第28話「なんてこった、ただのスケルトじゃないぞ?!」
「リッチ…………?!」
《ギギギギギギギ……》
不気味な骨の軋みを立てて起き上がる漆黒の骨。
頭部には朽ちかけた冠を乗せ、ボロボロのローブを|纏《ま
と》う姿。
あちこち擦り切れ、腐汁と経年劣化で崩れそうなローブの姿。
その裾から伸びる骨の手には、蔦が巻き付き毒々しい色の花が咲く杖が一振り。
杖の飾りにはやはり髑髏……。真っ赤に濡れたシャレコウベが目に嵌った宝石を爛々と光らせている。
な、なんだこいつは────!
た、タダのリッチじゃないぞ?!
『リッチ』────スケルトン上位種。
魔法を扱う事の出来るアンデッドで、非常に好戦的。
繰り出す魔法は無詠唱で、中級から上級と幅広く使いこなし、さらには魔力切れを起こすことがないため、無限に魔法を行使し続ける火力型モンスターだ。
だが……こいつはそれ以上の存在に見える。
そもそもリッチは普通のスケルトンが法衣を纏ったような姿で、決して黒い瘴気など纏っていない……。
それ以上に、コイツの姿、恰好……。
…………。
冠に、杖……そしてローブ──────!
ッ!!
ま、
まさか……!
「スケルトンキング!?」
ビィトの魔物の知識の中で唯一ヒットしたもの……。
それは、ほぼ未確認情報の一つで、噂にすぎない物だった。
それがスケルトンキング。
どこの誰が言ったか、アンデッドたるスケルトンを統べる王たるものがいると──。
例えば、古代の王国が滅んだ後の遺跡などで、極稀に確認されるモンスター。
そいつは、最奥に位置する玉座に鎮座しており、王国が滅んだことにより、朽ち果てた亡国の王がアンデッドとなってしまった。
そのまま、忠義の臣下とともに彷徨い歩き始め──今もかつての臣下の骨を従えているというものだ。
王国の範囲全てのスケルトンや、その他のアンデッドを操ることができると言われており……遭遇したが最後。ほぼ全滅を覚悟しなければならない強敵だという。
なんといっても魔物の王だ。
スケルトンを操り、数にものを言わせた飽和攻撃の他にも、スケルトンキング自身の強さも相まって生存はほぼ絶望的だという。
そんなこんなで、未確認の怪しい情報として出回った事のあるのが……スケルトンキング。
生存者も正気を失っていたので、ほぼ眉唾ものだと思われていたのだが────情報は概ね合致する。
(よりによって噂のモンスターがここに?!)
たしか……、リッチ以上に魔法を使いこなし────膂力も遥かの上回ると……。
バチ……!
バチ、バチバチ……!
「ちょ……」
エミリィを抱き寄せるビィトの目の前に、スケルトンキングがぬぅと起き上がり……そのまま、ローブをヒラヒラとうねらせながら宙に舞う。
そして、不気味な杖を高らかに掲げると、そこに帯電現象が起き始めた。
「──ま、まじかよ!!」
石櫃に眠っていたらしい国王を起こしてしまったビィト。
そして、まるでエミリィを助け起こしたビィトを咎めるように襲い掛かってきた。
だけど、エミリィがそこにいたんだ!──血を流して!!!
それを助けて何が悪いッ!
《ギギギギギギギギギギ……!!》
バチチチチチチ──!!
「くそッ! ……そう簡単に逃がしてくれるはずもないか」
スケルトンキングの放つ魔法は雷撃系。
伝説上の英雄が好んで使う魔法だ。
魔術師もこの手の魔法は使うことができるが、特殊な魔法らしく上級クラスの魔法を使いこなすものは、ほとんどいない。
普通の魔力とは少々
だが、──かつて『器用貧乏』の二つ名を冠していたビィト。
当然、下級魔法であれば電撃魔法を使うことができるが────。
「じょ、……冗談だろッ?! ありゃ……上級の電撃魔法だぞッ」
スケルトンキングの真上に小さな黒雲が生まれ、バリバリと内部で帯電している。
まるで小さな雷雲だ。
だが侮るなかれ────あのなかに詰まっているのは電撃地獄。
発射されたが最後、目にもとまらぬ速度で獲物を貫くのだ。
直撃すれば良くて黒焦げ、悪くて蒸発……。
それを、スケルトンが?──……たかがアンデッドがそんなものを使えるなんて聞いたことがないぞ!?
