第7話「なんてこった、こんなとこ通るの!?」
「うえ?」
「上……」
ゴーレムの群れと天井には多少隙間がある。
立って歩けるほどではないが、中腰でなんとか歩けそう──、という程度。
「そこしかない……よね」
「う、うん」
すっごい目でゴーレムに睨まれてる気がしたが、ビィトとエミリィは顔を見合せ、どちらからともなく頷きあい、僅かな隙間に体を押し込んでいく……。
※ ※
じーーーーー!
ゴーレムからの殺気を伴った死線を感じるものの、彼らは動けず脅威足りえない。
そのことを良いことにビィト達は入り口から部屋の中へと続く狭い隙間に体を押し込んでいく。
入り口付近にまでゴーレムが出張ってきているが、たまたま横幅のある奴が先頭にいたため、そこでゴーレムが渋滞を起こしてしまっているようだ。
彼らには悪いが、なるべく無駄な戦闘は避けたいものだ。
「よ、よし! エミリィ──登って」
ビィトが両手を組んで足場を作りエミリィを押し上げる。
ゴーレムが真っ赤な目を光らせながら威嚇しているが、互いの体が邪魔で手も動かせない様だ。
それをいいことに、エミリィがゴーレムの肩や頭の上によじ登る。
ゴチンッ!
「あいたッ!」
「だ、大丈夫!?」
通路から部屋の中へと彼女を送り込んだが、小さな悲鳴があがる。
「大丈夫……。頭打っただけ」
ヒョイっと通路の方にエミリィが顔を見せる。
あどけない表情には涙が浮かんでいるが、元気そうだ。
「天井までの隙間がほとんどないけど……、なんとかよじ登れるよ。はい」
そう言って小さな手を指しのべる。
ビィトは礼を言ってその手を掴むと、あまり体重をかけないように注意しながら天井とゴーレムの頭の並ぶ空間に身を押し込んだ。
そして、登り切った先の光景────。
「うわッ……」
まさに圧巻。
部屋中を埋め尽くすゴーレムの群れ……群れ、群れッ!
真っ赤な目が爛々と光る奇妙な石の絨毯だ。
明確な敵意を持った視線。それらがビシビシと突き刺さるのを感じれるが、……哀れな彼らは一歩も動けない。
「す、すごい光景だね」
「う、うん……ちょっと怖い」
そう言ってヒシとしがみ付いてくるエミリィの肩を抱きながら、
「だ、大丈夫。文字通り指一本動かせないみたいだから……」
その通り、ゴーレムは一歩たりとも動けない。
せめてもの抵抗に彼らができるのは恨みがましい視線をぶつけるのみ。
「行くよ。足元に気を付けてね」
「うん……! えっと、ダンジョンの入り口はあっちだよ」
エミリィはおっかなびっくりと言った様子で歩いているも、意外としっかりとした口調で『地獄の釜』へと繋がっている入り口を教えてくれた。
「ありがとう。向こうについたら少し忙しくなるよ」
「わかった」
中腰のきつい姿勢ではあったが、ビィト達はゴーレムとの戦闘を避けつつ、蟻の巣の奥へ奥へと進んでいく。
元は女王蟻かその側近がいたであろう場所。
今は『地獄の釜』に繋がったゴーレム部屋だ。
部屋の中は所々天井が高くなったり低くなったりで、ビィト達はその度にゴーレムの視線を間近に感じながらも、泳ぐように這って進んだり、時には彼らの頭を踏んづけたりしながら先を進む。
ビィトはさらに大荷物も背負っているので、中々素早く動けない。
狭く、息苦しく、敵意に満ちた空間。
オマケにこの足場。
ビィトは僅かな行動で汗だくになってしまった。
(早く抜けよう……)
しばらくすると、ゴーレムの群れの絨毯が途切れて、さらにミッチリと密集している場所があった。
「ここかな?」
「うん。ここだね」
壁に開いた穴のようなそこだけは僅かながらも動きがあり、何やら先の方がザワザワと動いている。
「呆れた……まぁだ中に入ろうとしているみたいだ」
「う……うん。この先もすごくたくさんの反応があるよ」
エミリィが探知距離を絞って先を確認しているようだ。
「どれくらい続いているの?」
「んー……数が多すぎて分からないけど、相当いるみたい。あ、だけど、ここを抜ければ広い所に出るよ!」
お、そりゃいい話だ。
この狭さは堪える。
「了解! じゃあエミリィは先行してくれる? 多分、暫くはゴーレムの連中も身動きできないと思うし」
「うん! 任せて。先に言って安全を確認してくるッ」
そういうが早いかエミリィはスルスルと這っていく。その動きはビィトといる時よりも早い、早い!
「あ、エミリィ!」
ビィトが止める間もなく、スイスイとゴーレムの頭の上をすり抜けていくと、壁に空いた穴まであっと言うまに到達してしまった。
余りにも無謀な行動にビィトは一瞬咎めようかと思ったが……。
エミリィはあれでもC級。ビィトよりも上級者のエミリィさんだ。
しかもビィトの見立てでは、おそらくもっと上位だ。
それらから考えても、彼女が危険を無理に犯すとは考えにくい。
時にはビィトよりも慎重に動くこともあるだろう。
「……? 呼んだ?」
「いや、なんでもない。どう?」
ビィトはエミリィに遅れる事、数分……いや、それ以上にたっぷりと時間をかけて壁の穴に到着する。
中腰のような微妙な姿勢のため、それだけで疲れ切ってしまっていた。
「ふぅ……なかなか腰に来るね……」
ビィトの声に不思議そうに首を傾げるエミリィ。どうも同意は得られないなかったらしいが、──なるほど……エミリィにとって、こうした狭い空間はお手の物ということか。
「それより見て、お兄ちゃん」
ん?
エミリィに言われてヒョイっと中を覗き込むビィト。
そこには……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます