第六十九話:作戦会議。


 執事さんが運転する車が大きな門の前に到着すると、どこかで誰かが見ていたように自動で門が開いていく。


 敷地内に入ってからも数分は車で移動し、駐車スペースまで到着してからぐっすり眠りこけているアルタとネムさんを起こして皆で玄関まで移動した。


 咲耶ちゃんはあたりをキョロキョロ見回しながら「すげぇ…」と呟いている。


 袋少女は執事さんが担ぎ、泡海はハニーの手を引いてなにやらにこやかに話しかけていた。


「ここがわたくしの家ですわ。皆様ようこそおいで下さいました♪」



 心なしか有栖のテンションが高い。



 隣で執事さんが「お嬢様が家にお友達を…今日は赤飯を用意せねばなりませんな…」などと涙ぐんでいる。



 どんだけ友達が居なかったんだこいつは…。



 しかしこの豪邸を見ると俺たちとは住む世界が違うと分かる。友人を作るというのもいろいろ隔たりがあって大変だったのかもしれない。


 豪華な作りの扉を開けると、ずらっと左右に分かれて十数人のメイド達が出迎えた。



 有栖が、「私が案内するから貴方達はお茶でも用意して下さるかしら」と声をかけると、メイド達は俺等に一例して持ち場へと戻っていく。



 有栖が案内してくれた先は十畳程度の部屋で、「この部屋は暫く使う予定が無いからゆっくり会議できますわ」と言った。


 その口ぶりだと数ある部屋の中でも小規模の物なのだろう。なのに調度品、テーブルやソファーなども高級そうな物ばかり揃えてあった。


 それぞれ適当にソファーに座り、メイドさんが紅茶を持って部屋を訪れたのを見送ると、雰囲気に飲まれながらも紅茶に口をつける。


 紅茶の銘柄なんてさっぱり分からないが俺が飲んだ事のある物とは比べ物にならないほどいい香りがした。


 それは皆同じだったようで、一口飲んだあと口々に美味しいと呟く。



「さて、じゃあ本題に入ろうか」



 俺が仕切る形になるのはなんだか荷が重いのだが、俺の目的に協力してもらう以上仕方がない。


「おとちゃんには何か考えがあるのかな?」


 今までずっと黙っていたハニーだが、「ボクが出来る事ならなんでもするんだよ」と頼もしい事を言ってくれた。


「正直言うとまだ具体的な方法は思いついてないんだ。とりあえず相手の事が知りたい。泡海、白雪が捕まってる場所は分かるか?」


「勿論私が所属してる支部の場所は見取り図くらいなら用意できるわ。だけど…あの糞支部長が悪魔をどこに隔離してるのかは私には分からない」



 それでも大きな前進だ。



「あ、あの!私、よく分かりませんけど支部長が大事にしてる物ならどこにあるか分かるかもでありますっ!」


 ソファーの上に転がされていたズタ袋が突然もごもごと暴れて叫んだ。



 俺が近づいて袋の結び目を解いてやる。



「ぶはっ、やっと開放してくれましたねってうわ、貴方に助けてほしくなんか無かったのであります!」


 うるさい奴だなとは思うが、今はこの少女の情報が必要だ。



「泡海、頼む」



「貴方に頼まれるのは悪い気分じゃないわね。いばら、貴方の知ってる事を全部教えなさい」



「かしこまりましたっ!」



 わかっちゃいるがこの転身の早さよ。



「あの支部長は自分の大事な物をコレクション部屋に運んでるです!探してる物がどんな物かは分からないですがそこにあるんじゃないかと…」



 今の白雪は腕輪に閉じ込められている状態の筈だ。それなら管理もしやすいだろうしそのコレクション部屋とやらに納められている可能性はあるんじゃないか?



「私が今から大体の見取り図を描くからいばら、貴女はその部屋の場所を描き足して頂戴」「お安い御用であります!」



 皆が見つめる中、有栖が用意した大判の紙に泡海が支部の見取り図を描いていく。



 描きながら泡海が支部の場所を説明してくれたが、そこは二ヶ月ほど前まで大きなビール工場があった場所だった。



 確か土地の契約が切れるとか何かで工場は取り壊されて移転した。今では大きな空き地になっている。



 支部はそのすぐ近くの公衆トイレにカモフラージュされた入り口から地下に向かうらしい。



 驚いたのは、その工場があった頃から工場の地下に支部の施設が広がっていたという事だ。


 取り壊す時にいろいろ気付かれたりしなかったのかと聞くと、もっともっと深い場所にあるから大丈夫なのだそうだ。


 俺達のいる有栖の家からは大体車で三十分くらいかかる場所なので泡海は毎回タクシー移動をしていたらしい。交通費は全額支給だというのだから気前がいい。





「だいたいこんな感じね。これが私が知ってる範囲の見取り図よ。いばら、ここに貴女の知っている部分を継ぎ足して頂戴」



 人というのは自分が過ごしていた場所の見取り図、なんていうものをこんなに簡単に描けるものなのだろうか。しかも大型の工場と同じ、いや、それ以上の敷地で、尚且つ見る限り相当入り組んでいる迷路みたいな作りなのだが、そんな場所の見取り図が頭に入っているのが不思議すぎる。



 それはいばらと呼ばれた少女も同じ感想だったようで



「あの、人魚様…どうしてこんなに覚えているんでありますか…?」



 と不思議そうだ。



「自分が身を預ける場所なのよ?それに地下施設。何かあったときに非難や脱出経路を確認しておく事は当然だしスムーズに動けるように大体頭に入れておく必要があるのよ。それで?そのコレクション部屋とやらはどこなのかしら?」



「…流石であります人魚様…憧れますぅ…」



「私に同じことを何度も言わせないで。お仕置きされたいの?」



「ハイッ!是非ッ!」

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