第57話「なんてこった、門番だ(中編)!」

 無理とか言ってる場合じゃないから!

 いいからやるの!!


「俺はこいつを仕留める!」


 立ち向かうビィトをみて、青鬼はすぐに目標を定めたようだ。

 槍のように刺股を突き出すと、先端についたトゲトゲでビィトを叩き潰そうとする。


 だが、モーションが大きすぎて見え見えなんだよ!


「そこだぁぁ!!」


 ブン!───と突き出される刺股を躱しざまに、両手に石礫を生成。

 そこに魔力を充填し、さらに大型化すると────発射ぁ!


 ドカッッ──、

「ぶしゃああ!!」


 ガランガランガラン……!


 顔を苦悶に歪めつつ青鬼が刺股を取り落とす。


 どうだ! 

「痛いだろう、肘電気はよぉ!」

 

 そうだ。

 ビィトが狙ったのは青鬼の肘。


 そこに目がけて、大型で高初速の石礫を発射。


 貫通こそしないものの、それは奴の肘を強かに打った。


 肘を打つと痛いんだよ……これが。

 人間に体格が似ているオーガゆえ、これまた痛烈に効いたようだ。


 そしてぇぇえ!


「────かーらーのー!!」


 ビィトの追撃の気配を感じた青鬼は、慌てて武器を拾い上げようとするはずだったが、


「ふしゅううう?!」


 ぐ、ぐ、ぐぐぐ……!


「剥がれないだろうッ────凍らせといた!!」


 落ちた瞬間に水矢で刺股を濡らし、すかさず氷塊を撃ち込み凍らせる。


 かなりの低温で打ち出すことのできる氷塊は、ともすれば味方を巻き込みかねないため使いどころが難しい。


 だが、こうして凍らせることだけを考えると実に高性能。


「そしてぇぇぇええ!!」


 途中で刺股を諦めた青鬼。


「ふしゅうう!!」

 唸り声をあげてビィトに襲いかかる。


 武器などなくともジャイアントオーガはデカイ!

 そのガタイを活かしての単純な格闘戦に転じてきたものの、


「──遅いッッ!!」


 屈んでくれるのを待ってたんだよ!

 お陰で弱点が丸見えだ。


 喰らえッ!

 小爆破ッ──!


 ズドォォオン!


「ぶしゃああああ!!」

 よろめく青鬼。


 まだまだぁ!!


「ぶっ飛べぇぇえ!!」


 らぁぁあ!!

 ───小、小、小、小爆破ッ!!


 刺股を拾おうと、ちょうどいい位置に身体を屈めていたので、着弾点には青鬼の顔が!


 ド、ドドドン!──と連続した爆発が青鬼の顔面に煌く。


 そして、そのうちの何発かが両目を撃ちぬく!


「──ぶばぁぁぁあああ!」


 ドズゥゥゥウン! と地響きを立てて青鬼が仰向けにひっくり返る。


 そこにすかせず、

「とどめぇぇぇえ!」


 ダダダダ! と、青鬼の体に駆けあがり顔面を強襲する────。


 ッと「うお!」──……ビィトが体に乗ったことで、視力を失ったものの触感から位置を特定した青鬼。


 せめてもの反撃に、ビィトを叩き潰そうとする。


 バチィィィン! と蚊でも潰すかのようにビィトを襲う青鬼。


「あっぶね……」


 両側から迫る巨大な手を危なげなく飛んで躱すと、

「切れろぉォぉ!!」


 返す刀で高圧縮の『水矢』を発射。

 ズバン! と、指を数本切り落としてやるも、いくつかは筋肉と骨に阻まれて貫けなかった。


 ちぃ、……デカイモンスターってのはこれが面倒だ!


 デカすぎて、通常の攻撃ではいかほども痛痒を与えられない。

 石礫がいくら貫通力があっても、人間やグールに撃ち込むのとはわけが違うのだ。


 だけど、

「筋肉が分厚かろうが! 身体がデカかろうが────!」


 これは耐えれるかなぁ!

 

 ドブンと、潰れた両目に、ビィトは両手を突っ込むと左右それぞれにッ!!


「脳みそ、バーーーーーーーーンだあ!!」



 らぁぁぁぁぁっぁあああああああああああああ!!!



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!!



 超至近距離で『小爆破』の連射をブチかましてやる!───というか、目ん玉かき回す気でブチかますのだ!!


 当然、眼底の裏は脳に直結しているためその一撃は強力無比!


 血と水晶体が撒き散らされる中、頭の中をシェイクされた青鬼はビクンビクンと体を震わせている。


 脳が破壊されて、体への信号が狂っているのだろう。


 だが、それもやがてなくなった頃には、ようやくビィトも両腕を引き抜き────腕を振るう。


 ベチャベチャと手につく生暖かい液を振り払い、「次ィ!」と気合も高らかにエミリィを探す。


「ちょ! お兄ちゃん! は、はやく! ひゃあ!」




 見れば、赤鬼の金棒をちょこまかと避け続けるエミリィの姿。


 足元には弾かれたらしいベアリング弾がいくつも落ちている。

 どうやら、躱しながらも反撃していたらしい。


 ……す、すごいな。


 そして、エミリィは途中で武器を切り替えたのか、今は闇骨弓を構えて連射を叩き込んでいる。

 赤鬼の身体には10本以上の矢が突き刺さっていた。


「はやくぅぅ!! もうぉぉぉおお!!」


 ブォンと大振りの一撃を体を逸らして最低限の動きで躱すと、矢をつがえた弓を引き絞る。


 キリリリリリ…………────シュパン!


「ごるぅぅあ!?」


 分厚い筋肉に阻まれては、木の鏃では流石に威力不足。

 だがそれでも確実にダメージを与え続けている。


「お兄ぃぃちゃぁぁぁぁあん!!!!!!」


 おっと、さすがにエミリィがしびれを切らせて怒っている。

 だが、さきほどまでの恐怖に濁った目をしてはいない。


 一対一で向き合うことで、オーガでも御しきれると判断したようだ。


 それでも決定打に欠くのはエミリィの火力の低さと、赤鬼の防御の高さだ。


 エミリィは一撃でも喰らえば重篤だが、赤鬼はそうではない。

 そのため、一見してエミリィが優勢に見えても、これは勝ち目のない戦いだ。


 木の矢ではいくら撃ったところで仕留めるには至らないだろう。






「今行く────!」

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