第24話「ひろくんのこと(後編)」

 今は事務所にあてがわれたマンションで生活をしているけど、前までは築50年のボロボロのアパート暮らしていた。


 ギリギリの生活をだった。

 父さんの収入がなかったから、かなり厳しい生活を送っていた。月4万円の母さんの仕送りで何とか飢えをしのいでいた。


 なけなしのお金で生活していたんだけど、今は違う。

 欲しいものを買って、食べられる。これほど恵まれていることはないなぁ。


 でもやっぱり、昔の癖が抜けていない。

 一つのものをボロボロになっても使い切るという癖は抜けてない。お金をとことん使わないように努力するところとかね。今でもお札を崩すことに抵抗がある。

 ひもじいながらも、ワイワイやって時のころを――思い出すけど、やっぱり病院にいたときの思い出のほうが強いかなぁ。

 病院に入る前までは悲しいこともあったけど、楽しいこともそれなりにはあった。

 悲しいことは――やっぱり、みんなと違ってほしいものが手に入らないんだもの。それでか、結構人の輪の中に入れなかった。遊びに行こうって誘われたことはない。ヒーローの娘のそばにいたら、デスフレアに襲われるって言われてたし……。

 体育の時間、2人でペアを組んでと言われたときのことがちょっとだけトラウマになっている。

 先生とペアを組む、あの気まずい感じとみんなからの視線。

 それよりも貧乏でスマートフォンを持っていなかったから、流行りに鈍感でいつも置いてけぼりにされてきた。

 それからあの病気にかかっちゃって……。


 思えば……友達がいなかったなぁ。

 そういえば、私は志賀さんと連絡先交換していない……。しようって言ってもはぐらかされてきたので。

 大嶽さんとは交換してるんだけどさ。

 あの、事務所の先輩たちとかもいるんだけど……連絡先を交換してないなぁ。みんな笑ってはぐらかすというか。

 踏み込めない私も悪いとは思うのだけど、おかげで買ったスマフォの電話帳は父さんと母さん、ひろくんと事務所と大嶽さんだけ。SMSのアカウントはあるけど、全く何も書き込んでいない。ただの情報収集のためのツールになりさがってる。

 ……ぼっちだなぁ。

 コミュ障じゃないけど、人とは普通にしゃべれるけどさ。でも、こう……深くつながれる人がいないというか。


「はぁ~」


 でも、ひろくんに比べたらマシかもしれない。

 ひろくんは、ひどいいじめにあって死にかけたことがあるから。

 私たちには言ってくれなかったけど、わかるというか。

 双子だからね、なんとなく。

 相談してくれていたら、片方の腎臓を失わずに済んだかもしれないのになぁ。




 ……だめだ。




 試合前にナーバスになっちゃってどうするんだ私。いけないなぁ。

 友達は――これから見つけていけばいい。

 これから戦う白焔さんと、仲良くなれたらいいなぁ。

 でも、志賀さんのように癖のある人だったらどうしよう?

 って、そんなことを考えちゃダメだ。

 まだ会ったことなんてないし、話したこともない。

 勝手に決めつけるのはよくない。

 とにかく、試合で結果を残すことだ。

 白焔さんの実力は知っている。ビデオを見まくって、たくさん研究をした。


 だから、大丈夫。

 あっという間にやられるということはないはず。

 向こうもこちらのことを調べてきているし、私のように――あるいはそれ以上に、努力をしているかもしれない。

 自信を持て、私……やるべきことはやってきているはずだ。

 拳を握り締め、欄干の向こう側に突き出してみる。

 すると、なんだか「やるぞ!」という気分になって、さっきの鬱屈したものが体の中からぺりぺりはがれていった。

 病院のベッドで横たわっていた私はもういない。

 今の私は拳で道を切り開いていける。その力がある!

 よし、がんばろう!


「おい、いい加減にしろ。中に入れ、風邪ひいちゃったらどうすんの!」


 そうだった。

 がんばろうと思った矢先これ。

 父さんに叱られ、しぶしぶベランダからリビングに戻った。


 もうちょっとあの気分をかみしめたかったんだけどな。

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