第八話 十七歳の美少女

十七歳の美少女

家の玄関を開け、背の小さい細身の男が俺の名を呼んだ。

そして俺はちょうど玄関から見える位置にいる。

俺たちの目が合った。



や……ヤバイ……マジでヤバイ……。



「お、いたいたりょーちん、何やってんだよ?待ってたのに」


待ってた?何だ?何の話だ?

そうか!タカピーはラリったのか!どうりでキツネみたいな顔してると思ったわ!

そんな事よりこの状況は非常に芳しくない。

何故なら俺のこの背後、襖一枚向こう側に宇宙人がいるのだから。


しかも着替え中なのだ!

さらに悪い事に、奴は今セーラー服に着替えているのである!

もしも俺が女の子を騙してセーラー服を着せて楽しんでいる男だと噂になったら、金輪際この村の中を歩けなくなってしまう。

学校なんて行った日には侮蔑の眼差しを浴びる事になるだろう。


生きていけない!この村で生きていけなくなっちゃう!


と、考えている間に勝手に家の中へと上がり込んでくるタカピー。

何としても死守せねば、俺の未来はない。


「バカ!それ以上入るんじゃない!」


「え!な、何!?」


「今お前の足下には死に至らしめるトラップが仕掛けられているんだ!それ以上近付くと死ぬぞ!」


「りょーちんどうした?暑さで頭がおかしくなった?」


俺の話術が効かない……だと!?


「貴様!まさか俺のATフィールドを中和したのか!?」


「本当に壊れちゃってる?」


俺の話も聞かずに近寄ってくるタカピー。

人の家に勝手に入るなと教わってこなかったのか痴れ者が!

住居不法侵入でタイーホだ。ルパーン。

だがこのままここに来られてはすべてお終いだ。


「しかし暑いぜ今日も!タカピー、麦茶飲むか!?キンキンに冷えたやつ!」


「お、いいねぇ!」


居間に無理矢理案内させて、一旦この場所から遠ざける。

そう、夏場の日中、北嵩部の猛暑の中、キンキンに冷えた麦茶というのは麻薬にも似た中毒性を持つ。

魅惑の液体。誰もその誘惑には勝てない。

ここで見事にその誘惑を利用した俺の頭の回転速度、ヤバすぎる。

奴が着替えている部屋と居間は僅かに離れている為、これならばなんとか誤魔化しきれるかもしれないな。


「で、なんでお前いきなり家に来たんだよ?」


「だって昨日言ったじゃん。今日は一緒に夏休みの宿題するって」


あれ?そうだったっけ?

宇宙人と出会った事があまりに印象的過ぎて、そんな小さな事は完全に頭から吹き飛んでいたのだ。


「そ、そっか……しかしなぁ……せっかく出向いてもらって悪いんだが、今日はとてつもなくヤバイ急用が入ってだなぁ……」


と説明している最中に、俺の視界にセーラー服が映り込んだ。ような気がした。


「え~!マジで!?なんだよ急用って?」


「あ、いや、それはちょっと企業秘密って奴なのよね」


そして再び、タカピーの背後をセーラー服らしき姿が横切った。ように見えた。


い、今のってもしかして……。



ガラガラ……



玄関のドアを開ける音が聞こえた。


「ん?あれ?もしかして誰かいた?りょーちんのおばちゃん、この時間はいつも仕事だったような気が……」


「だ、誰もいねーし!たまに風で鳴っちゃうんだよね音が!」


あんのバカ!勝手に外に出るんじゃねぇ!

外でそのセーラー服姿が目撃されたら言い逃れ出来ねぇぞ!


「ふ~ん、ま、いっか。それより何だよ急用って?」


しつこいなキツネめ。俺は今それどころじゃないんだよ。

あいつがまたどこかへフラフラと出歩いていったら探すのも一苦労だ。

と、色々と考えている俺をあざ笑うように、窓の外をセーラー服の少女が横切る。


「ん?今、なんか制服着た女の子が通んなかった?」


「通ってねぇーし!タカピーの妄想だし!」


「え~、昨日は八時に寝たんだけどなぁ……」


「タカピー、少し待っててくれ。俺は超ビズィーだから、如何なる時でも時間に追われているのだ」


そう言い残しながら猛ダッシュ。

何度も言うが、そのスピードは剣心も顔負けの神速、いや、超神速である。

玄関から外へと駆け出し、イブの後を追いかける。

すぐに庭で水道を不思議そうにつついたり撫でたりしているイブを発見。


「おい!宇宙少女!勝手に外を出歩くでない!」


俺の言葉に申し訳なさそうに振り返るイブ。


「あ、はい……ごめんなさい、すまん、申し訳ありません……」


「うをっ!」


思わず声を出してしまったのは、計り知れないものを見てしまったからである。

これは驚愕と言うよりは、感嘆の呻きだ。

例えるなら最高の芸術、他の追随を許さない至高の美しさがそこにはあったのだ。

イブはあのセーラー服をどこまでも完璧に着こなしていた。

それだけではなく、今までは全く気付かなかったが、スレンダーなボディに、瑞々しく透き通る白い肌。

肉付きのいい太股アンドふくらはぎ。

幼さの残る端正な顔立ちの中に、どこか大人っぽい妖艶な雰囲気がある。

さらに黒く染まった傷みのない艶やかな髪は腰まで長く伸び、風に揺られて少し乱れていた。


そして痩せ型なのにも関わらず……その胸!

はちきれてしまうぜヤッフー!!

クビレもくっきり、腰つきまで見事なバランス。

何から何まで完璧過ぎて、悪いところが全く見当たらないぞ!



宇宙人だけど!



