第61話 まだ見ぬ灯火

 その日の夜、食事会の後にイヴは一人王宮を出歩いている。ロゼットとの事を思い出しながら自身の役割について考えさせられていた。フローゼルが今回の交渉で貿易交渉の機会を得られたのは『翠晶石』の存在が大きく関わっているのは確かだが実際に交渉をしてきたのはセルバンデスとロゼット。彼らがレイティスと妥協点を見出してくれたおかげで自分達は交渉権を得られたも同然、それに対して自分自身はどうなのかと―…。


 そんな物思いにふけていると、長老派の人間から声を掛けられる。


 彼女の美しさに惹かれていまだに彼女を口説き落とそうと考えている人間は多く存在していた。ましてや彼女もフローゼルの王族ともなれば尚更彼女を手に入れたいと考える人間はいる。実際ロブトン大公もポスト公爵も王族の姫君を伴侶に迎えたことで王位継承者として候補に上げられているほどである。自身も王族になりうる機会があると狙う人物もいてしかり。


「そんなに深刻そうな表情を浮かばれて、何か心配事でも?」


「そのように見えますか? いけませんね、他国でお世話になっておきながらこんな顔をみせてしまっていては」


 イヴは当たり障りない、表情や抑揚はあるが内心では全く気のない返事をする。そんな自身の表情、行動が気になると男は答えてはいたがイヴには全く話が頭の中に入ってこない。人の顔色を伺うようなことはしたくはないがドラストニアで問題など起こせないし、自国であれは冷徹に切り捨てているところだ。力がないことに歯痒さを感じながらも男の誘いの言葉をのらりくらりと躱す。自身の表面しか見ていないことが言葉からもよく分かるし、ドラストニアに来て以来より洞察力を磨く機会が増えていることに辟易していたところにまたしても男性に声を掛けられた。


「珍しい組み合わせですね、長老派の方で確か会合が今日ございませんでしたか?」


「ラインズ皇子、私としたことがすっかり、イヴ王女に見惚れて失念いたしておりました。それでは失礼致します」


 男はそれだけを言い残し立ち去っていった。仕事を忘れてしまうほどの美しさだと評したつもりだったのだろうがイヴはむしろ呆れた様子で立ち去っていく男を見送るだけだった。何度も経験はしてきたがこの国に来てより顕著なってきたこともあり、最初こそ苛立ちを見せていたがもはや呆れて無関心にまで至っている。確かに容姿を褒められることは素直に好意的に受け取れるが、彼女は王族ということも周知の事実。それを理解しても口説いてくるのは相当な野心家かただの色ボケのどちらかである。


 ラインズの助け舟もあって事なきを得て感謝の言葉を述べてから、彼女自身の内心を吐露した。


「それにしても凄いな。あんたを他国に送り込めば国一つ潰せるんじゃないか?」


「冗談じゃないないわ。父に命じられても絶対にやらないし、その前に自決するわ」


 イヴなら本当にやりかねないと少し引きつった笑いで答えるラインズ。気高く美しい王女はそんな恥辱を受けるくらいなら死を選ぶと語るが、むしろその気高さが男にとっては格好の餌なのだろうなと少し笑みをこぼす。それに彼女の美しさは存在するだけで同等の効果を発揮しているのだと彼女の魅力を皮肉に語った。


「あんたは潔白すぎるくらい綺麗だな」


 その言葉に彼女は眉をピクリと反応させる。決して褒めているものではなく皮肉で言っているものだと受けとり不機嫌そうな表情を見せる。


「それがあなたの口説き文句でしょうか?」


 ラインズも少し困った表情で答えながら持っていた酒瓶を見せて一杯付き合ってほしいと申し出た。イヴも少し怪訝な表情で彼に伺うような仕草で明らかに警戒している様子。ただラインズからも聞きたいことはあったのでイヴは溜め息をついて了承する。


