第18話「真剣勝負」

 いざゆかん、決戦のバトルフィールドへ。


 ……なんてね。

 戦う前の緊張をほぐすために、心の中でこんなことをつぶやいてみた。

 格技場。いつもとは雰囲気が違うような感じがしている。格技場の床を照らしている照明の当たり方が違うような……。

 多分、気のせいだけど。

 そう思いたい。

 あと、空気がいつも以上に渇いている。舌が乾いてざらざらしている。


 やっぱり緊張しているね。

 軽く跳んでみると、体がちょっと堅い。

 目の前に私を本気で倒そうとしている志賀さんがいるからか。

 倒すというか、私を殺そうとするだろうね。本気でかかってくるはずだ。

 志賀さんの周囲には水でできた生きているなにか。

 水が蛇のように鎌首をもたげ、グルグルまわっている。「行け」と命令したら、いつでも飛び出せる。そんな感じ。あの水の蛇にとらえられたらひとたまりもないだろう。また、窒息するかも。


「「志賀さんからここを使いたいというのは初めてだな。やる気があるのはいいことだが、あまり無茶はするなよ」」


 何も知らない父さん。

 志賀さんのやる気スイッチが入ったことを喜んでいるようだけど、殺る気のほうだからね。肝心なところで鈍いのは父さんの悪いところだ。そういえば、そういうところが嫌いだってひろくんが言っていたなぁ。懐かしい。

 ……ちょっと鈍いところは真似をしちゃダメだね。


「「カウントを始めるぞ。いくぞ……3、2、1――」」


 身構え、ゼロになる瞬間を待つ。

 だけど、プライドを傷つけられて怒り狂っている志賀さんはゼロという前に攻撃をしてきた。

 ツタのように水が足に絡みついてきた。

 とっさにバク転。

 完全に補足される前に水のツタから抜け出した。

 これが敵を捕らえるパターンAだ。

 何度もこうやって父さんの足を拘束しようとして、失敗してきたのを見てきた。


「避けたな! なら、これはっ!」


 で、増えたのが拘束パターンC。

 地面から水鉄砲を飛ばしてきた。

 八方向からガンガン撃ってくるが、狙いは一つ。私の顔だ。

 両手をクロスさせ、手のひらで鼻と口をガード。

 微弱な振動波を発生させ、飛沫をはじく。

 この状態で、飛んでくる水鉄砲を巧みによける。

 射撃パターンはいつもとは違う、怒り任せに撃ってきているのがわかるけど、取るに足らない。

 日々の戦い、デスフレアとの戦闘が私を強くしてくれる。

 モデルばかりやって、戦わない人に負けるわけがない。それに相棒であるヒーローの動きは熟知している。

 攻撃は次第に激しくなっていくけど、たいして問題ない。

 簡単にパターンが読めてしまう。

 なんだか楽しくなっていく。

 どこまで自分を追い込めるのか。それが知りたくなってきた。結構余裕をもって避けていたけど、なんか楽しくなってきた。だんだんギリギリを、体に水しぶきが当たるか当たらないかで避け始める。


「ちょこまかとぉ!」


 怒る志賀さん。

 パターンBだ。水鉄砲の次は小さな津波が押し寄せてくる。

 でも、問題は全くない。

 水の高さは1.5メートル。それが3つ連なっているだけ。

 両の掌から衝撃波を放ち、10メートルほど飛び上がる。体をひねり、片方の掌から衝撃波を発射。志賀さんに向かって一直線。

 この動きは読まれている。

 志賀さんの前に立つと私に両手をかざした。志賀さんの周囲から大量の水が噴き出しはじめる。

 その水で私を包み込み、窒息させようという魂胆か。

 でも、問題はない。

 距離5メートル。射程範囲内、この距離からなら志賀さんを倒すことは可能だ。散々戦いまくったおかげで、衝撃波の威力コントロールはかなりうまくなったからね。

 拳に力を籠め、衝撃波を放つ。

 放った衝撃波はちいさな津波を割り、志賀さんのみぞおちを打ち抜いた。衝撃が走り、がくんと志賀さんが揺れた。急所を突かれ、志賀さんは糸の切れた人形のように倒れる。横になり、志賀さんはさっき食べたパスタを盛大に吐いた。

 これで勝負は終わりだ。

 志賀さんに言いたいことがあった。

 勝者は敗者に言葉をかけなくてはならないという規定はないけど。とにかく言いたいことがあった。


「1か月間、あなたはなにもしなかった。私はその間、あなたがしなかったことをやっていた。たったそれだけだから」


 それだけ言うと私は志賀さんに背を向けた。

 思いっきり、こぶしを床に打ち付けた音が。相当悔しかったんだろうね。格技場から出るとき、志賀さんの慟哭を聞いた。

 私を恨んでくれていいから、努力をするようになってくれたいいなぁ。

 なんて、ね。

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