第42話「なんてこった、ここから離れようッ!」
「「逃げ──────」」
封鎖区画から飛び出した二人を追うように、墓所から猛烈な炎が噴き出してきた。
それは一直線に飛び出すと、付近に
「あち! あちちち……!」
ぐ。
……なんて熱量だよ!
『水衣』を重ね掛けしていなければ、余波だけでビィトもエミリィも黒焦げになっていたかもしれない。
実際、目の前にいたゴーレムたちが熱で変形していき、徐々に真っ赤な塊と化していく。
(ご、ゴーレムを溶かすだって?!)
ジュウジュウ……と、白煙をふくゴーレムたち。
それらが溶けだした先から冷えて固まり、キラキラと光るガラス結晶になるところまで良く見えた。
ビィトとエミリィは、その様子を茫然と見つめるしかできない。
(直撃を受けたら俺たちもあぁなっていたのか……)
本当にギリギリの所で助かったんだと自覚できた瞬間でもあった。
そして、長い長いブレスの照射がようやく終わると、ビィトはエミリィと共に脱兎のごとく駆け出す。
「エミリィ!」
「お兄ちゃん!」
封鎖区画の入り口付近にいる限り、いつまたブレスが噴き出すか知れたものじゃない!
「三十六計────」
「逃げよ!!」
お、おう。
どっかの国の故事にならわんとしたビィトに構わずエミリィが駆けだす。
しかし、デジャブを感じさせる光景に、慌てるビィト。
なんとか併走しようと、エミリィに追いすがるも、
「エミリィ! ゆっくり走ってくれ! 俺は君ほど足は速くないんだ────」
「え? あ!?」
既にビィトをぶっちぎらんばかりに先へ進んでいたエミリィは慌てて立ち止まる。
つーか! はぇえええ!?
ようやく、エッチラオッチラ追いついてきたビィトを見てエミリィは気まずそう。
もっとも、ビィトはもっと気まずい……。
それよりも、エミリィとビィトの連携の不味さは今後どころか喫緊の課題だ。
今さら帰ることもできないので、このまま進むしかないのだが……。
エミリィにどう話せば伝わるだろう。
ベンのように奴隷として扱うわけにもいかない。二人は仲間なのだから……。
さて、
分かってくれるならいいんだけど……どうしよう。
ダンジョンに入って早々、問題だらけ。
こりゃ色々不味いぞ──!
今回の課題。連携不足からの行方不明。
(ビィトの指示間違いのせいもある)
……なんだかんだで、エミリィと二人で本格的にダンジョン『地獄の鎌』にトライするのは今回が初めてなのだ。
やはりというか、当然の帰結として連携不足が明るみに出た。
特にエミリィは今までベンという主人がいたため、基本は指示待ちだったのだろう。
いざ、奴隷の身分から解放されると、冒険者としては致命的な──連携がまるでできないという有様だった。
実際、そのおかげではぐれてしまい、危うく二人とも命を落とすところだった。
「はぁ、はぁ……ホント、速いって……!」
身体強化の魔法で、心肺と脚力を強化しているはずのビィトですら全く追いつけないほどの速度。
その素早さはエミリィと出会ったときを思い出させる。
財布をすり取る技術もさながら、恐ろしく素早かったなーと……。
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん……」
「う、うん……。仕方なんだけどね────だけど、少しこの先は連携を考えていこう。ね?」
厳しく指導するほどビィトにもリーダーとしての資質があるわけではない。
むしろ、「
なんたって、「
そんなものだから、連携というより──あのパーティではジェイクを補う補完戦力という形で上手く言っていたのだ。
その点、ベンはある意味で理想的なリーダーだったのかもしれない。
なにせ、命令は単純明快。
──「俺を護れ」だ。
分かり易すぎて議論の余地もない。
なるほど……。
ときには、簡単に過ぎる命令も重要なのだろう。
ベンを参考にするのは癪ではあるが、エミリィにはある程度パーティ行動の準拠となる方針くらい付けておかないと危なっかしくてしょうがない。
とりあえず──────。
「一人で先に行かないこと! いいね?」
これがビィトに示せる最大の方針だった。
────だって、それ以上思いつかないんだもん……。
「は、はぃ……」
顧みることなく先へ先へと進んでいた自分に反省しているのかエミリィがシュンと項垂れる。
「ごめんね。きつい事を言ったかもしれないけど──」
……いや、キツイ事でも、なんでもないんだけど、
「俺達のパーティは結成したばかりだからね。色々危ない所もあるから──当分は一緒に行こう。いいかい?」
「う、うん!」
今度は少しだけ元気よくエミリィが答える。
一応はビィトがエミリィの主人なのだ。
しっかりと導く必要がある。
それを怠ったがための失敗がさっきの一時行方不明事案なのだから……。
とはいえ、細かな指示や命令はビィトのガラじゃあない。
それよりも、エミリィには
戦闘を含めた雑務の一切合切はビィトがやればいいだけのこと。
それは「
違うのは「戦闘」が増えたことくらい。
それが一番大きくもあるのだが…………できるさ、これくらい。
やらなきゃならない。
もう、ジェイクもリスティもリズもいない。
エミリィを護ることができるのは、ビィトしかいないのだから。
「わかったなら、エミリィは敵と接触するまでは前衛をお願い。──敵が現れたら俺の後ろに隠れていいから」
「え?! そ、そんなことできな──」
戦闘は任せろというビィトに、エミリィが驚いて反論しようとするも、
「いいから! こう見えても元はSランクなんだ」
わざとらしく力こぶをつくって見せるビィト。
まぁ、……元、だけどね。
しかも、パーティランクがSなだけで、ビィトの実力などそれ以下なのだろうが……。
とはいえ、今はエミリィが納得さえしてくれたらいい。
どうにも、エミリィからすれば、奴隷が主人の後ろに隠れることに抵抗があるらしい。
それがそもそもの間違いなんだけどね。
「でも、お兄ちゃんだけに戦ってもらうのも……」
「勘違いしないでよ。これは適材適所。──俺は魔法で多少の攻撃なら跳ね返せるし、防御魔法だって使える。だから前衛は俺、」
そして、
「──エミリィには遊撃を頼みたいんだ」
「遊撃?」
あーうん。そうだよね。
「ん~っと……。遊撃にもいくらか種類はあるんだけど、エミリィには消極的な遊撃──……つまりは俺の死角を補ってほしいんだ」
役割としていうなら──例えば、
攻撃力の高い
攻撃力に乏しい
その他にも、遊撃には複数のタイプがあるが、それは追々エミリィに教えていこう。
──ビィトも詳しいわけじゃないけどね。
「わ、わかった……やってみるね!」
なんとなく自分に与えられた役割の雰囲気を掴んだエミリィは力強く頷く。
「頼むよ! 絶対俺から離れないでね。あとで細かい調整をしていこう──」
────でも、まずは……。
「ご飯にしようか?」
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