「しかし龍太。私はとても特異な、奇妙な、不可思議な物体を発見しました!」


な、なんだか少し興奮しているようだ。

今までずっと機械的で、あまり感情らしい感情を表してはいなかったイブ。

だが今、目の前のこの少女は、地球人と何ら変わらない。

もはや俺には宇宙人に対する偏見は溶け、一人の少女として、女性として彼女を見ていた。


「この物体は一体何なのでしょうか。敵を倒す殺戮兵器に見えますが」


水道が殺戮兵器に見えるって、こいつの星ではそうなのか?

ただ、そんな事すらも気にならないほど、いつの間にかイブという存在に見とれてしまっていた。


「それは水道だ、水が出るんだよ」


「水道……?これが水道なのですか!?こういう形状のものは初めてです!」


「その上のコックをひねれば水が出る」


「これですか?きゃっ!」


どれくらいひねればいいのかわからなかったのだろう。

イブは一気に全開にまでコックを回したので、激しく水が放出され、彼女の身体に噴きかかる。


「なっ!」


水が噴きかかった事で、イブの(美紗子の)セーラー服はビショビショだ。

水を含んだその生地はベッタリと肌に張り付き、そして僅かに透けさせる。

まさにステルス機能だ。

もちろん服の透けた姿を、完全に目撃してしまう俺。


「……」


「ご、ごめんなさい、すまん、申し訳ありません!せっかく貸して貰った服を!」


なんだか少し取り乱しているが、自分の服が透けている事を恥ずかしがっている訳ではないようだ。

しっかりとしてそうに見えて、ドジっ子属性も兼ね備えているとは、宇宙人とは本当に計り知れない。



それよりも、宇宙人って……











下着つけてるんだなぁ……











「う!」


神レベルの容姿を持つ美少女の下着姿は、俺の許容範囲を超越しているため、逆に目の毒である。

鼻血が出るとかそういった次元でなく、鼻が爆発してしまいそうだ。

敢えて丸出しではなく、水に透けた下着(黒)という事で、エロさは倍増。

何と言ってもセーラー服、それを着ているのは、綺麗だの美しいだのという物差しでは測れない、美の極限に立つ存在。


「ど、どうしましょう……?」


自分の失敗に慌てているようだが、俺は何も気にしていない。

出来ればこの瞬間を最先端のカメラで激写しておきたいが、残念ながら今手持ちにカメラなどない。


「気にするな。新しいのを用意してやる」


カッコつけてはみたが、俺の心臓はバックバクで、今にも鼻が爆発しそうなのだ。


「あ……ありがとうございます!」


今までが随分堅苦しい雰囲気だったので、こうやって少し砕けた姿を見ると妙に親近感が湧く。

目を潤ませる目の前の少女は、どんな女よりも女らしく見えた。


「りょーちん?何やって……うをっ!」


「き、キツネ!貴様!待ってろと言っただろう!」


タカピーは待ちきれなかったのか、外へ出てきてしまっていた。

そして最悪な事に、この現場を目撃してしまったのだ。


ヤバイ……俺の性癖がバレてしまう!むしろバレたーー!

最悪だーー!もう外を歩けない!


「りょ、りょーちん……」


「言うな、タカピー。もう何も言うな」


だが俺の制止も聞かず、タカピーはその言葉を言ってしまった。











「りょーちんが……女の子を濡らして楽しんでる……」











ん?


おい、なんか妙な事になってるぞ。


「りょーちん、卑猥、不潔!」


「おい何を言っているんだお前は!」


「まさかりょーちんが家でコソコソと女の子を濡らして楽しんでいるなんて……」


「お前の発言の方が捉え方によっちゃ卑猥だぞ!」


何とかするんだ俺。この事態を何とか収拾するんだ!

あるはずだ。何か最善の方法が……。


「龍太の友人、知人、友達ですか?」


「まぁそんな所だ」


「初めまして、私の名前はアンドリュケル……」


「オラァァ!」


片手で宇宙人の口を塞ぎ、思いつきの言葉を口にする。


「こいつは俺の親戚なんだよ!夏休みで遊びに来てんだ!もちろん今俺がこいつを濡らして楽しんでいるというのは誤解だ!こいつが勝手に自爆しただけだからな!ちなみに、こいつの服がセーラー服なのは、こいつが好き好んで着ているだけだ!べ、別に俺の趣味とかそういう訳じゃないから勘違いするなよな!」


と、苦し紛れの言い訳を並べ立ててはみたが、タカピーは眉を顰めたまま疑惑の目をむけてくる。


「で、名前が聞けなかったけど、アンドリュケなんとかって言わなかった?」


「あ、あぁそれはつまり、安藤流剣術の使い手だって言ったんだよ!」


「……」


く……さすがにこれは苦しすぎたか。


「ん~ん~」


「と、とりあえず俺はこいつの面倒を見なきゃいかんのだ。だから今日は無理である!」


タカピーはイブのずぶ濡れの姿を見て、戸惑って視線を泳がせた。

タカピーも俺と同じように、あまり女の子に慣れていない。

しかしタカピーには妹がいるのに、女慣れしてないとは妙なものだ。


「そ、そうか、わかったよ」


「あっ……と、タカピー!こいつの事は内緒にしておいてくれよ!」


タカピーはイブの姿を見た途端、急に素直になりやがった。

まぁそりゃあそうだろう。その姿は、開いた口が塞がらない程の美少女だからな。

そんな美少女の下着を見たんだから、ウブなタカピーの股間がバーストしてもおかしくはない。

タカピーが去っていったのを確認し、イブの口を塞いでいた手を離す。


「ふぅ……。いいかイブ。人前で軽々しく自分の正体を明かしてはダメだ」

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