第29話「VS白焔(前編)」

 格技場、先ほどまでパワードスーツを身に纏った人とサイボーグの人が戦ったとは思えないほど床がきれいだ。小型のジェットで床が焦げ付いた跡もない。ミサイルを撃ち合ったって聞いたけど、壁が爆風でへこんだ様子はない。

 何事もなかったかのように白一色。気持ち悪い。

 いつも思っているんだけどさ、ここ、どういう原理になっているのだろうか?


 まぁ、それは今考えるときじゃない。

 文鳥さんのアドバイスのおかげで少しばかり余裕がある。

 あの人はサードアイの人だけど、とりま信じてみることにした。

 怖いくらいまっ直ぐなまなざしを向けられたというのもある。あと、私の勘かな? とりあえず信じとけって言っている。

 目の前には、白と赤を基調としたヒーロースーツを着た女性が立っている。スーツのベースは白、ところどころ焔を基調とした模様がある。スーツはプロテクターが付いていないから、ボディラインがはっきり見えている。

 すごいなぁ。本当にグラビアアイドルみたいだなぁ。

 悪魔を模した白いマスクの下には、物憂げな少女の顔がある。そのことをヴィランの皆さんは知っているのだろうか?

 いいや、知る前に燃やされちゃっているだろうなぁ。


 緊張しないよう、いろんなことを考えている。

 私の目の前、10メートル先にいる白焔は微動だにしていない。静かにたたずんでいる。

 この人はどんなことを考えて立っているんだろうか? 何のためにヒーローをやっているのだろうか?

 私は――大嶽さんに染められて、化粧をしたり、グラビアなんか撮ったりした。歌を歌うレッスンをしたりしてさ。アイドルみたいなこともやった。

 私もヒーロー活動をおろそかにしている訳じゃない。

 でも、この人は私がこんなことをやっている間、デスフレアと戦っていた。そして、努力もして今のポジションにいると考えたら、強くなったんだなぁと。私って結構ふざけていたのかなぁと思ってしまう。


「「両者、前へ……」」


 ノイズが走った後、スピーカーから声が。

 そろそろ始まる。


「「これから、ショックウェーブと白焔との模擬戦闘を行う」」


 きた。

 恐怖と緊張が体を駆け巡る。

 口の中が急に乾いてきた。


「「カウントは3。0になったら模擬戦闘を開始する。以上だ」」


 軽くジャンプしてみる。

 緊張でがちがちにならないようにステップを踏む。深呼吸をした後、私は文鳥さんの助言を思い出す。

 ――最初の一撃をかわせば、勝機がある。

 その言葉通りになりつつあるなと思う。

 だって――、白焔さんは大きな焔の柱になってしまった。

 直立していた白焔は両手に青い炎を侍らせると、自らを包み、大きな一柱となったから。まだ、カウントが始まっていないというのにさ。

 言うまでもない、私とやる気満々のようだ。


「「カウントを開始する。3……」」


 青い炎の勢いはさらに増している。柱はさらに太くなった。

 文鳥さんの預言が現実を帯びてきた。私のとるべき行動は――格技場の隅へ全力疾走。角でバリアを張って、この一撃をしのぐ。


「「2……」」


 考えるに、走る時間はない。となると衝撃波で自分の体を飛ばすしかない。

 今は格技場の中央。カーブを描いて隅には行けるけど、この攻撃、一気にドカーンと来そう。自分の体を飛ばした後、途中でバリアを張る動作に映らないといけない。


「「1……」」


 となると、策は――こうするしかない。

 両手を前に突き出して、前ならえのポーズをとる。両手に力を籠め、すぐにでも飛び出せる状態へ。

 ……祈ろう。

 やるべきことをやるんだ。ベストを尽くし、あとは運に任せよう。

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