
トキは少しずつ気を放つ。
「ンッ!?」
ヴァイスはトキの発した気に覚えがある。
昨日魔法の心得を教わった時に感じた殺気。
周囲に徐々に侵食していき
中庭のみを限定させて
鋭く濃密に変化していく。
ヴァイスは向けられてるわけでも無いのに
全身が硬直した。
「ハァ…ハァ…フゥ…フゥ…」
汗が大量に流れて息が荒くなる。
体が震え出して意識が遠のきそうになる。
襲われた時でも感じた事の無い殺気。
意識が消える前に殺気が消える。
ドン!
ヴァイスは立って見てたが体から力が抜けて
その場合に座りこんでしまう。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
徐々に息を整えていく。
「済まない加減を間違えた!大丈夫か?」
やっと息が戻った時に
遠くのトキから声を掛けられる。
「ハァ…ハィ…ダィ…ジョゥ…ブですぅ…」
声はなんとか出るが絶え絶えで小さい。
「きつかったら座ってて良いからな!!
ルティ!ヴァイスを頼む!」
「キュイ!」
ルティは風魔法でヴァイスを包む。
優しい風に包まれて落ち着く。
「キュイ!」
ルティは水魔法で顔を洗える様な大きさの
水の玉を作りヴァイスの前に出す。
「顔を洗うの?」「キュイ!」
用意された水で顔を洗う。
程よく冷たく心地良い。
ある程度落ち着き始めて疑問が出てきた。
ルティはマーブルテイルで色は赤と黄色。
つまりは火と土魔法使う筈だが
水と風の魔法を使った。
不思議に思っていたがその疑問は直ぐに消える。
トキが全身に魔力を覆い始める。
トキは右手を前に出して手のひらを体に
向けて意識を集中している。
それぞれの指先に属性魔法を現す。
親指に水の玉を、人差し指に火の玉を
中指に風の玉を、薬指に土の玉を、
小指に雷の玉を作り出す。
その大きさはゴルフボールから徐々に
大きくしていき今はバレーボールほど。
ヴァイスの顔より大きくなっている。
大きくなるにつれて手のひらは
地面と平行に傾けて玉も
それぞれ干渉しない距離を保ち
空に浮いている。
「まだ夢を見てるのかな?ルティ…」
「キュイ!キュイ!」
目の前にある光景に心を奪われると共に
現実逃避をしてしまうヴァイス。
しかしルティが現実だと夢じゃないと
鳴いて器用にヴァイスの顔に
2つの尻尾で挟んで顔をトキへ
向けさせる。
柔らかい毛並みに挟まれて
内心嬉しがり、再び夢だと思わせたのは
仕方ないだろう…
2尾に顔を挟まれたままのヴァイスは
確りと現実を受け入れて
落ち着いてトキの行動を見ていた。
トキは左手を前に出して地面と垂直に
手刀の形を作る。
トキは手刀に向けて右手の魔法を
一つ一つ間隔を開けて飛ばしていく。
左手に近い右手の小指、大きい雷の玉から
順に雷、土、風、火、水の魔法を。
受けた左手は属性魔法を帯びる。
バチバチと雷を纏い雷光を輝かせる。
本来なら魔法を纏った手刀を振り抜き
刃の形にして飛ばすのだが
人様の家なので纏わせるだけにしている。
暫く放電していた左手に土の玉が
飛んでくる。
土の玉は左手を包んで雷を消し、
茶色の刀へと変貌する。
手刀に合わせて形が変わり、
バレーボールの大きさで
手首まで纏い左手より若干長い土刀を作る。
質量を変えた左手を下げずに纏うと
右手を少し上下させ放物線を描く様に
風の玉が高い位置から飛んでくる。
落下した風の玉が左手へ垂直に当たると
土を崩しながら左手に纏う。
ドッドッドッと土の塊が落ちていく。
風の玉は右周りに回転して
落下するときにラグビーボールの形に
変えて渦巻きながら土を掘削していく。
左手から土が落ちて全て消えると
左手には渦巻く風の制御をして
竜巻状の風と纏うような風を形成させ
交互に形を変化させる。
片方は手首を起点に手より長い
目に見える程の風の竜巻を作る。
末広がりに風が渦巻く。
片方は左手を包むように風の
刀を作る。
どちらも確認出来る程に風が渦巻く。
変化の確認を終えて右手から赤い火の玉が
飛んでくる。
風に煽られて勢い増しながら
炎刀を作る。荒々しい炎は
鎮まり青く熱く揺らめく。
一切の歪が無いほど洗練されている。
ヴァイスもここまで見たら自然と分かる。
トキは魔法を纏う訓練をしているのだと。
ここまで違和感が無いほどに
魔法を自然と纏ってる。
衣服を着るように普通に。
ヴァイスは普通とはかけ離れているトキの
姿を見ても畏怖する事はなかった。
まるで芸術に触れてるような、
不思議な感覚に感動していた。
ヴァイスが感動しているとは知らないトキは
最後に水の玉を上に投げる。
ヴァイスは今まで通りに左手に纏うと
思っていたが現実は違う光景を見せる。
上から落ちてきた水の玉を右手で受ける。
右手に刀へと変化する液体が流動し
水の刀が形成された。
トキは右手を見て集中する。
右手に意識を向けていても左手は
青く揺らめく刀は変化しない。
右手の液体は徐々に姿を変えていく。
最初は刀の形をした氷へ変わり
周囲の温度を下げていく。
次に溶かして液体の刀を作る。
最後に白い霧を纏った刀を作る。
白い霧の周囲は陽炎の様に歪んでいる。
個体、液体、気体へと状態変化させていた。
トキは両刀を解除して素手に戻る。
「フゥ~…」
深い息を吐いて朝練を終わらす。
本来ならほかにもメニューがあり
力も5%に抑えている。
最後の両刀も左手に水の玉を飛ばして
纏わすのだが高温の水蒸気を大量に
発生させる為に行わなかった。
パチパチパチパチ
拍手がヴァイスから自然と出る。
拍手は徐々に大きくなり気づいたら
中庭に観客が大勢いた。
中にはクリプス辺境伯の夫婦、クルス隊長、
補佐官、使用人達が集まっていた。
ヴァイスがルティと共に駆けてくる。
「先生!感動しました!
凄くて言葉が出ないです!!!」
「キュイ!キュイ!」
「ありがとう…単なる訓練だけどな!」
「いやいや、謙遜を…
あれを見せられては嫌みにしか聞こえないよ?」
「えぇ!あなた!まさか朝から芸術を
観ているような感覚でヴァイスの様に
本当に言葉が出て来ないですわね!」
「私も同じ意見です!最初は殺気に気づいて
敵かと向かったらまさかトキ君が居て…
あの魔法に魅せられて引き込まれたよ!!」
クリプス辺境伯と奥さんのメルナさん、
クルス隊長が近づき賛美を伝える。
「ありがとうございます…」
集中し過ぎたな…集まってるのに
気付かないなんて…
トキは後悔していた。
力を見せた事にではなく
集まる気配に気づけなかった事に。
・・・俺もまだまだだな…
「そういえば皆さん何故ここに?」
「あぁ…朝飯の準備が出来たのを
伝えようとしたらトキ君が部屋に居ないと
使用人から報告を受けてね!
同時にヴァイスも居ないと聞いて
慌てて探してたんだよ!全員でね!
そしたらあの訓練さ!見るだろ?普通!」
・・・知りませんよ。訓練を見るなんて…
訓練始めて2時間経過していたらしく
数分、俺とヴァイスを探していたらしい。
その後、俺の訓練光景見て声が出ずに
全員を呼んで総員60名で見ていたとの事。
全員が感動して中には涙を流してる使用人もいる。
赤ちゃんのスフィア=クリプスもいて
泣かずに見ていたらしい。
・・・何度も言うが訓練なんだけど・・・
俺はヴァイスと共に汗を流して着替えて
クリプス辺境伯家族と共に朝飯を食べる。
パンと野菜スープ、サラダを食べた。
食事中にも賛美を受けて、
最後に握手を求められた。
部屋から出ると同じように賛美と握手の波。
・・・芸能人の握手会ってこんな感じなのかな?
そう思いながら全員と交わして
部屋に戻り外への準備をしていると
クリプス辺境伯から呼ばれて応接室に向かった。
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