◆豹の槍21◆「なんで鬼がいるッ?!」

 オマエヲクイタイ…………。

 ───明確な食欲。



 それをまともにぶつけられるリズは、

「や、やめてください……」


 あの精悍だった暗殺者の片鱗すら見せずに、年相応の少女のようにブルブルと懇願するリズ。


 しかし、リスティは容赦しない……。


「───……やめてだぁ?」


 ハッッ!!!!


「だったら喰えやぁぁあ! 早く、速く、はやぁぁぁぁぁぁあく!!」


 喰って────。

 食べて、食べて……。


 た~くさん食べて、

「──少しでも、お肉・・を付けないと、ね♪」


「ひぃぃぃぃぃい…………」


 じわぁあ、と下半身が生温かくなるのを感じたリズ。

 途端にアンモニアの匂いが立ち込める。


「あらあらあらあら……リズってば、粗相しちゃって……うふふふふ」


 可愛い。


「可愛くって、可愛くって、可愛いて───皮ぃ食って…………」


 食べちゃいたいなぁぁぁぁぁああ!!


「あははははははははははははははは!!」


 お肉、お肉、お肉!!


「お肉♪ お肉♪ お肉♪ お肉がいっぱいだよぉ♪」

「ああああああああああああああああああああああ!」


 食べる。

 食べる。

 食べる。


「た、食べます。食べますから、食べないでください……!!」


 食べないで。

 食べないで。

 食べないで。


「や、やだ……わ、私は────」

「うふふふふふふふふふふふふふ。──……だったら、」


 ユラリと顔をあげるリスティ───。


「──さっさと、食えやぁぁぁあああ!!」


「ひぃぃいいいいい!!!! 食べます、食べます、食べます、食べます食べます食べます」


 あははははははははは♪


 あははははははははは♪


 リスティの笑い声が響く中──……グチャグチャとした咀嚼音がそれをさらに後押しする。


 喰えよ!

 喰えよ!

 喰えやぁぁぁぁああ!


 空腹と恐怖と何かに震えながら、リズは初めてジェイクの言いつけを破った。


 破って、破って、破って……。


 噛んで、飲んで、食べて……。


「あぐ、あぐ………。た、食べないで──」


 食べられないために咀嚼し、食べる。

 食べられるための、肉をつけるために食べる。

 食べて、食べて、食べて……。


「おえ……。おえぇぇぇえ───」


 それでも、体は正直で次々にゼラチンを嚥下していく。



 酷い味なのだろうが……。


「美味しい……美味しいぃぃ……美味しいですぅ……」


 ボロボロと涙を零すリズ。


「あは♪ 甘~いリズの涙。美味しいよー」


 チュプン───。


 その涙を指で掬いとり、それを味付けに器に盛られたゼラチンに混ぜて自分も食べ進めていくリスティ。


「おい……。戻った────」


 そこにボロボロになったジェイクが戻ってきた。

 刀を杖代わりにしてようやくと言った有様で帰ってきた。


 

 オーガを殲滅し、悪鬼羅刹を皆殺しにしてきたが……。




 なんだ……。

 何だここは────。




 ここは地獄か──────?




 鬼だ……。

 鬼がいる。


 鬼か?

 コイツは……。


 コイツは────。




 いや、俺は──────……。





 そうとも、

 皆、鬼だ……。






 あははははははははははははははははははははははははははははははははははは♪





 そうか……。

 これが、飢餓というもの────……。





 そして、ここは最凶最悪のダンジョン。

 『地獄の釜』の──『悪鬼の牙城』だ。



「ふ、ふふふふふふふふふふふ…………!」


 ふははははははははははははははははは!

 あははははははははははははははははは!



「「ひゃはははははははははははは!!」」



 あぁ、

「「ハラガヘッタ…………」」

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