「大体口説くならもっと上手いやり方を選ぶよ」


「でしょうね、あなたならもう少し賢く立ち回りそうですし」


 イヴの答えは相変わらず冷たいもの。しかし―…それも心情を察すると当然の反応なのだろう。ドラストニアに来てから依然として自身の役割を見出せずにいる。本来、勤勉で真面目な性格の彼女としてはただ手持ち無沙汰で歯痒い思いを強いられているのだから精神的にも少々参っているのだろう。


 そんな心情を察したからこそ彼女の肩の力を抜くつもりで誘ったのだが、ラインズの意図はそれだけではないらしい。


「私を呼んだのはそれだけではないのでしょう?」


「シャーナル嬢に似てキツイなぁ…。ロゼットにはもう少しおしとやかに成長するように教育すべきかな」


「失礼致しました。こういう性格なものですから」


 流石に彼女の逆撫でをしてしまったのかすぐに謝罪した後に、本題に入る前の前置きを話し始めた。今回の交渉の成功がまずはフローゼルの『翠晶石』が大きく起因していることに感謝し、その成果として領海の権利も得られた報告を行なう。それに関してはフローゼルも国交を結ぶ機会を得られたことで外貨獲得へと繋がったためにむしろ感謝している立場だった。


 そう、自身が関わらずもそうなったことに自分の力が何もないものだと思い悩んでいるのだ。


 ラインズの自室へと到着し扉を開ける。イヴは思いのほか物が少ないことに珍しそうに辺りを見回す。こういう性格のラインズのことだから書類や雑務などで散らかっていると思い込んでいただけに少し意外そうな様子を見せていた。彼はグラスに紅いワインを注ぎ、テラスへと招く。


「俺だってあんたらには感謝してるし、何よりも紫苑から聞いたが―…ロゼットの魔法に関して教育してくれてるんだってな」


 紫苑から聞いた話を彼は語った。彼には魔力の素養は皆無であるために、自分ではそうしたものは教えられない。勉学や外交もセルバンデスに任せきりで、国内で顔を合わせても談笑する程度の機会しかない。本来の国王は彼女であって自分ではない、自分はそれまでの飾りでしかないのだと。だからこそ彼女に学ばせて自身で国のトップに立ってもらうために出来る限りのことを彼女へと継承させるために基盤を固める必要がある。



「本当のところ…あいつともっと色々話したいし、どう思っているのかも聞いておきたい」


「……摂政を設けることは考えなかったのですか?」


 素朴な疑問を投げかけるイヴ。通常幼い国王が即位となるとそれまでの間、摂政が政治を担う形態が多いのだが多くの場合は傀儡政権のような操り人形さながらの国王となってしまう。特に長老派という最大の問題を抱えているために彼女を取り込まれることだけはどうあっても避けたかった。


 であるならばシャーナルが彼女に近付くことも彼らにとっては危険なのでは―?


「シャーナル皇女の件は良いの? 彼女も長老派で、あなた方にとっては政敵なのでしょう?」


「確かにあいつも長老派ではあるが、思想自体は俺達に近い。考え方の違いというのはあるが今のところロゼットを洗脳しようだのとか考えているわけでもないしな」


 現状でも摂政と対して変わらないともラインズは皮肉交じりに答えながらも、両方からの視点で彼女にその後の判断を託したいと語る。どちらが正しくて間違っているのか、見方次第で大きく変わってしまう。だからこそ色んな視野で彼女には判断能力を養わせたいと、彼は目論んでいたのだ。


 外国の人間でもある自分になぜそこまで話すのか少し疑問に感じる。信頼か、虚言か、疑う余地は存在するのだが、なぜかロゼットのことに関しては彼らが偽りを述べているとは思えなかった。


 深夜の星空の元で皇子と王女が酌み交わす。少し口にワインを含んでグラスの中のワインを転がすラインズとは対照的にイヴは少し含んだだけで顔を赤らめていく。分かりやすい反応に少々可笑しくなり笑ってしまう。彼女も自身があまり酒に強い方ではないとは自負しているし、それでも付き合いとして彼と共にこうしているのだ。


