第十九話:日本美少女連合。


 白雪は振り返ってこちらをチラリと見ると、意地が悪そうにニヤリと笑った。


「お、お前…知ってたのか?」



「勘違いじゃ。お主が昨日服を脱いだ時に袖から何か落ちたのは気付いたんじゃがそれがなんなのかわらわには解らんかったし興味もなかったから放っておいたんじゃがさっきの話を聞いてもしかしたら、と思ってのう。確認してみたのじゃ」



 後半から白雪の言葉は俺の耳に入ってこなかった。俺はこのカードのありかを見つけて疑いを晴らす筈だった。犯人を見つけて誤解を解く筈だった。その作戦両方が一気に崩れ去ってしまったのだ。



 ぴんぽーん



 その時、来客を知らせるチャイムがなった。こんなときに一体誰だ。…といってもうちに来る来客など隣人くらいしかいない。



 事情を説明してハニーに助けを求めるか?しかし人に話していい内容とダメな内容があるだろう。そもそもこのカード自体ブラックな代物だ。相談するにせよ内容をどこまで話すか、そしてハニーがそれで納得するかどうかも問題だ。



 ぴんぽーん



 再度チャイムがなる。どうする?このまま今回は居留守を使うという手もある。相談するにせよデリケートな問題すぎて俺の中で整理がついていない。だが早く解決策を考えないと人魚先輩が俺を追い詰めに来る。



「何をそんなに悩んでいるの?」



「人魚先輩がこんなにヤバイ奴だったなんて知らなかったから困ってるんだよ。早くこいつの言い訳考えないと俺がころされ…」



 …ん?



 今の声は誰だ。



「人をヤバイ奴呼ばわりとは貴方死にたいの?」



 振り返る事を脳が拒否している。保険の為と白雪に助けを求める準備を…



 しかし、すでに白雪の姿はそこに無かった。いち早く気配を察して他の部屋に逃げたのだ。



「…貴方、その画面に映っている物、見てしまったのね。釈明があるなら聞いてあげてもいいわ」



 間違いない。今一番聞きたくない声が背後からしている。



「あの…鍵がかかっていたと思うのですが…」



「一般家庭についてるドアの鍵なんて私には十秒もいらないわ」



 ゆっくりと振り返ると、ピッキング技能を自慢するように大きな胸を張ってドヤ顔をキメていた。



「先輩、一応我が名誉の為に言っておきたいんですがこれはその、不可抗力というか、事故というか」



「ふぅん、それで?遺言はそれだけでいいの?」



 眼が据わってしまった先輩はそれだけ言うとゆっくり俺に銃口を向ける。



 なんとか解ってもらおうと事情を説明するが、「それで袖に入ってしまったからといって今何故そのデータを見ているの?」と更に表情を険しくするだけだった。



「そもそもSDカードを持ち出した事が本当に偶然だったのならば貴方は何をしに更衣室に侵入してロッカーを漁っていたの?それこそ本当に変態行為だけが目的だったとでも?」



「あれが変態行為だと言うなら先輩のコレはなんなんですか!!少ししか眼を通してませんが変態行為そのものじゃないですか!」



「なんですって?私の崇高なるコレクションを変態行為なんて下卑た言葉で汚さないで頂戴。それはいわば芸術よ。女子高生、それは乙女の最も輝く時間。勿論小学生や中学生も素晴らしいわ。でも私には女子高生が一番輝いて見えるの。そこに女子高生がいるのならば全てを見たい、全てを知りたい。全てを愛でたい。そう思うのが普通でしょ!?そうよね?」



「普通じゃねーよ!!」



 思ったとおり、いやそれ以上のヤバイ奴だった。同意を求められても泣きそうな声しか出せない。



「私はね、この世の全ての女子高生を愛しているの。いえ、この世の女子、全てを愛していると言っても過言ではないわ。その中でも美少女は国の宝なのよ!?宝は宝としての扱いをしなければいけないしその為にも詳しい情報が必要なの、私が、私達が美少女を守っているのよ!!だからこその日本美少女連合、そしてその総会長である私がいるのよ!!」



「なにそのヤバそうな連合!」



 そこまで一気にまくし立てると少々酸欠になったのか膝に両手をついてはぁはぁと肩で息をする。



 倶理夢高校のマーメイド、人魚先輩の裏の顔は秘密組織のエージェント。もう一つの裏の顔がその日本美少女連合とやらの総会長という事らしい。



「勘違いしないで頂戴。日本美少女連合は人畜無害な集団よ。私を頂点として会員は国内に二百人ほどいるけれど活動内容はただ遠くから見守る事のみに限定していて少女達に害をなす事は有り得ない。むしろ害をなそうとする連中を捕まえたり、何かが起こる前に未然に防ぐ事が目的よ」



「その総会長が率先して規律破ってるじゃねーか!!」



 つい思ったままの言葉を吐き出してしまう。



「うるさい!!だからこそ貴方を始末しなければ…私は、総会長として…いや、そうよ。私は少女達を守るために監視しているに過ぎないの」



「コレクションだとか芸術だとか言ってたじゃないか!!」



「うう…私は……あ。貴方のペースに乗せられて大局を見失うところだったわ。どちらにせよ貴方を消せば秘密を知る物は誰もいなくなる。それで全て万事解決よ」



 追い詰められて開き直りやがった!!



 再びこちらに銃口を向け、今度はためらう事なく引き金を引いた。

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