第58話「なんてこった、荷物を整理しよう(後編)」
ジェイクが買い揃えたらしい物資はどれも一級品だ。
中身も多少は減ってはいるものの、もともと深部探索を目指して購入した物資。
当然、その量は潤沢極まりない。
そもそもが、こんな行き掛けのルートで消耗することを前提にしていないため随分と豊富に残っていた。
「相変わらず、ジェイクたちは良いもの食べてるなー」
「そうなの?」
ビィトの言う「良いもの」がエミリィにはわからなかったらしい。
だが、見たまえよエミリィちゃん!
この一級品のワインに、干し肉。
高級チーズに、魔力を帯びたナッツ類。
パンにはクルミが練り込まれているし、ジャムやバターだってそこらの安物じゃーないぞ!
それに乾燥野菜やフルーツもできるだけ高級な食材から作られている。
甘味類も豊富で、スパイスも潤沢。
うーむ。
金と実力があるってのは、こうした所で贅沢ができることを言うのだろうな。
「ふ~ん?」
ビィトが訥々とジェイクたちが持ち込んだ物資について熱弁を奮うもエミリィはそれらに興味がなさそうだ。
「エミリィ?」
「──高そうだけど、私はお兄ちゃんの作った料理のほうが好きだなー」
と、正直すぎる御言葉。
(オッフ…………!)
エミリィちゃん、いい子だねー。
そりゃ、いくら高級食材でも保存食と比べると、新鮮食材を適切に調理したほうが旨いに決まってる。
そして、エミリィはビィトと組んでダンジョンを探索するようになってからは、常にビィトの手料理を食べている。
そのためか、目の前にある高級保存食にさほど魅力を感じないのだろう。
「───俺の手料理も、新鮮な食材があってこそだよ? で、でも、ありがとう」
ちょっと照れた様子のビィト。
それを悟られないように、イソイソと荷物を仕分けしていく。
元々ビィトが持ってきた物資と「
とくに、ビィト用とエミリィ用に分けておく。どちらかが別れるような事態になっても最低限は命が繋げるようにしておくのだ。
ビィトが持ち込んだ物資は大半が零れ落ちたり、破壊されたりでダメになっていたが、いくつかは無事だった。
しかし、大型の背嚢はボロボロにされてしまったので、入りきらないものや、嵩張る物資は放棄するしかない。
だが、「
「エミリィも一つ持ってね。軽くするから」
「はーい!」
エミリィの元気な声を聞きつつ、慣れた様子で背嚢を整えていくビィト。
伊達に器用貧乏じゃない。
都合「
連結して4つをビィトが背負い。荷を軽くした一つをエミリィに渡す。
荷物を分けるのは、念のため。
エミリィが遭難しないとも限らないので、あくまでもこれはエミリィ用の物資だ。
そのため、中には一通りの物資を容れておく。
そして、ビィトは持てるだけの物資を持とうと、一度「
(さて、糧食は当然として、あとはどうするかな……)
高級聖水に、各種ポーション類。
着替えに大量の糧秣。
矢や、ボウガン用のボルト弾もある。
それにリズが使うであろう投擲具の数々にジェイクの刀の手入れ具。
そして、リスティ用の高位司祭のマジックアイテムの数々。
「嘘だろ?……こんなものまで奴らの預けていたのか?───まさかな」
マジックアイテムの様な高価な品を、雇いのパーティに預けるだろうか?
どうにもきな臭い。
嵌められたにしては、手が込み過ぎている。
そして────。
チャリン…………。
え?
「──お金や装飾品まで……?」
凄まじい大金というほどでもないが──それなりの金額があるうえ、宝石など緊急時用の持ち歩く資産と言われるほど高価な品もあった。
とは言え、これらはあくまでダンジョン内での交渉用だ。
大金ではないが、少額ではないといったかちのもの。
交渉以外にも、ダンジョン都市で異変があった際に、ダンジョンから戻ったときに預けた金が引き出せないことを考慮しての本当に緊急用。
普通は金も宝石も、ギルドや大手の銀行に預ける。
なんたってダンジョン。
重いし、物騒だからね。
だが、それが「
強奪された?
あるいは、
恐喝された?
もしくは───、
死体から奪った……────いや、これはないな。
同時に、強奪も無理だろう。
ジェイクなら、一人でも「
つまり、恐喝されたのだ。
物資を
「クソ……なんて連中だ!」
だが、それにしても手際が良すぎる。
最初からそれを狙っていたのかもしれないが……。
それにしたって、あのジェイクとリズがいるんだぞ?
ギルドから救出部隊が来ることだって予想できたはずだ。
金を騙し取るだけにしては手が込んでいるし、非常にリスキーだ。
ただの恐喝じゃないのか?
じゃあ一体……。
(────何が起こっている?)
釈然としないものを感じつつ、ビィトは荷物をまとめていったのだが────……。
ゴトンッ───!
(ん? なんだ)
───って!!
「ええ?! な、なんで────これが?」
コロンと転がり出た魔法具……。
それは……一般人が持つにしてはあまりにも────。
「こ、これは…………」
「お兄ちゃん?」
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