 そんな真面目すぎるほど真面目な彼女だからこそ魔法に関して、ロゼットの指南役を任せたのだろう。


「あんたならあいつに吹き込むなんてことできやしないさ。だからこそ、あいつの言葉も聞いてやって欲しい。セバスにも頼んでるけどあんたはシャーナル嬢とは違ってロゼットからしても話しやすい相手だろうし」


「子守を押し付けるみたいに思うかもしれないが、他国の次期国王と関わるって思えばあんたの仕事はむしろどの外交よりも重大じゃないか?」


「確かに…そうね」


 イヴも頷き、そのことに関しては概ね理解しているといった様子を見せる。もとよりそんなつもりはないが今後の関係を考えても彼女と友好を築くことは非常に重要になってくる。彼女の機転でも救われたことがあるのだから、その恩義も十分にあるし何より幼い頃に姉妹同然の関係でもあった。私情にはなってしまうが個人としても彼女のことは非常に気になっているのもあってイヴはこの依頼を受け入れた。


 ラインズも改めて感謝を述べて、会食前にフローゼル、レイティス、グレトンへと書簡を送った事を彼女に明かした。セルバンデスにもまだ耳に入れていないものであり、自身と彼女だけしか今現在知りえない情報だった。レイティスとフローゼルとの間で取り持つつもりなのかと考えたがグレトンに対しても送っている点を考えるとどうもその線は薄い。それに以前のこともありグレトンに関してはいまだ心象は良いとはいえない。


「グレトンに何か思うところがあるのは分かるが、現政権を担ってるあの坊主はむしろあんた達の手助けに一役買ってくれたからそこは信用しても良いと思うぞ」


 シェイドに関して言えば一理あるが、グレトンでもマンティス大公の派閥は現在も存在している。シェイド自身もその点では少し苦い思いをしているうようで何かあるたびにドラストニアへ来るのは彼自身のガス抜きのためでもあるのだろう。


 そんな関係を解消するために新たな動きを見せたのが今回の書簡である。ラインズが思い描くもの、実はそれは先代ドラストニア国王が成し遂げようと生前に国家間の関係を作り上げてくれたからこそ実現できるものだと語った。


「今や西大陸『帝都』、ユーロピア大陸の南にあるスピノアクス大陸では『覇国』と呼ばれる国がその猛威を振るってる。彼らに対抗することを本気で考えるなら、この大陸で新しい形態を作り上げる他ない」


「今はドラストニア、フローゼル、グレトン、レイティス。この四カ国だがいずれは他の国家にも参加してもらうことも視野に入れている」


「ユーロピア大陸における共生共存を考えなければ、その二つ最強国家にいずれ飲み込まれるからだ」


 ユーロピア大陸における共に繁栄を目指した新たなる国家同士の形態。それは単なる同盟関係ではない、互いに成長しあうことを目的として共通の敵と戦うことを前提としたものだ。


「さしずめ…『共栄圏』ってところかしらね」


 イヴが発したこの言葉にラインズは神妙な面持ちで頷いていた。西大陸の巨大国家『帝都』、そしてすぐ南の大陸に存在する『覇国』。彼らドラストニアが『エンティア』において生き残るための手段として打ち出したものは他国を支配するのではなく、他国と共生関係になること。大陸全土を支配するなど容易なものではない。だがそれを本気で目指す国家が少なくとも二つも存在しているのだから、彼らが生き残るにはそのどちらにも対抗できる形態を生み出すことが最善だと考えたのだ。どちらかに組してもいずれは取り込まれてしまう。


 だからこそ…ドラストニアの国王を育てることがこの国にとって最も必要なことなのだとラインズは呟いた。その後の存亡をあの小さな少女に託すこと。旗から見れば無謀、愚策と嘲笑されるだろう。


 だがラインズは何か彼女に期待をしているようにもイヴの目には映った。それはイヴも同じように感じているものがあったために共感しているようだった。あの小さな少女に一体何があるのか、定かではないその『輝き』は小さくとも確実に大きくなりつつあることをすでに二人は感じ取っていたのかもしれない。




 ◇




 ロゼットは早朝、ただ一人鍛錬場へと赴き『鍛錬』を行なう。だがその様子はいつもとはどこか違うようだ。共についてきた澄華も首を傾げる仕草で不思議そうに見ながら彼女から少し距離を置く。剣を構えずに彼女はその場でただ目を閉じ棒立ちしているだけだった。深く息を吐き、そして吸い込む。深呼吸を繰り返すことで呼吸を整えてぼやけた頭の中をはっきりとさせる。


 彼女がイメージするもの、それは物質の状態そのものであった。四大元素とされる『固体』、『液体』、『気体』、『プラズマ』それら四つの状態変化のサイクルを頭の中で働かせる。性質をよく理解してどのように用いるのか頭の中で構造を組み立てるように想像して具現化させる。魔法とはそうしたエネルギーの表面化そのものなのだとイヴに教えられ、実践に向けて簡単なイメージトレーニングを彼女は日課として早朝の頭の目覚めを良くする意味も込めて行なっている。


 のはずだったが―…


「………っていっても何を思い浮かべればいいんだろ」


 根本的な問題に躓いていた。学校の理科で習ったものをなんとなく、ぼやけた抽象的な表現で思い出そうとしていた。


「水が液体…で、気体は空気だよね…? えっと…あ、そっか湯気で良いんだよね!?」


 澄華に対してそう問いかけるが眠そうに大きなあくびをして体を丸めていた。彼女のマイペースぶりは飼い主に似たのだろうがロゼットも顔を膨らませて、次のイメージを続けた。


「じゃあ…固体…? ―はなんだろう…。水が固まると……氷でいいのかな?? でも土属性とかファンタジーだと言われそうだよね。泥水とか泥玉とかでいいのかな」


「で…プラズマって何よ。雷技かなんかかな!? 『プラズマスパーク!』とか、『シャインプラズマ!!』とか、あれ…なんか格好良いかも?」


 そんな魔法が使えるのなら案外魔法使いも悪くないかもしれないと少し興奮気味になっていたが、ロゼットの素っ頓狂な声だけが鍛錬場に虚しく響き渡る。澄華もまるで反応を示さず小さないびきを立てて熟睡してしまっていた。一人で興奮していた彼女ももはやどうでもよくなったのか―…


「……もう炎でいいや」と呟いた。


 発想自体は間違ってはいないがプロセスがいまいち理解できないためにもはや投げやり状態であった。そんな自問自答を繰り返して彼女は目を閉じてイメージを集中させる。


 幼い少女の持つ想像力は大人が持つものよりも非常に高度で精巧なもので、子供の持っている力とはむしろこの想像力こそが原動力とも言えるだろう。


 しかし実際に表面化させるのでは話が異なる。魔力を惹き起こす行為自体が訓練を積まなければ相当な体力を消費する。大人でも慣れないうちは全力疾走した後の時のような感覚に陥る。子供の身であれば尚のこと―…。


「ぜぇ…ぜぇ…。はぁ…はぁ…。全っ…然出来る気が…しない!!」


 肩で息をしながら、冷たい汗が僅かに伝い早朝の寒さに加えて鳥肌が立つほど寒く感じる少女。彼女の言葉の通り、左腕の孔雀魔鉱石の腕輪もこれまで魔法を使ってきた時のように熱く輝きを帯びた状態に変化しないことがそれを物語っている。


 これまで魔法が関わっていた出来事も魔物や魔力を使う者と対峙した時だけで自分自身から発生した魔力なのか懐疑的になっていた。イヴも言っていたように魔法とは自然のエネルギーを借りるもの。魔力とはそれを借りるための力だということを考えると自身の魔力はそうした敵からエネルギーを借りていたのではないかと少し考えてしまう。


 確かにそれはある意味脅威とは言えるだろうが裏を返せば魔力のない敵と対峙しても意味がないということになる。


 自分の力に対して疑いの目を向けつつも、少し考え方を変えようと今度は剣を抜く。一人でイメージトレーニングをしながら剣を振るった。色んなイメージ象が彼女に対峙しているように浮かんでくる。フローゼルで戦った義勇軍の兵士。力は強いものの攻撃が直線的、シャーナルとは違い単純な一閃を躱しつつ自身の鋭い左薙ぎの一閃で斬り返す。


 その一閃の後、今度はウェアウルフ。紙一重に攻撃を受け流しつつも反撃の機会を伺い、一瞬の隙を突いて左手を突き出して魔力を惹き起こしたあの時を思い起こす。


 あの熱い感覚―…と死線を感じようと思い出すが、あの時のように赤い炎は発生しなかった。イメージの中では炎が惹き起こってウェアウルフに一撃を加えたのだが、現実は少女がただ一人左手を突き出して突っ立っているだけの構図。あまりにシュールな絵面に自分でも困ったような笑みがこみ上げてくる。


 その瞬間、イメージの爆煙の中からあのダヴィッドが結晶の槍を構えて出てきた。彼女に向けて突き刺そうと襲い掛かってくる様子、自身で想像していたにもかかわらず突然のイメージに彼女も驚き思わず後ずさる。慌てていたためか足が絡まり、転倒しそうになってしまう。


「わっ…と…やばっ!」


 地面に向かっていく身体を左手で庇おうと危機回避行動に移った瞬間、左手が僅かに熱く感じた―…。彼女が気づいた頃には左手から衝撃波のような空気の塊が勢いよく噴射され転倒しそうになった身体が宙に浮いた。大きな音を立てたため澄華も驚いて飛び上がる。咄嗟に膝と手を付く、四つん這いの形に受身を取る。彼女はあまりに突然の出来事に目を丸くして少し間の抜けた表情で事態を必死に把握しようと努める。


 左腕をまじまじと観察してみるも腕輪はいつもと何も変わらない。小さな足音を立てて彼女の元へと駆け寄る澄華だったが、その直後すぐに警戒心を露にするように小さな唸り声を上げていた。それに気づいたロゼットは見上げてみるとシャーナルが剣を突き出して彼女へと向けている。目を見開いて驚いているとそれがすぐに自分の作り出したイメージだと気づき、徐々に薄れていく。その中から露になった人物は意外なものだった。


「剣技が出来るのか…娘」


 彼女にそう発したのは口ひげを蓄え髪を後ろに流している男性。王族と同様の扱いを受けているシャーナルと同じ派閥に所属するポスト公爵だった。こんな早朝のしかもほとんど話したこともなかった彼がロゼットの元にわざわざ赴いたのだから彼女も動揺を隠し切れず、少し警戒している様子だ。ポスト公爵は向けた剣を引き、少し距離を置くように歩き出した。


「シャーナル皇女が近頃ご執心のようだと聞いて来てみたのだが、実際に筋を見てみないと判断できんな」


 そう述べた後に剣を構え彼女と対峙する。『そういう意味』なのだろうとロゼットは固唾を呑みこんで立ち上がった。自身のものが実剣なので訓練用のものに変えようとすると制止されそのままで良いと言葉を掛けられる。少し不安気な表情を見せて彼の方を見るも、呼吸を整えて、剣を握りなおし構える。


「怪我じゃ済みませんよ?」


「戦場に出ればいつもこうでは? 経験してきただろう」


 そう言われて少し不機嫌そうな顔を見せるロゼット。何も好き好んでそんな経験をしたわけでもないし、剣を握る必要がないなら持ったりなどしない。そうしなければこの『エンティア』では生き残れないからだ。シャーナルから指南を受けたこの剣術も護身のためのもの。訓練で命を掛けるためのものではない。そんな経験から彼の発言に不快感を持った彼女は少しだけ鋭い目つきへと変わり相手を見定める。


 シャーナルが期待を寄せているこの少女が何者なのか、それを見極めるために彼も剣を構える。


 朝日が二人を照らし出す中で奇妙な『剣術の訓練』が幕を下ろした。


 ―ユーロピア共栄圏編 END―

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