第九十八話:織姫咲耶の場合。


「んー?なんだあいつまだ休んでんのか?」



 今日も教室に入ると一人空席があるのが目に入ってくる。



 まずそこを確認してしまう事に特別な意味は無い。筈だ。



 強いて言うならば教師としては最低限気にかけるべき事だからである。



 何故か白雪は普通に登校してきているので恐らく咲耶と舞華の…そして皆からの最後のアレが思いのほかダメージを与えてしまったのだろう。



 アレはあいつが悪い。



 咲耶はそう思う。そもそもあんな事を言うのは十年遅いのだ。



 今の年齢では彼の魅力は八十パーセント減である。



 残り二十パーセント程度は残っているのを認めざるを得ないが、二十パーセント程度で心動くほど子供ではないのだ。という事にしておく。




 お互いの人生はあの時すれ違い、別の道を歩み始めたのだ。



 その先でもし交差する事があったとしても、それはお互いの道の通過点である。



 同じ道に合流する事はない。



 それに彼女は相変わらず小さい男の子が大好きだった。



 どちらを取るかと言われたら迷うまでもないのであった。




「しかしあいつが居ないと学校も暇だなおい」




 休み時間に屋上でサンドウィッチをほお張りながらそんな事を思う。



 この学校で彼と再会してからというもの、咲耶の日常は本人が思っていたよりも充実していたのだ。



 少なくともそんな日々があと数年間は続くわけで、彼女にとってはお互いの道が交差するその数年間を大事に、馬鹿みたいに楽しめればそれでいーかと思う。



 余計な事を考えると暴れたくなるから考えない。自らの保身の為にそれは必要な行為だった。




「弟子に任せて隠居隠居。どこかにあたしを愛してくれる歳をとらない男の子はいねーかなー」







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