第37話「炎に包まれる街」

 切り替える間もなく、私は現場へ。

 炎の海を前にした。


 Z市に到着したのが、ブリーフィングから30分後。

 完全に日は落ちていた。

 けれど、地上は茜色に染まっている。まだ、夕焼け空のような印象を受けている。

 それもそのはず、デスフレアによってZ市はずっと終わらない黄昏時のまま。

 そんな夜をかき乱す、紅蓮の炎が燃え盛る中に私はいた。

 支給されたガスマスクをつけ、他の建物よりも背の高いマンションから市街地を見下ろす。

 どこかで見た気がしてしかたがない。

 何だろうな? この感じ……。


「ショックウェーブさん、私です。マネージャーの文鳥です。現場に到着しましたね。住民の避難は警察や消防によってほぼ終わっています」


 文鳥さんは会社のオペレーションルーム。

 私を支援するため、インカムつけてPCモニターとにらめっこしているだろう。


「あ、文鳥さん。はい、到着しています。住民の避難の件、了承しました」


 すぐにでも、行動しなきゃいけない。助けなきゃいけない人たちがいる。

 けど――聞きたいことがあった。気になってどうしようもない。


「あの、文鳥さん。穂村さんは大丈夫かな?」


 深呼吸をしたあと、文鳥さんにこんなことを質問してみた。


「大丈夫ですよ、ショックウェーブさん。穂村さんは生きています。ブレイブ・フィスト、あなたのお父さんと一緒にオディウムというスーパーヴィランと戦っています。だから、心配しないで」


 父さんと一緒に戦っているんだ。

 それなら大丈夫な気がしてきた。

 けど、自分が一緒に戦いたい。友達だからさ。


「ですが、油断はできません。シニスター・ザ・マグナムパンチの姿が見られない。ひょっとしたら?あっ、いえ……これはちょっとダメか。悪い方向に働いちゃうかもしれない。どうする? どうする? ……」


 ノイズが走ったのかな? ボソボソ聞こえづらい。

 気になるので、耳を澄ましてみる。

 文鳥さんはブツブツなにかを否定しているようだ。ダメを連呼している。バタフライなんちゃらを懸念しているようだけど、なんだろう? それ。


「なにがダメなの? バタフライ……なんちゃらって一体何のこと?」

「いえ、なんでもありません。ごめんなさい、私の悪いクセがでました」文鳥さんは取り繕ったあと、「それよりも、シニスター・ザ・マグナムパンチには気をつけて下さい。狡猾で卑劣な戦法を用いてくるスーパーヴィランです。……知っていると思いますが、ショックウェーブさん、あなたの弟さんを拉致したのは彼です。この状況下で人質になるのはブレイブ・フィストにとって芳しくありません」


 そうだよね。

 父さんの足を引っ張ってしまうことになるから。それだけは避けなくっちゃ。

 ……そういえば、そうだったなぁ。

 この男がひろくんをさらったせいで、お母さんとお父さんが離婚しちゃったんだよなぁ。

 私にも、私たち姉弟にとっても因縁の相手だなぁ。


「それとですね、ショックウェーブさん。うん、これだけは絶対に言わなくっちゃ」

「なんです?」

「あなたが担当している場所ですけど、既に避難が終わっているとこのことです」

「えっ?」


 変な声が出てしまった。


「担当地域に住んでいる避難民の安否確認はすでに済んでいる状態ですので、今いる場所で待機ってところですかね」


 あれ、いないんだ。


「いないの? 本当にいない?」


 いないと言われて――再び、燃え盛る地上に目を戻す。




 この街は、歴史ある街だ。

 だから、建物のほとんどが木造でできている。

 建物のすべてが、コンクリートでできていれば少しは違ったかもしれないのだけれども。




 そんな“もしも”を考えてもどうしようもないか。

 眼下の惨事を見渡すけれども、歴史ある木造建築が真っ赤な炎に包まれて、朽ち果てていっている。炎の中で真っ黒に焼き付いて、白壁の町はもう見る影もない。

 さて、見渡せど、見渡せど、目が焼き付くような炎。

 このどこかに人がいる――ようには思えない。

 耳を澄ましてみるのだけれども、燃やす音だけしか聞こえていない。

 考えるに、だ。

 木造の建物には……いなさそうだ。

 人がいるのはおそらくコンクリートの建物なのかな?

 非難して、周りが火の海と化して取り残されている的な感じ。だから、今いるこの建物の中にいるのかもしれない。

 なんて考えてみたけど、


「いません」


 はっきりといわれた。


「昨今、度重なるデスフレアの公的機関や無差別な襲撃によって世間の防犯意識が高いでしょう? 避難訓練とかもかなりの頻度でやっているじゃないですか? そのおかげですよ。あなたがた、ヒーローが呼び掛けてくれるおかげです」


 なんだかちょっぴりうれしくなる。


「とはいえ、Z市全域では2000人が行方不明となっています。時に被害が大きい地域は、穂村さんのおうちがあった周辺ですね。あのあたり一帯はじゅうたん爆撃でもされたような状態になっています。ものの30分で更地です」

「だから、私が――」


 助けなきゃと言う前に、


「いや、それはあなたの役目ではありません。あなたはここで待機です」


 待機しろと言われてしまった。


「なんでです?」

「シニスター・ザ・マグナムパンチはS級のスーパーヴィランです2メートル150キロの巨体に超巨大なガントレットをつけた怪物ですよ。このヴィランに何人ものヒーローがやられています。ひどい場合は殺されています」


 S級にランク付けされているヴィランだからね。凶悪なのが当たり前というか。

 私が敵う相手じゃないよね。


「事務所としては、ブレイブ・フィストには心おきなく戦ってもらいたいので、わざわざ避難誘導が済んだ場所の担当ということに。待機というか、隔離みたいなかんじですかね。だから、人を助けようという思いがあるならば、その場でじっとするというのが一番です。あなたが動くことによって、ブレイブ・フィストに迷惑をかけることになります。なので、そこにいるのが一番ですかね。本当は――出さないという案もありましたが、これは」


 なるほど……何にもできないのか。

 何もしない方が、いいだなんて。現場でこんなことを言われるなんてね。


「それでもさ。文鳥さん。戦うばかりが仕事じゃないと思うけど、私にも何かできることがあると思うんだ」


 コンクリートの屋根を踏み、ウサギのように飛んでこんな場所にやってきたのに何もできないなんて困ったなぁ。


「だからさ、今――とあるマンションにいるんだけどさ。足元を調べようかなって誰かいないかなぁって」

「ダメです! 絶対にダメですから」


 なっ!?

 びっくりした。どうしてそんなに怒鳴るの。


「わ、わかりました。でも、そんなに怒鳴らなくても……」

「すみません。感情的になってしまいました。もう怒鳴りません」


 何もするなといわれて。ただ黙って指をくわえたままだろうか?

 下の惨状を見ていると、なぜだろうか?

 穂村さんの顔を思い出す。

 シルバーサンの傍らにいる人形のような女性。笑ったところを見てみたいなと思っちゃうのは私だけだろうか?

 このまま、ここにいろと言われていていいのかな?

 穂村さん、ずっと一人で戦っている。

 それに対して、私は――。




 私はこのままここにいていいのだろうか?

 神様がいるのなら、私にこう言ったと思う。




 さっさと穂村さんを助けにいけと……。




 一瞬だった。


「緋色さん、飛んでぇ!」


 怒鳴らないと言ったのに、怒鳴った文鳥さん。


「は、はい!」


 言われるがまま、足元に衝撃波を放ち飛翔。

 それから数秒後、轟音が轟いていた場所に大穴が空いた。



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