第22話街べラムー7

俺は鉄の棒に『マグネ』を使用する。


勿論方位磁石はストレージに戻してる。


マグネを付与すると磁力が発生し


方位磁石の磁針が引き合うからだ。




マグネを使用すると鉄の棒についてる


紐を持ち鉄を放ち中に浮かせる。


鉄の棒の色付きの部分が窓の方から


応接室入口の右側に回転して止まる。




最低限の力で使ったので問題無いが


下手したらクルス隊長の剣、


メイドのナイフ、補佐官のチャクラムが


飛んで来て誰かに刺さる危険がある為、


凄く緊張した。




「この通り、マグネも同じ向きを向いて


方角を把握する事が出来ました!


ここまでで分からない事に有りますか?


秘密事項以外は話しますよ?」




俺は質問が無いか確認する。


確認する前に皆の顔が驚きで顔が固まっていた。




当たり前だろう・・・


貴族の前で魔法を使ったから…


鉄の棒の純度が高いから…


今までの現象について知ったから…


知らない知識を教わったから…


見た事の無い物を見たから…


本当なのか分からないから…




思考が追い付かない・・・


呆気になるしかない。


その中でヴァイスだけは驚きの顔から


凄いと目を輝かせて嬉しそうに見ている。


トキの説明を理解出来なかったが


現象に目を奪われてしまった。


地味な現象だが好奇心がそそられている。




「トキさん!これは僕にも出来ますか?」


「魔法の適性があれば出来ますよ!


魔法は便利ですが危険な物なので


確り把握してないと怪我しますよ!」




俺は全員をクリプス辺境伯のソファーへ


移動させ、ルティに魔法を張らせる。


薄く火の壁を作らせて内側に熱が来ないように


そして応接室も燃えない程度にする。




「ヴァイス君!そこから動かないように!


皆さんも一緒です!


さてヴァイス君!先ほどマグネの


便利な姿を見せましたが


今から危険性をお見せします!」




話してソファーの後ろに立ち


ヴァイス達に後ろ姿を見せマグネを再度使う。




最初マグネを使う為に俺の後方に配置した


クルス隊長達の武器が床に置かれている。


中には指輪やネックレス、腕輪など。


距離として5m。




マグネを使用した途端に金属達が震えだし


俺に素早く引き寄せられる。


剣などは重量が有るが指輪は軽く


弾丸の様に飛んで来る。




「トキさん!!!」「トキ君!!!」


クリプス辺境伯とヴァイス君は


異常な光景を見て慌てて大きく叫ぶ。


刃物が飛んで来てるのだ。


慌てない筈がない。


クルス隊長達も慌てるがトキは微動だにしない。


反射的にヴァイスは目を閉じる。


暫くして恐る恐る開けると金属が


トキに刺さってなく、当たった音もしてない。


何が起きたのか分からないまま


見てるとトキから離れた所で金属が浮いている。




クルス隊長に話を聞くと


刺さる後少しのところで刃物達が止まり


急速に離れたらしい。


離れて一定の距離を保って現在浮いてるのだと。




数秒間浮いたらガシャンと刃物達が床に落ちた。


目の前にある火の壁が消える。




「お騒がせてすいません!スーサ殿!


これが魔法の危険性だ!ヴァイス君!


包丁と同じで人の使い方で姿が変わる。


食材を切るか、人を刺すか・・・


確りと理解した上で考えて使う事だ!」




俺は振り向いてヴァイスに真っ直ぐ見つめる。


紐付きの鉄の棒を持って・・・




恐がらせたが殺されても俺としては後悔ない。


魔法の利便性と危険性の2つを見せれたから。


同じ魔法でも考え方で変わる。


正しいと考えて使うのと


邪な考えで使うのではと訳が違う。


護身で使うにも魔法を理解してないと


守れる物も守れない。




「ヴァイス君!今君は魔法を知った!


恐がらせたがこれも同じ魔法!


俺は護身として魔法を使う…


仲間や自分を護るためにだ!!


クルス隊長の武器と同じで護るために!


魔法は力だ・・・


力は人を強いと錯覚させ狂わせる!


そして魔法は強力な毒と同じでもある…


依存性が有り、死をもたらす…


君は貴族だ!まだ早かったかも知れないが


いずれ領地を治める!


その時の為にも知ってて欲しかった!


魔法についてね!どう扱うかは自分次第!


良い部分も悪い部分も考えて欲しい!


だからこそ心を鬼…いや竜にして


俺は行動したんだ!!!」




俺は10歳の子供に対して魔法の心得を


力強く熱弁した。軽く殺気を出して


鋭い視線で殺せるほどに睨む。


圧に押されて泣きそうになるが


我慢して俺を見ている。


その表情は言わなくても分かるほどに


魔法の心得を理解したと出してる。




クリプス辺境伯達も凄い剣幕で


何か言おうとするがトキとヴァイスを見て


言葉を飲み込んだ。


ヴァイスは魔法を理解したと


そして心も強くなったのだと理解した。




成長した子供の姿を見てクリプス辺境伯は


目頭が熱くなる。


姉が嫁いで部屋に籠る様になったのを見て


悩んでいた。


その姉の結婚式からの帰りに襲撃され


目の前に死が訪れかけた。


トキ達に助けられたが息子は


目の前に起こった現実から逃げる為に


更に引きこもり、性格も暗くなるだろう…


そう思ってたが今はどうだ?


魔法の性質の2つの力を見て


魔法の心得、人の心について説かれて


トキからの殺気を受けても泣かずに


対応している。




これを成長と言わずしてなんというのか?


暗い未来から明るい未来の姿の欠片を見せられ


これから息子は活気溢れるであろうと心から思う。


闇の中に居た息子が光を見つけ歩き出したのだ。


私は何も出来なかった…


何をすれば良いか分からなかったから…


だから引きこもる息子を外に出して


世界を見せてやろうと思って行動した。


しかし姉の結婚式で姉が完全に離れたと理解し


帰りに襲撃され死にかけた…


私は間違ってしまったのか悩んだ…


負の感情が渦巻く。私は…私は…と。




しかし曇天の空から3つの光が差し込む。


トキ、フィル、ルティという光が。


ルティは魔物だが息子と仲良くなった。


そのおかげで息子の闇と同時に私の雲も薄まる。


そして今トキの言葉で私達の闇が晴れた!


感謝してもしきれないほどに!


一回りも年の違う青年が救ってくれたのだ!




「トキ君…あり…あり…ありがどう…う…うぅ…」


私は目に手を当てて泣いてしまった。


抑えられる筈のない感情が涙となって


次々に溢れていく。


ソファーの後ろの3人も同じく咽び泣く。


同じ思いだったのだろう…


応接室に咽び泣く声が溢れる。




トキとヴァイスは戸惑っていた。


トキは礼の後にクリプス辺境伯達が泣き出したから。


ヴァイスはなぜ泣いてるか分からなかったから。


「だ、大丈夫ですか?スーサ殿?」


「と、トキさん!何かしました?」


「いや…何もしてないけど…」


「何もしてないならどうして泣いてるのですか?」


「俺が知りたいよ…なぜだろう?」




ヴァイスは挙動不審になりながら心配している。


俺は腕を組み、首を傾げて考えてた・・・

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