僅かとは言え、スケルトンキングの目撃証言はある。
……あるがその証言にも、
「つまり……コイツぁ、スケルトンキングの亜種────」
暫定、ダークスケルトンキングってとこか?!
ただでさえ強いスケルトンの上位種のさらに亜種なんて……。無理無理ッ!
こんな奴まともに相手していられるか!
逃げるぞ、俺は────。
「エミリィ────ごめん!」
意識のないエミリィを担ぐと、荷物のように背嚢に乗せて固縛用の紐で固定する。
まるで大型のドロップ品や戦利品を持っていく時と同じ要領だが、この際仕方がない。
未だにダークスケルトンキングは魔法を放つ気配がないのをいいことにビィトは遁走を図る。
連中がエミリィを誘拐してなにを企んでいたかは知らないが(ナニする気でもないだろうし……)、どうせロクでもないこと。
しかし、そのおかげかダークスケルトンキングは魔法を放てないらしい。
とっくに発動している上級の電撃魔法は未だ射撃準備態勢のままだった。
(な、なるほど……エミリィを殺す気はない? それとも何か別の理由が?)
いや……どうでもいいことだ。
「──これは俺のものだ! エミリィは返してもらうぞッ」
そうだ。この子は俺のモノだ。お前らのもんじゃない!
「……ぉぃ……ゃ?」
もぞもぞとエミリが動く気配。
良かった気が付いた!────……でも、もう少しだけ大人しくしててくれ!
エミリィが僅かに身じろぎする気配。
荷物として固定しているビィトとしては今しばらくジッとしていてほしい。
そして、なぜか起き出したエミリィを見て、ダークスケルトンキングが彼女に手を伸ばす。
「させるかよ!」
ダークファントムのように、フワフワと浮かぶダークスケルトンキング。
連中同様物理にも鈍く、魔法耐性も高そうだ。
まともに戦って勝てるとは思えないが────。
「逃げるが勝ちってね!」
そう、ビィトの目的はダンジョン攻略ではない……──エミリィの救出だ!
それが達せられたらこんなところに長居する理由はない。
《ギギイギギギギギギギーーーーーー!》
「うるっせぇ……! 今度から床で寝てろッ!!」
しつこく追いすがろうとするダークスケルトンキング目掛けてビィトは魔法を放つ。
いや、正確には奴の下────眠っていたであろう石櫃にだ。
安眠妨害上等──────! 小爆破ッッッ!
ズドォォォォォォォオオン!!!
ビィトの得意の小爆破がダークスケルトンキングの鼻先で炸裂。
奴の寝所を木っ端みじんにぶっ飛ばした!
ざまぁみろ、誘拐犯め!
巻き上がる石くれと副葬品が真上にいたダークスケルトンキングを襲う。
《ギギギギィィィッィイイイイイイ!!》
木っ端みじんにぶっ飛んだ石櫃等に、ダークスケルトンキングがいい様に翻弄されている。
多少はあるらしい物理への干渉を受けて、中空をフラフラと迷走。
いくつもの大型の破片が直撃したらしい。
もっとも、そんなもので倒せるはずもなく、
《ギギギ……ギギギギギギ……!!》
余計に怒らせたように気がする……。
だけど、ただの時間稼ぎだ!
「あばよ! 二度と来ないから安心しろッ」
エミリィさえ帰ってくればこんなところにようはない!
せいぜい一人で骨に埋もれていろッ。
あーばーよー! っと言った様子で駆けだすビィトだが、
《ギギィィ!!》
ダークスケルトンキングがその骨々とした手を掲げると、軋み音をもって一声叫んだ。
すると──────。
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