第五十三話:星月乙姫の場合・1
「わたくし最後に観覧車に乗っていきたいですわ!」
食事が終わって外に出ると、有栖がそんな事を言い出した。
確かに遊園地に来て観覧車乗らずに帰るってのもな。
「じゃあ乗って行こうぜ。一つのゴンドラに全員は無理だろうし組み分けどうする?」
「私は舞華さんと乗れればそれでいいわ」
泡海が食い気味に言う。
相変わらずだが今回の目的は二人の仲を取り持つ事だから尊重してやらないとな。
「ボクはおとちゃんと乗れればそれでいいんだよ」
ハニーの言葉を聞いて泡海が唸るが、それなら仕方ないという事で、泡海、ハニー、俺、白雪という組み合わせになった。
もう一組は何故か観覧車乗るなら私もいくと言い出したアルタと、ネムさん、有栖、咲耶ちゃんという組み合わせだ。
正直アルタとネムにそこ変わってほしい。
アルタも乗ると聞いて頭を抱える泡海だったが、ハニーの方を優先したらしい。偉いぞ!
「観覧車って初めてですぅ~」
「私だって初めてよ」
アルタとネムさんは自然と一行に溶け込んんでいたが、変装モードのサングラスと帽子がやけに浮いていた。
観覧車の列に並んでいる間アルタは周りにバレないかとヒヤヒヤしていたようだが、他の客も観覧車を楽しみにしているからか並んでる客に注目する事は無く、無事に順番が回ってくる。
「おぉ~これが観覧車…随分ゆっくりなんじゃのう?」
白雪もどこか嬉しそうだ。まだ酒が抜けきってないだけかもしれないが。
先にアルタ組が乗り込み、その後のゴンドラに俺たちが乗る。
ゆっくりと高度があがっていくにつれて白雪がはしゃぎだす。
「人間も面白いものを作ったもんじゃのう!こうやってゆっくり景色を眺めるのもオツなもんじゃ♪」
今日もこの白雪のせいでいろいろ大変な目に合わされたが、なんとか無事に終わりそうである。
結果的には割と楽しめたので良しとしよう。
目的もある程度果たせているようだし。
目の前に座る二人といえば、ハニーが若干迷惑そうにしているものの泡海は幸せそうにハニーに腕を絡ませて「キャーこわーい」などと心にもない事を言っていた。
やがて頂上に到達する頃、白雪がこちらをちらりと見て言う。
「やっぱり現世はいいのう。楽しみに満ち溢れているのう…なぁ乙姫よ。これからもわらわを楽しませるんじゃぞ?」
はいはい。
「なんじゃその顔は!わらわの幸せに貢献できるんじゃもっと幸せに満ち溢れた顔で喜びに咽び泣くのじゃ!」
無茶言いやがって…。
本当にこんな関係はやく終われと思うが、それと同時にこんなドタバタも面白いかもなとも思う。
友人として、なら文句もないのだが…。
今現在の状況だとどんどん袋小路に追い詰められていくネズミの心境だ。
まぁ今からそんな悲しい事を考えていても仕方がないし、楽しめる時にはきちんと楽しんでおこう。
今日の事はいろんな意味で思い出に残る日になったし、きっとこれからもなんだかんだ楽しい日々が続いていくのだろう。
やがて観覧車が一周して地上に降り立つと、先に降りていた有栖とアルタが夕焼けが奇麗だったと仲良く話していた。
国民的アイドルが俺達と一緒に居るっていうのはやっぱり違和感を感じる。
「私はこの辺で帰るけど…アンタ逃げられると思わない事ね。居場所なんてすぐに分かるんだから」
逃げやしないって。
「普通に連絡先交換した方が早くないか?」
「私が?アンタと?冗談でしょ?」
あーはい。冗談です。国民的アイドル様のアドレスや電話番号をこんな俺ごときがゲットできるわけありませんよねー。
自虐的になりつつも、冷静に考えれば立場上簡単に連絡先を交換しようとしないのは理解できる。
「んじゃ首洗って待ってなさい」
涙ぐみながら別れを惜しむ泡海や、笑顔で手を振る有栖達ににこやかに別れを告げ、俺にだけ冷たい視線を投げてくる。
「必ず私の契約を破棄させてやるんだから」
そう言ってアルタがこの場を離れようとした…
その時だ。
どんな音がしたのか判断できない。
鼓膜が震えた。
爆風で俺たちや周りにいる客達も地面に横倒しになる。
「なんだ?何がおきた?白雪!」
「わらわに解るか!こっちが聞きたいくらいじゃ!」
爆風をもろともせず突っ立ったままなのは白雪とネムさんくらいだった。
咲耶ちゃんは有栖をかばうように覆いかぶさっている。教師の鏡だ。
勿論ハニーは泡海がしっかり抱きしめて守っている。
俺は爆風によろけながらも、泡海が呟いた一言が気になって仕方がなかった。
「こんなの、聞いてない!」
もしかして泡海の組織とやらが関係しているのだろうか。
少しだけ冷静さを取り戻し状況を確認すると、観覧車の根元部分が爆発したらしい。
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