エピローグ

エピローグ


ーーーー8月31日



あれから約一ヶ月が過ぎた。

その一ヶ月はとても忙しく、瞬く間に過ぎ去っていった。

大きな爪痕を残した一連の宇宙人侵略事件。

世界中で数万人単位の死者を出した忌まわしき事件。

人災としてはもちろん過去最大の事件である。もちろんこれが人災と呼べるかは定かではないが。

ドレクが画策したロークシア計画は、第二、第三の手段まですべて阻止、最も最悪な結末は回避された。


俺と一緒に戦った仲間達はみんな一躍時の人となった。

テレビや雑誌の取材は毎日鬱陶しいくらいに続き、さすがの俺もうんざりしかけていた。


しかしそんな事は問題にもならない。

一番の大きな問題は責任問題というやつだ。

イブは地球を助けるために悪役を演じたが、その結果沢山の人が犠牲となった。

それはリョークに関しても同じことが言える。

リョークだって本当は星が侵略される様を見ていたくはなかった。だから犠牲者の少ない心の侵略を提案したのだ。


だけども、やっぱり二人は宇宙人。

その未知の知的生命体に不安を感じる声も少なくない上、二人を侵略者と罵る者達もいた。

世間からの二人を見る目は懐疑的な意見も多かったのである。

地球を救った英雄であり、同時に得体の知れない宇宙人に対して、政府もどうするべきか途方にくれる他なかった。


だが俺の意見は一つだけ。

本来は力での侵略により地上は蹂躙されてもおかしくはなかった。

イブがいなかったら結果的にそれを防ぐ事は出来なかったのだ。

リョークは確かにドレクであり、この計画に荷担していたのも事実。それにより被害が拡大したのも紛れもない事実である。

だがリョークが心の侵略を提唱しなかったら、地球は簡単に蹂躙されてしまっていた事だろう。

ならば二人を責めるのはお門違いというものだ。


本当に憎むべきはドレク。

そして今、世界が考えるべきは誰かに責任を押し付ける事ではなく、これからどうするか、どうやって地球を守っていくかという点だ。


「同じ悲劇を繰り返さない為に」


俺がテレビカメラの前でそう訴えかけた後すぐ、いたる場所で大きな反響があった。

もちろん中には批判や罵倒もあったが、俺の意見に賛同する声が大半を占めていた。

それによって、いくらか二人に向けられた視線は和らいでいく。

この厳しい視線が無くなるなんて事は多分一生ないだろうけど、今はこれでいい。


「僕は、僕が犯した罪を背負い続けるよ。死ぬまでずっとね。この手が流させた血や涙は僕が責任をとらなくちゃ」


そう、リョークは言った。


過去は捨てられない。

リョークはリョークなりにすべてを背負って生きていくつもりだ。

そして咎を背負っているのはリョークだけではない。


俺やイブも同じ。

これからもずっと、自らの手で奪った命を背負っていくのだ。


「私たちは多くの命を奪ってきました。もし私が地球に生まれていたのなら、真っ当な生き方も出来たかもしれませんね」















ーーーーそして俺は人よりも大きな物を背負ったその体で、空を見上げた。


今日は八月の最後の日。

暑すぎるくらい暑かった二十四回目の夏。

その暑さもようやく衰え、秋の足音が聞こえるような涼しい風が吹いていた。

空には雲はなく、見渡す限り青一色に染まっていた。


そしてそこに浮かぶ巨大な宇宙船。


俺たちはその真下にいた。


仲間たちと一緒に。


「みなさん、本当にありがとうございました」


「こっちこそ、ありがとう。イブちゃんに逢えてよかった」


「絶対、絶対アタシ達の事忘れないでね!」


いつかはこの日が来るとわかっていた。

わかってはいたが、信じたくはなかった。


考えない事に決めていた。

だけどやはりその時は、俺の意思など関係なくやって来てしまう。


「僕たちは離れていても友達。何年経ってもね」


「うん。そうだね。私たちは友達。生まれた星が違っても、離れ離れになっても」


「最高の船出日和だぞ。こんなに晴れた空は滅多にないからなぁ!」


そう、別れの時だ。


イブには目的があった。

ドレクに、リーアを核とした兵器を作らせ、それを奪取すると言う目的が。

ドレクの支配から解放されるには、それほど大きな力が必要なのだ。

そう、今度は自分の星を救わなければならない。


イブは再び戦いの舞台に立つのだ。


「イブ……また、戦うんだな」


俺が言葉を漏らすと同時に、周りにいた仲間達はゆっくりとその場を離れていく。


あいつらなりの優しさだ。

二人っきりになったプチクレーターの中心。

少し寂しそうな笑顔を浮かべて、イブは小さく頷いた。


「そうですね。ドレクを倒し、リーアを使って空気を循環させなければ、アークネビルは滅びてしまいます。アークネビルには私の大切な人達がいるのです。このまま見過ごす訳にはいきません」


「やっぱり……俺も……」


「いいえ龍太、あなたにはあなたの大切なものがあるはずです」


十年前のあの日、イブだけが俺にとってのすべてだった。

何もかもを捨て、何もかもを裏切る事も出来ただろう。

けれどあれから過ぎ去った十年という月日が俺に色んなモノを見せ、聞かせてきた。


今の俺には捨てられないものもある。

大切なものだっていっぱいある。

だから俺は地球に残ることを決意した。


「それに私はこれから戦争に身を投じるのです。あなたを危険には巻き込めません。これは私の願いなのです」


「……」


「そしてもう一つ、最後のお願いを聞いて下さい……」


イブは言いにくそうに少しだけ間を開け、意を決して掠れた声を絞り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る