宇宙の神秘2
口では恥ずかしくてそんな事は言えないが、目力だけで訴えてやる。
穴が開くほど見つめてやれば、二人にも俺の熱意が伝わったようだ。
「オッケーりょーちん!二人にするからうまくやってくれよな!」
「べ、別にそんな事を言われても、何も出ないんだからな!」
「我が同志の恋の成就の為だけに、我らは動いているのだ。見返りなど何もいらないさ」
ノブちゃんは親指を立て、ウインクをしながら白い歯を見せた。
太陽の光を浴びて、その歯が眩しい程に輝く。
なんだか……最高にカッコイイぜ……ノブちゃん……。
やはり持つべきものは友だな。
もしかしたらこれがきっかけで付き合って、幸せな未来へ繋がるかもしれないのだから。
俺の人生はまさに無限大に広がっているのだよ!
――――「う……かつての俺は……あんな夢見がちな少年だったのか……」
こうやって鮮明に思い出す事なんて今まで一度もなかったので、やはり不思議な感覚である。
その時どんな天気だったのかとか、何を考えていたのかという事も、手に取るようにわかる。
そして今さらながら気付いたのは、俺にはどうやら妄想癖があったようだ。
未来は無限大の中にある、とか、今の俺には随分と滑稽に見える。
ノブちゃんは中三の時と今とでは、性格も見た目もあまり変わってない。
ヒゲナシ君はまだV系にハマる前なので、音楽の話をしてきたりはしてなかったな。
見た目はノブちゃんと同様、あんまり変化はないようだ。
もちろんヒゲはない。
あっちんは大分違う。
今では金に近い傷んだ茶色の髪、昔は少し控えめな黒のロングだった。
もちろんまつ毛だってあんなにモッサモサじゃない。
あの頃思い描いていた未来像とは随分かけ離れてしまっている現在。
誰だってそうだろう。
かつて思い描いた未来の通りに、人生を歩いている奴なんてそうはいないのだ。
そして今の俺は、その未来像とは真逆の方角にいるような気がする。
二十四歳という歳、正確に言えばもうすぐ二十五歳だが、未だに俺は定職に就いていない。
もう立派に仕事をして、中には昇進している奴もいるってのに、俺は何やってんだろうな。
「は!こんな事を考えてどうする!ネガティブになるな俺!」
意識のダークサイドに落ちかけていたのを気合いで立て直す。
今は何も考えずに、この記憶を辿っていきたい。
せっかくここまで来たのだ、どうせならこの記憶をすべて丸裸にしてやろう。
――――コゲ山、俺は隕石落下地点、プチクレーターの場所へとたどり着いた。
もちろん俺一人でだ。
ノブちゃんとゆっちに遊びに誘われたが、今はイブを捜し出さねばならない。
俺の全米デビューの鍵はあいつが握っているのだからな。
「はぁはぁはぁはぁ……あっち~……」
溶けてしまうほどの容赦ない太陽の熱。
特にプチクレーターには木々が生えていないので、完全なる直射日光。
身体中から汗が噴き出し、Tシャツにはもう世界地図のようなシミが出来ている。
北嵩部、ナメてると死ぬぜ?
「ん~……」
プチクレーターまで来てみたはいいが、周辺には人気はない。
一応登山道ではあるが、こんな辺鄙な村の大した事のない山を登る人なんてほとんどいない。
第一登ったところで、貴重な何かが見れるという訳でもないし。
なのでこのコゲ山には、地元民ですらほとんど来ない場所なのである。
そんな場所に二日連続来る俺は、かなりレアな存在なのだ。
けれど、問題の彼女の姿は見当たらないし、あの宇宙船もない。
もしかしたら宇宙船はそこにあるのかもしれないが、ステルスのせいで目視では確認出来ない。
「イブ!」
とりあえず奴の名前を呼んでみる事にする。
それでもダメなようじゃ石でも投げれば……
「はい」
「うをぉあっ!」
予想に反して背後から声が聞こえた事にビックリして腰が抜ける俺。
「どうされたのですか?龍太」
「ど、どうもしとらんわ」
「シトランワ?」
すぐに立ち上がり、イブの顔を見ると妙な違和感を感じた。
昨日とは大分雰囲気が変わったように見えるのだが……。
「あれ?お前……髪の毛の色……」
昨日夜見た時は確かに水色だった。
「どうでしょうか?」
だが今はその髪の毛は黒く変化していた。
髪色が変わった事により、異質だった見た目も、そこら辺にいる女の子とあまり変わらなくなった。
宇宙人という感覚は一気に薄れ、いつの間にか俺は一人の女の子として彼女を見ていた。
「おかしいでしょうか。地球人の髪色は黒、ブラックがいいかと思いまして」
地球人の髪がみんな黒いわけではないが、日本人ならば黒で特に問題はないだろう。
特に見た目、年齢も俺とそんなに変わらないくらいの彼女は、地球では中、高生の可能性が高い。
学生が髪を水色に染めているなんて、一体どこの不良なのだ。
「お前、歳はいくつなんだ?」
「トシとは地球上の暦、西暦の話ですか?」
「違う、お前の年齢だよ。お前が生まれてから何年経ったのかって事だ」
「年齢ですね。アークネビルと地球とでは一年の周期が僅かに異なりますが、大した差ではないので、恐らくは同じ17年というところでしょうか」
17歳か。
まだ誕生日は来ていないが、俺は15の年回りだから、この宇宙人は俺の二つ上の先輩になるわけだ。
しかし、相手は宇宙人。
年上の動物に敬語を使わないのと同じように、俺がイブに敬語を使う道理はない。
「それで?お前は今まで髪を染めてたのか?」
「色付け、カラーリングと言うのでしょうか。それは僅かな時間があれば完了、達成、遂行出来ます」
