第十六話 臨界点の最終決戦

臨界点の最終決戦

「残り10秒!りょーちん!」


「わかってる!」


龍太の発射した光線が、ギリギリで隕石を破壊する。

それにより、射程圏内の隕石はすべて消え去った。


「ゆっち!どうなってる!」


「わからない……赤い文字が点滅して、警告音みたいな音が鳴ってるんだ」


悠のコックピット内、赤い文字が点滅を繰り返していた。

その文字は地球の言語ではなく、アークネビルのものである。


「私の方も操作できなくなった……動かない……」


そして雫の表示にも同じものが記されていた。


「イブ!何が起きてるんだ!」


この状況、最も詳しい人に聞くのが最良。

六人の矛先は一斉にイブの方へと向いた。


「機械トラブルが発生いたしました。右翼のエネルギーが正常に上がらなくなっています」


「異常なのはわかってる!直せるのか!?」


「……わかりません。最善を尽くしますが、直らない可能性の方が高いでしょう」


イブの言葉に真っ先に反応したのは貴史。

声は震えて、顔色も一気に青ざめていく。


「なんだよそれ……じゃあ後は全部、俺たちのペアとノブちゃんのペアだけで切り抜けろってのか!?」


「そう考えた方がいいと思われます」


幾度となく突き落とされる奈落の底。

互いに励まし合い、何度も這い上がってきた仲間達。

そしてまたしても突き落とされた彼ら。

だが今度はあまりに絶望に近い。


そう、彼らは知っているからだ。

この先に来る最大の難所を。

何度も挑戦し、その度に失敗を繰り返してきた最終局面を。


「イブちゃん、俺とゆっちを今、交代する事は出来ないかな?」


「ノブちゃん!?何言って……」


「遠距離での成功率はゆっちが一番高い。俺とりょーちんじゃあ先制攻撃出来るかわからんからなぁ」


伸明は理解していた。今の二組ではあまりに分が悪いと。

遠距離での攻撃の成功率は、伸明ペアと龍太ペアが共に三割程度。

隕石は出来るだけ近付かれる前に破壊するべきである。

だからこそ伸明は自ら名乗り出たのだ。


「伸明、それは出来ません」


「どうして!?」


「戦闘モードへ移行したこの機体は現在、周囲に強力なフィールドを展開しています。周辺領域に光線の発信源を特定させない為の物で、それは人体に悪影響を及ぼす可能性があります」


宇宙船から半径五十メートル程度、そして上空百メートル程度までに、目視では確認出来ない強力なフィールドが張られていた。

本来、宇宙船が放った光の光線は村や隣町の人間に目撃されてしまう。

だがそのフィールドが光を歪め、外部から見えなくするのだ。

しかしそれはとても強力なものであり、直に浴びてしまえば人体に被害が出てしまう可能性もある。


「二人とも外へ出て、身体に異常を来し戦闘が出来なくなってしまったら、もはや希望は完全に消える事になります。それだけは避けなければなりません」



終了まであと3分47秒

隕石の数、残り5つ








「隕石が射程圏内に入ります。準備してください」


「キツいなこりゃ……」


さすがの伸明も、珍しく弱音を吐く。

それを聞いた亜莉沙も苦い顔で笑った。


「はは……ホントに厳しい事になっちゃったね」


みんなの反応を聞いて、悠と雫は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「ごめんみんな。力になれなくて……」


「こんな大事な場面なのに……」


「なぁに、問題ない。さっきも言ってただろ~?一発も外さなきゃいいんだ!」


伸明の言葉、それは強がりであるとだれもが理解していた。

だがそれを否定する者はいなかった。

例え気休めだとしても、それが彼らにとっての唯一の希望なのだ。


「さぁて、それじゃあ遠距離攻撃の練習といきますか、なぁりょーちん」


「そ、そうだな」














――――最悪過ぎる展開だ。

まだ一番最後の難関が残っているというのに、俺とノブちゃんの二組だけでやり遂げなければならない。

今日のゆっちは、いつにも増してキレが良く、ここまで来れたのもゆっちのお陰と言っても過言ではない。

だがゆっちを失った今、あのラストの連続にどうやって挑めと言うのだ。


「当たれぇっ!」


出来るならさっきノブちゃんがやろうとしていたように、俺がゆっちと交代出来るなら、僅かにだが可能性が生まれるだろう。

だがそれすらも不可能。


「あぁっ!ダメか!りょーちん頼む!」


「わかった……」


13.5秒の充填時間を考えると、平均約7秒に一発撃てる計算となる。

だが実際には微調整に時間がかかるので、早くても10秒に一発程度が限度だろう。

すべて命中出来たなら十分事足りるが、遠距離の精度が著しく低い俺とノブちゃんではそれが大きな問題となる。


「く……」


俺が放った光線は、隕石にかする事もなく大きく逸れた。

遠距離での射撃、これでお互い連続で外した事になる。

射程が40秒以内の中距離では、俺とノブちゃんの精度は約六割程度。

20秒以内の近距離では約五割。

近距離では焦りが生まれ、どうしても精度が落ちてしまう。

さらに本番である今、俺たちの肩に沢山の人の命がかかっていると思うと、焦りは普段の倍以上となり手元を狂わせる。


そして問題は終わりの1分18秒。


「よし!やっぱり中距離ならイケる!」


気が付けばモニターに映っていた隕石はバラバラに散っていた。

ノブちゃんの二撃目が見事に命中したのである。

これで残りの隕石の数は4つ。


「次は……最後の1分18秒……だよね……」


あっちんの声には元気が無く、刻一刻と近付く最後の時に焦燥感を露わにしていた。


「本当にいけんのか……俺たちだけで……」


元々あまりポジティブ思考ではないタカピーも、やはりかなりの弱気である。

この先がそれほど困難であると知っているからだ。

だから俺は答えてやる。


「どうなるにしろ、やってやるしかないんだよ。覚悟を決めるしか、俺たちに道はない」


「その通り、よく言ったりょーちん。最高のイケメン!」


「ふっ、まぁね」


冗談で気をはぐらかしてみても、やっぱり騙す事は出来ない。


「みんな、頑張って!みんななら出来るよ!」


「うん、私も絶対出来るって信じてる」


ゆっちとしーちゃんからの激励は確かにこの胸の奥に届いてはいるが、それでもこの気持ちを覆すには至らない。

この先に待つのは地獄だと、心のどこかで考えてしまう自分がいる。


「イブ、やっぱりゆっちの方、直せそうにないか?」


「原因を探ってますが、やはり難航しそうです」


「そうか……」


ゆっちの復活は考えない事にした方がいい。





残り1分55秒

隕石の数、あと4つ





「ノブちゃん、次は確実に遠距離で決めないとマズい。俺たちのどちらかが、出来れば一発で」


「だよな。なら、あんまり自信ないが、俺がやろう」


1分18秒、その一番最初に射程圏内に入るのは、400メートル近い巨大隕石。

そしてそこから僅か18秒間の間に3つの隕石が立て続けに射程圏内に入る。

最初の巨大隕石は最大三つに分離、計7回の攻撃が必要となる計算だ。

さっきの巨大隕石も7回+1回の迎撃回数だったが、今回はそれを二基だけで仕留めなければならない。

一つにつき約11秒の猶予、一度外すと約7秒のタイムロス。

俺たちが時間内に撃てる回数は約11回。

単純計算、失敗出来るのは3、4回が限度。

それ以上の失敗は終わりを意味する。



残り1分37秒





「来るぞりょーちん!ノブちゃん!」


レバーを握る。

目の前に迫る最後の瞬間。

ここで終わらせるわけにはいかない。

頑張ってきた努力を、最後の最後で無かった事にする訳にはいかないのだ。

その瞬間、俺の脳は完全に覚醒する。

今まで一度も感じた事のない程の集中力がそこにあった。


「ノブちゃん!射程圏内まで、あと10秒!ラグは5.25!5、4、3、2、1……」


「当たれぇっ!」





残り1分18秒





正面に映る映像に釘付けになった俺たち。

誰しもが奇跡を祈った。


「お願い……」


当たる事を夢見た。


「いけ……いけ!」


信じていた。

だが、現実はあっさりその希望を打ち砕く。


「くっ……」


隕石を逸れる光、だが嘆いてなどいられない。

それは誰しもがわかっていた。

俺が何かを言うまでもなく、タカピーは素早く目標をロックし俺にバトンを渡す。


「りょーちん!」


横目でタイムラグを確認しつつ、一瞬でその軌道を頭の中に思い描く。

そして俺は目標を定め、間髪入れずにトリガーを引いた。

巨大隕石を遠距離圏内で破壊できなければ希望は完全に消え失せる。

俺たちの希望の光、第二射が空へと打ち上がった。





残り1分11秒

最初の隕石、大気圏到達まで53秒





「二つ目の隕石、三つ目の隕石、続けて射程圏内に突入!」


レーダーに映る隕石がさらに二つ追加される。

光は先頭の隕石へと向かい、やがて衝突し炸裂した。


「当たった!」


だが案の定、隕石は最も最悪なパターンの三分割となる。





残り1分4秒

大気圏到達まで46秒

隕石の数、あと6つ





三つ並列に並ぶ隕石、その後ろを追走する隕石が二つ、そして間もなく射程圏内に突入する最後の一つ。

最初の三つの隕石の後、約7秒後と8秒後にそれぞれ一つ、それから約10秒後に最後の一つとなる。

二列目以降の隕石撃破の必須条件は、最初の三つを10秒以上残しての撃破。

これが達成できなければ、どうあがいても作戦は失敗となる。


「次こそっ!」


中距離圏内に入った直後に、ノブちゃんはその一撃を放つ。


「よし!」


その光が隕石を一つ撃ち落とすと同時に、俺もまたその引き金を引いた。

いつものシミュレーションじゃあまったくうまくいかなかったこのラスト1分18秒。

だがこの土壇場の集中力で、俺たちは奇跡を呼び込む。

俺の放った光は狙い通りに隕石に直撃し、二つ目を破壊した。


「ぃよしっ!ナイスりょーちん!」





大気圏到達まであと28秒

隕石の数、残り4つ





三人の時と変わらない順調さ。

だからと言って俺たちが追いつめられている事に変わりない。

残り隕石はあと4つ。

先頭の一つを今破壊できれば大分楽になるだろう。


「ノブちゃん!当ててくれ!」


「任せろりょーちん!俺はプレッシャーには強いんだぜ!」


ノブちゃんの照準が、隕石の軌道上にセットされる。

ここが正念場である。

そしてトリガーを引いたノブちゃん。


「砕けろっ!」


頭で思っているだけでは足りず、気付けば俺はそう叫んでいた。

そして俺の願いは天へと届く。

全員のモニターに、隕石がバラバラに破壊される瞬間が映し出される。

同時に上がる歓声。


「やった!すごいよノブちゃん!」


「これならイケるよ!みんな!」


「はっは~見たか~!」





終了まで41秒

次の隕石、大気圏到達まで30秒

隕石の数、3つ





最初の一陣は全て退ける事に成功。

次に来るのは二つの隕石。

二つの隕石もほぼ並列に並び、その差は約1秒。

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