第八十七話:有栖のお宝画像。


 それぞれ手分けして探す事にした。細かいものも結構あるようなので意外と見つけるのは大変かもしれない。



 有栖は黙々と律儀に坪とかの中まで覗きながら探しているが、ハニーはこれは見た事の無い形のナイフなんだよ!とか何かの儀式用の物かもしれないとかなんとか言いながら騒いでいる。頼むからちゃんと探してくれ。



 俺も二人が探しているのとは対角の方から探し始める。



 …そこに他の物とは明らかに雰囲気の違う箱を見つけた。



 他の怪しげな年代物と違って新しめで、掌サイズのジェラルミンケースみたいな形をしていた。



 もしかしたらこれに腕輪が入っているのかもしれない。



 が、鍵がかかっていて開ける事ができなかった。念のためにハニーに聞いてみる。



「なぁハニー、こういうのって開けられるか?」



「ん?何その箱。ちょっと貸して」



 ハニーは箱を手に取りあちこちを観察して



「無理矢理でいいなら今開けてあげられるとおもうんだよ。開ける?」



 無理矢理って…まぁ部屋のドアをぶち壊すような奴だからな…。でももし無理矢理開けたら中身が爆発…とかそういう類だったら…



「あ、ごめん」



 ハニーが気まずそうにバカッと割れた箱を掌の上に乗せていた。



 こいつ勝手に…でも特に問題はなさそうだ。



 ハニーから箱を受け取り中身を確認する。



 中身はどう見ても腕輪ではない。なにやら指輪を入れるケースのようになっていて、そこには指輪の変わりに小さなSDカードが二枚入っていた。



 見つけたぞ。いや、これが泡海の探してたカードかどうかはまだ解らない。データを確かめてみなくては。



 決してやましい気持ちで見るわけじゃない。断じて違うんだそこは解れよ。



「何をぶつぶつ言ってるんですの?」



「な、なんでもないよ。これ泡海の探しものかもしれないからちょっと確認するわ」




 一応泡海のプライベートな物だから内容を知ってる俺だけが確認させてもらう、という建前で二人に見られない場所に移動し、自分の持ってるスマートフォンにカードを差し込む。



 そしてその中身を適当に確認する。



 そこには、カメラを取り付けている様子の泡海だったり、こっそり女子にストーキングしている泡海だったりがきっちり映されていた。



 泡海のやつこんな決定的な証拠を握られていたのか…確かにこれは取り返さないと泡海にとっては命取り、というか人生終了案件だ。



 だが、俺が思っていた内容とは少し違った。



 だとしたら、もう一枚の中身は…




 間違い無い。



 これは



 これはいい物だ。




「ちょっとおとちゃん?なんかそれ怪しいんだよ…」




「…」



 ハニーの言葉は耳に入ってきていなかった。いい加減確認作業をやめようとしたその時画面に映ってしまったのだ。目の前の有栖が。



 数枚確認した中で偶然有栖の画像を引き当てる俺の運の強さよ。




 しかし動画で撮った着替えの様子をいちいちコマ送りで静止画に分割したものらしくブラウスのボタンにかけられた指がなかなか先に進まない。



 さらに次へ次へと画像を送ると、やっとボタンを全部外してブラウスを脱ぐ。下着一枚になった有栖がブラの肩紐を




「乙姫さん?」



「…えっ?な、何?」



「…おとちゃん。今、すっごくだらしない顔してるんだよ」



 気がつけば二人が俺の方を訝しげに見ていた。



 くっ…名残惜しいがこれ以上これを見ているわけにはいかないらしい。



「と、とにかく!これは泡海が探していた物に間違いない。これで探しものの一つは見つかったな」



 しかし泡海の奴こんな素晴らしい物を大量に所持していたなんてうらやま…けしからん!やはりいずれ少し分けてもらえる方法を考えなければ…。



「そうですわね…でも腕輪のような物は見当たらないですわ…とりあえずもう少し探してみますわ」



 はっ!そうだった。俺はこんな所でのんびりとアレな画像チェックをしている場合じゃないんだったすまん白雪。…あと有栖。でもこれは必要な確認だったんだ。




 虚しい言い訳を頭から振り払いまたひとしきり捜索を始める。



 棚は全部確認し終えてしまったので望み薄ながら床に置いてあるダンボールの中までひっくり返してみたがそれらしき物は見当たらない。




「これだけ探してないならここには無いのかもしれないんだよ」



「どうしますの…?ここ以外に心当たりなんて私にはありませんわ。泡海先輩もあの支部長とか言う人のところですし…」



 …ん?泡海が支部長のところ…?



 だったら



「もうこうなったら支部長締め上げるのが一番早いんだよ」



 ハニーも俺と同じことを考えたらしい。



 どういう経緯で泡海が支部長の方に行ったのかは解らないがそこに戦力が集中すれば一気にここを制圧できるかもしれない。



 隠した本人を締め上げて吐かせるのが一番手っ取り早い。



 最初からそれが出来れば一番よかったが手荒な事になるよりさっと取り返して脱出してしまったほうがこっちの危険が少ないし、そもそもここに集められている連中がそろって支部長の警備に回されたら手に負えない。各個撃破ができた今の状況は結果オーライだろう。



 結果的にある程度の連中は表のアルタが引き付けてくれたし俺達の行く先にいた連中はハニーが伸してくれた。多分咲耶ちゃんが遭遇する人たちもなんていうかご愁傷様であろうしボチボチ数も減らせているんじゃないだろうか。



 泡海も支部長の側まで行けているならなお更都合がいい。あとはすっと合流してガッと支部長をどうにかしてさっと腕輪を回収して速やかに撤退するのみである。



「じゃあ作戦としては次は支部長室を目指すとして、ハニーは場所解るか?」



「うん。大丈夫なんだよ全部頭に入れてあるから」



 さすが頼もしい相棒である。



 ハニーはまだここにある奇妙な物たちに未練があるのか周りをきょろきょろしながらも支部長室までの道を案内しはじめた。



「あ、あの…わたくしもついて行って大丈夫でしょうか?自慢じゃありませんが何かの役に立つとは思えないですわ」



 有栖の不安はごもっともであるがそれを言うなら俺も同じ事である。それに今ここで一人放り出すわけにもいかない。一緒に居たほうが安全だ。



「いや、有栖も一緒に来てくれ。その方がいいと思う」



「わ、分かりましたわ。がんばりますの」



 俺も、少しは頑張らないとなぁ。


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