「じゃあ何してたんだよ?お前が急にいなくなったから、随分探したんだぞ?」
道中にトラブル、イレギュラーがあっただけで、本当は大して探してはいない。
「それはごめんなさい、すまん、申し訳ありません」
イブの日本語の理解力はかなりのものだが、随分と特徴的だな。
たまに妙な事を言ってくる時もあるが。
「地球の成層圏を抜けた時の情報を、整理、管理出来ていなかったのです」
「……?」
「補修、補填、メンテナンスというものです」
「おーおー、メンテね!」
宇宙船にもやはりメンテナンスは必須のようだ。
そりゃそうか、宇宙船が壊れてちゃ帰れないし。
本当はもっと咎めてやろうかとも考えていたが、目の前にするとその気も失せてしまう。
俺が妙な説教をして、ヘソを曲げられて帰られてしまってはかなわない。
こいつの存在は人類史にとって貴重なサンプルだからな。
幸いまだ他の誰かに見つかったという話は聞いていない。
それに今の見た目なら、見られたところで妙な噂は立たないだろう。
という事で、俺は気を取り直してこいつから情報を聞き出すことにした。
「さて、イブ。昨日はどこまで話したっけ?」
寝落ちする間際は、イブが何を言っていたのかあんまり覚えていない。
「昨日、というのは、龍太が睡眠に入る以前という意味でよろしいですか?」
「あぁ……さすがに眠くなっちまったからな、昨日は」
「龍太が睡眠に入る寸前まで、私が話していた事は、地球に起きる災害の規模です」
災害の規模という言葉で、何となくだが思い出してきた。
確か隕石が地球に落ちると、でっかい津波が起きて町や森が飲み込まれる……とか何とか。
んで、人間の死者数は百万人単位まで膨れ上がるとか言ってたな。
「じゃあその続きを聞かせ……っていうかお前、暑くないのか?」
ライダースーツのような服装は昨日から変わらず。
ピッチリ体中を覆い尽くしているその姿は、見ているこっちが暑苦しい。
まぁ、身体のラインが浮き出て、見てるとなんだか気恥ずかしい気持ちになるっていうのもあるが。
出来ればもっと普通の服装をして欲しいものである。
「はい、暑いです。とても、すごく、めちゃめちゃ」
顔は全然暑がっているようには見えないが、額には僅かに汗が滲んで光っていた。
俺があんなの着てたら、三十秒保たないな。
「ちょっと来い」
髪色は黒くなって目立たなくなったが、服装は未だ少し目立ち過ぎる。
そりゃあこの炎天下にライダースーツを着る人も中にはいるかもしれないが、このド田舎北嵩部村ではまず見かけない。
まずは服装をどうにかしなければ。
家に行けば美紗子の服があるはずだ。多分。
美紗子はやたらと服を持ってたはずだから、一着なくなったくらいじゃ気付かないだろう。
サイズは合うかどうかはわからんが、とりあえずイブの手を引き、昨日と同じようにコゲ山を下る。
イブは拒絶する事もなく俺に従った。
その道中、周りをキョロキョロと見ながら目を輝かせている。
周りにはまだ森しかなく、特に珍しいものではない気がするが。
「なんか見つけたのか?」
「自然、森林、緑というのは、想像以上に美しい、綺麗、麗しいものだと思いまして」
本当に妙な事を言う奴だ。
森なんてそこら中に嫌ってくらい溢れかえってる。
特に北嵩部なんて自然に溢れすぎて、交通面では不便が絶えない。
「なんだ?お前の星には森もないのか?」
「はい、私たちの星には、森なんてほとんど存在していません」
森がない星?
でも森がなきゃ、酸素が生まれなくないか?
今、こいつがここでこうして呼吸してるって事は、人と同じように酸素を吸っているはずだが……。
「かつてはたくさんあったようですが、伐採や環境汚染などでほとんどが無くなってしまったのです」
「そ、そりゃヤバいな」
「アークネビルは元々、自然はあまり多くない海洋惑星なので、そうなるのも目に見えた結果です」
「じゃあ自然がないのにどうやって呼吸してんだ?」
「酸素を作る、精製する技術が生まれたのです。今はそれがあるお陰でなんとか現状を維持、安定、継続出来ています」
具体的な想像は出来ないが、でっかい装置かなんかでなんとかなっているという訳か。
地球もいつかはそうなるのだろうか。
「ですがその装置にも限界、臨界があります」
「限界?」
「装置を動かす為の資源が、数十年以内に底を尽きるという目算が立っているのです」
頭を整理して考えてみよう。
自然のないアークネビル、酸素の供給の為に、酸素を作り出す装置が作られた。
恐らく一つじゃなくて、無数に。
装置を動かす為に燃料が必要になるのか、酸素を作り出す為に何かが必要なのかはわからないが、天然の資源を使っている訳だ。
地球で言う石油みたいなものだろう。
石油もいつかは枯れ果てる、同じようにアークネビルのその装置に使用されている資源もいずれ枯渇すると言うことだろう。
でも、アークネビルにとってその資源が枯渇するという事は……。
「このままだと、後数十年と経ってしまえば、私たちの文明が終わり、終末を迎える事になってしまいます」
酸素が薄くなって、呼吸が困難になり、やがて死滅する。
世界の終わりがやってくると言うわけか。
だがそれはあくまで別の星の話であり、俺たちの住むこの地球とは関係のない事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます